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「コリガンの夜明け」②

最初の異変は、露骨な敵意ではなかった。流し始めたポーションが、数日遅れで医師たちのもとに行き渡った頃、キアランが、いつものように街の掲示板を確認して戻ってきた。

「医工業ギルドが、新しい通達を出しましたよ。」


「なにかあったのです?」


紙切れを渡される。そこには、もっともらしい文言が並んでいた。


「近頃、無許可製造の医療用ポーションが街中に流通しているとの報告がある。成分の不明な薬品は、健康被害を招く恐れがあるため、医師および施療院は、医工業ギルド認証品のみを使用すること」


「……予想より、ずいぶん回りくどいですわね」


 露骨な名指しはない。だが、「無許可」「成分不明」という言葉は、明らかにこちらを指している。


 ミルドは、壁にもたれて腕を組んだ。「直接潰しに来る度胸はねぇか。まずは医者側を萎縮させる気だな。実際、数人の医師からは、困惑した声が届きはじめていた。


「質は悪くない。むしろ、今までより安定している。だが、ギルドの目がある。摘発されたら、うちは終わりだ」

 

 だが、彼らの動きは、決定的に遅かった。


 数日後。新聞社から刷り上がった号外が、朝の街に出回る。

「医工業ギルド認証制度の実態――価格高騰と供給独占の構造」


 ばらまいたパンフレットとは違う。この街の人間全員に行き渡る、重みのある文字。

 商業ギルドの名前こそ伏せられているが、他都市との価格差、関税の存在、供給量の歪みが、数字で示されている。


 医工業ギルドの反応は、さらに一段、鈍くなった。彼らは慌てて、慈善施療院への無料配布を始める。

 表向きは「市民の健康を思っての措置」だ。


 だが、量が足りない。配布先も、選別されている。

「……見せかけだな」ミルドが低く言う。「医工業ギルドは、悪党じゃない」


 少し意外で、私は顔を上げる。「……どういう意味ですの?」


「連中はな、腐った仕組みの上で、正しい顔をしてるだけだ。鉱毒の件。流通の独占。価格操作。

誰か一人が悪いんじゃねぇ。長く続いた都合が、人を鈍くした。だからこそ、反撃も鈍い。殴り返す覚悟がない。」


「ええ。でも、これで十分ですわ」私は紙面を指で叩いた。

「困っているから善行をするって自分たちで認めたようなものだものですからね」


 医工業ギルドは、まだ動く。だがそれは、検査の強化だの、規約の再確認だの、どれも後追いで、効果の薄いものばかりになる。


一方で、こちらには「時間」が味方する。医師たちは、静かに気づき始めている。患者たちも、囁き合い始めている。


「高い理由は、本当に原価なのか?」「安くても、ちゃんと効く薬があるらしい」ひびは確実に走った。



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