ブリッドヘン国地方都市コリガン②
朝は教会の鐘の音で目が覚めた。令嬢時代は、メイドがカーテンを開ける音で起きていたものだから、何事かと思った。窓の外はすでに喧騒が聞こえる。
この宿にはお湯が無かったので昨晩は湯浴みができなかった。体がゴワゴワしている。髪もパサパサである。普通の旅人は一体この気持ち悪さにどう対応しているのだろうか。あまりにも気持ち悪かったので、私は自身に洗浄魔法をかけた。結構疲れるが背に腹は変えられない。トイレ事情も初めてみる市井の汚さにはじめは吐き気を催したが、いまでは自分を少し浮かせることでなんとか耐えることができた。
待っていても誰も私の着替えを手伝うものはいないので、自分で服に着替えたあと、一階にある朝食場へ出た。宿屋の看板娘エルナちゃんが元気に私に挨拶をしてくれ、連れの居場所を教えてくれた。
キアランは先に座ってコーヒー片手に新聞を読んでいた。新聞は皇国で5年前作られた活版印刷技術により、急速に普及がすすんだものだ。昨日の飲み過ぎで頭を痛そうにしている。私も痛い。
「キアランさん、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「おはようございます。おかげさまでよく眠れましたよ。久しぶりに飲みました。全く貴方は初対面ですがもう少し気をつけなさいと...」
「はいはい、すいません。キアランさん、なんで新聞を隠されるんですか?」
「あっ、これはですね、貴方はみない方が良いですよ」キアランは隠したが私は少し見えてしまった。昨日の私の断罪劇が一面に載っていたのだ。やはり隣国とはいえども情報の伝達は早いものである。
キアランは、渋々、こんなの気にしなくて良いですからねと言いながら見せてくれた。
私がいかに悪行を果たし、聖女が清廉潔白な身の元、公明正大なお考えで私を追放したこと。本来なら処刑だが、慈悲により追放で済んだこと。教会の威信は保たれたとか、アッシュクロフト家の黒い噂とか、こんなことまで市井の人が知っているのかと私は驚きと同時に情報伝達の速さに感銘を受けた。
.....
さて、昨日のうちに早便で私が訪れることは伝えておいたが、この町の領主であるモーデット伯爵邸の前へ来ていた。
最低限の礼装は保ったつもりだが、モーデット伯爵夫人とは小さい頃に話したばかりである。この街に来たからには挨拶しないといけないと思い早便を送ったが、今朝の新聞を読んで私に良い印象は残ってなかったかもしれないと少し後悔した。
結論、モーデット伯爵夫妻は、私にあまり協力的ではなかった。むしろ門前払いされた。勘当された身の上、当然ではあるが人の縁などそんなものかとも思ったりした。改めてキアランのありがたさが身に沁みた。
少し消沈して、市井へ戻った。キアランがそこにいた。
「早かったですね。伯爵夫妻には会えましたか?あれ!?ロウェナ女史?!どうされましたか...少し落ち着きましょう。」
私は泣き出してしまった。もう私の周りには敵しかいないのではないか。心打ち明けられるのはキアランとか言う怪しい異形頭だけで、今の自分に絶望してしまった。
いつのまにか、昨日いた郊外にいた。キアランが外に連れ出してくれたのかもしれない。だけど私は人目のつかないここで思い切り泣くことができた。
そうして少し気持ちが落ち着いたころ、カブ頭に戻ったキアランはどこの屋台でいつの間にか買ったのか焼き鳥串を差し出した。
「すいません、改めてこれからどうしようと思いまして。昨日まで少し楽観視しすぎていたのかもしれません。モーデット伯爵夫妻の庇護が得られるだろうと思っておりまして。勘当されたのにそれはないですね。でも勘当されたのに父の古い友人の貴方はなぜ私にこんなに色々してくれるんですか」
「それは私が世界の調整者だからですよ。本当は貴方が断罪されたことで世界に歪みが出たから治すために来たのです」
「ふふふっ..面白い冗談ですね。元気付けられますわ」
「いえ、これは...」
「その調整者と言うのは何をするんですか?」
キアランは分厚い書簡とペンを取り出した。どちらも見事な工芸品だと言うことは一目見て分かった。書簡は黒をベースとして表紙は素晴らしい金刺繍が編み込まれており光の加減で刺繍が7色に変化した。ペンはガラスのような透明なものでインクは何色もついておらず七色に反射だけしていた。
「やっと尋ねてくれましたか。調整者はこの紙にかかれていることがこの世界できちんと起きているか確認をし、適宜修正をするものなんですよ。これは簡易版ですが原紙は職場にあります。」
私は泣き腫らした目が一気に覚めた。この方は冗談ではなく、私の断罪事件はあってはならなかったものだと気づいた。
「そんな...もしかして私はキアラン様の邪魔をしてしまったと言うことでしょうか。そうでしたら申し訳ございません!誤って済むものではないかもしれませんが、これしか今はできず」
「確かに貴方の行動は予想外で、歪みも生じてますがね、歪みによって別の良い結果が起こることもあるんですよ。今は休暇中なので貴方の進む道も見たくなったんですよ。ここは私の担当で私しかしらないので職場には内緒です。結果的にうまくいけば良いのです。悪役令嬢がザマァもせずに、故郷を捨てて世界を見るなんて面白くないですか。」
「ええ...そういうものですか。(ザマァとは...)」
「ザマァは気にしないでください。我々の業界言葉です。それにしても迷いすぎですね、好きに生きるが良いですよ。貴方昨日あんなにやりたいことがあるってはしゃいでたじゃないですか」
「市井を見たいとか海を見たいとかですか?宿が思ったより汚くてトイレも汚くて空気も悪いこの環境に嫌気がさしたのです」
「ロウェナさん、我儘言ったらいけないですよ。それも含めて市井だろうに。ほんとに社会経験がないんですねこの箱入り令嬢は。」
キアランが煽ってきたので私はなにおうと返そうと思ったが、思い返すと、これも経験だと思うことにした。そう考えると前向きになった。
私はすくっと立ち上がり、「キアランさん!すいませんでした!そうですよね、色々経験しないといけないですよね、ここで後ろ向きになっても仕方ないですね!まずはお金を稼ぐことから始めます!」
キアランは、その切り替え能力嫌いじゃないですよ、と呆れ返っていた。
グダってますが、彼女が本当の自分の目的を見つけるまで少しお待ちを




