第18話 救出戦―空中戦
工場内の空間を、エアバイクが切り裂くように疾走していた。
操縦席のカイルは、ハンドルを握る手に力を込める。
「くそ……!」
全速力。
狭い通路を縫うように飛び、壁すれすれを抜けていく。
背後から、鋭い声が響いた。
「逃がさないわよ!」
振り返るまでもない。
ハーピーだ。
片手で高速運転しながらも、
ハーピーはレーザーガンでカイルを狙う。
ピシュン、ピシュン、とレーザーが飛ぶ。
カイルは舌打ちしながら、急旋回した。
「うおっ!」
ギリギリでかわす。
バイクが軋み、風圧が全身を叩いた。
「しつこいな……。
どうせ追いかけるなら、もう少しロマンチックにしてくれよ」
軽口を叩きながら、前方を見る。
――隔壁。閉鎖中。
「……っ!」
急ブレーキ。
即座に別の通路へ飛び込む。
だが、ハーピーは離れない。
「どこまで逃げるつもり!?」
「俺って魅力的だからな。
だからってストーカーはいただけないぜ?
ん?あっそうだった。
今の俺はセリナだったな」
壁をぎりぎり通過しながらもカイルは軽口を忘れない。
その時だった。
ガシャン、ガシャン、と金属音が連続して鳴り、
周囲の隔壁が一斉に開く。
「……!?」
驚いたのは、カイルの方だった。
端末が震える。
ソフィからの通信。
『カイルさん、システムを開放しました!
隔壁、全部開いてます!』
「ソフィ……!」
思わず笑みがこぼれる。
「やってくれたな」
アクセルを踏み込む。
エアバイクが一気に加速し、視界が開けた。
天井の高い空間に飛び出す。
「――これだ!」
急上昇。
重力が体を引っ張る。
だが、ハーピーもすぐ後ろについた。
「まだよ!」
速度が、異常に速い。
(……くそ、本気で腕がいい)
カイルは急降下し、床すれすれを滑るように飛ぶ。
コンテナを避け、通路を曲がる。
それでも、距離は縮まらない。
(このままじゃ、いずれ捕まる……)
そのとき、視界の端に文字が入った。
――F-22。
細く、狭い通路。
エアバイクが、ぎりぎり通れるかどうか。
カイルは、ふっと笑った。
「……いいこと思いついた」
端末を操作し、ソフィに繋ぐ。
「ソフィ」
『はい、カイルさん!』
「俺を信じろ。
F-22の隔壁を、三秒後に閉じてくれ」
『え……?
でも、それだとカイルさんも――』
「大丈夫だ。抜けるから」
声を強める。
「三秒後だ。頼む」
短い沈黙の後。
『……分かりました』
覚悟のこもった返事。
カイルは、狭い通路へ向けてバイクを加速させた。
「おい、そっちは――!」
ハーピーが気づく。
「行き止まりよ!」
「へぇ?」
カイルは笑う。
「俺には関係ねぇな」
そのまま突っ込む。
壁が両側に迫る。
だが、迷いはない。
「三……」
前方に隔壁が見える。開いている。
「二……」
さらに加速。
「一……!」
カイルはエアバイクを横倒しにした。
スライド。
「今だ、ソフィ!」
隔壁が閉まり始める。
ガシャン――!
カイルのバイクは、横向きのまま、ぎりぎりで通過した。
「よっしゃあ!」
だが、ハーピーは間に合わない。
「……っ!」
急ブレーキも虚しく、隔壁に激突。
ドンッ――!
シールドが光り、衝撃が弾ける。
「きゃあっ!」
ハーピーの身体が宙を舞い、床に転がった。
カイルはバイクを止め、振り返る。
隔壁の向こうで、ハーピーが倒れている。
「……ふぅ」
大きく息を吐く。
「何とか、なったな……」
端末を操作する。
「ソフィ、隔壁を開けてくれ」
『はい』
隔壁が開く。
カイルはバイクを降り、ハーピーのもとへ歩いた。
「おい、大丈夫か?」
うめき声。
意識はあるらしい。
「シールドがなきゃ即死だな。
……打撲で済んだのは、運が良かった」
ナノキュアを起動する。
微細な光が、彼女の身体を覆い、治療を始めた。
「感謝しろよ。
だからって……ファンになるのは勘弁してくれ。
これ以上モテたら、困るからな」
軽口を叩きながら、オートロープを取り出す。
ロープが自動的に射出され、ハーピーを拘束した。
「――捕縛完了」
カイルはウィッグを外す。
桃色の髪が落ちる。
「あー、やっと取れた」
頭をかきながら苦笑する。
「女装が癖になったらどうするよ。
新しい世界、開いちまったか?」
そのとき、端末が鳴った。
『カイル、状況は?』
ユーリの声だ。
「ああ、こっちは終わった」
「敵のパイロット、確保したぜ」
『了解。広場に集合しろ』
「了解」
カイルはエアバイクに乗り直す。
広場へ向かって、再び空へと飛び出した。
・ ・ ・
「カイルさんは大丈夫でしたか?」
「あぁ、無事だ。
あとは俺達で敵のリーダーを倒せばいい」
「はい!」
その背中を追い、セリナも頷く。
二人は並んで、広場へ続く廊下を駆け抜けていた。
――その時。
前方の空間が、不自然にざわついた。
「……来るぞ」
ユーリが、低く言う。
次の瞬間。
天井付近から、金属音を立てて三機のドローン砲台が飛び出してきた。
「ドローン!?」
マスクの仕掛けだ、と直感する間もない。
ユーリは即座にレーザーガンを構え、引き金を引いた。
ピシュン!
一機目が火花を散らして墜落する。
だが――
二機目に照準を合わせた、その瞬間。
「……しまった!」
引き金が、空を切った。
弾切れ。
(セリナと合流して……気が抜けてた……!)
二機目のドローンが、銃口をこちらへ向ける。
一直線に、ユーリを狙って。
(ユーリ!?)
セリナの胸が、きゅっと締め付けられた。
(私だって……ユーリに銃を教えてもらったんだ!!)
考えるより早く、体が動く。
セリナはレーザーガンを構え、息を止めて引き金を引いた。
ピシュン!
二機目のドローンが、爆ぜるように落ちる。
「セリナ!」
ユーリが、思わず振り返る。
セリナは、ほっと息を吐いた。
手が、少し震えている。
「……よかった……」
だが、安堵は一瞬だった。
「――三機目!」
新たなドローンが、上空から突っ込んでくる。
セリナは続けて撃つ。
だが、焦りからか、照準がわずかにずれる。
「っ……!」
「セリナ、銃を貸せ!」
ユーリの声に、はっとしてセリナは頷き、慌てて銃を差し出す。
受け取ったユーリは、振り向きざまに一瞬で狙いを定めた。
迷いはない。
ピシュン!
三機目のドローンが、撃ち落とされる。
静寂。
ユーリは、ゆっくりとセリナの方を向いた。
そして、少し複雑な表情で、彼女の頬にそっと手を当てる。
「……すまない、セリナ。
守ると言っておきながら、またお前に守られた」
セリナは、一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。
「ユーリ、違うよ」
首を横に振り、優しく言う。
「こういう時はね、
“ありがとう”って言われるのが一番嬉しいの」
ユーリの目を、まっすぐ見つめて。
「私だって、たくさんユーリに守られてる。
……たまには、私も役に立って喜ばれたいんだよ?」
ユーリは、少し驚いたように目を見開き――
それから、真面目な顔で頷いた。
「……セリナ。ありがとう。
本当に、助かった」
あまりにも真っ直ぐなお礼に、
セリナの頬が一気に熱くなる。
「……っ」
自分で言ったことなのに、こんな顔で言われるなんて。
セリナは視線を逸らし、誤魔化すように小さく笑った。
その時。
撃ち落とされたドローンの残骸に取り付けられた表示板が、赤く点滅し始める。
しかも、どんどん速く。
「……まずい!」
ユーリの表情が変わる。
「自爆だ!走れ、セリナ!!」
ユーリは咄嗟にセリナの手を掴き、引いて走り出した。
次の瞬間。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
三台のドローン砲台が、立て続けに爆発する。
爆風と煙が、廊下を覆い尽くした。
「ごほっ……!」
煙に巻かれ、二人は走りながら咳き込む。
視界が、真っ白になる。
やがて――
煙が、少しずつ晴れていく。
ユーリは、息を整えながら前を見た。
そして――
目を見開く。
そこには。
咳き込みながら立っている、セリナが――
二人、いた。
カイルの見せ場から、ユーリとセリナの甘いシーン、そして不穏な引き。
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