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第49話 千の想いを重ねて君へ

きまぐれ更新続けてますが今見たら変なところで更新止めてました……。すみません

「俺たちのバンド名は《ミルフィーユ》にしようと思う。どうかな?」


 ミルフィーユ。それが最終的に候補を絞った自分のバンド名だった。


 みんなの頭に疑問符が浮かぶ。まぁこうなるだろうとは思ってたけど……。


「なんか、かわいい名前だね……?」


 明音がなんと言っていいのかわからないというような苦笑いを浮かべて感想を述べる。


「まぁでもさ、あのバンドも同じような名前だったよね。」


 意外にも肯定的な反応を見せたのは橘さんだった。


「あのバンド……ってどのバンド?」


「あれ、伝わらない?ケーキの名前のバンドっていったら一番に思いつくことない?昨日明音ちゃんも歌ってたじゃん。」


 紡ちゃんの疑問に対する橘さんの返答を聞いて明音が目を大きく見開き、あっと声を出す。


「そっか!ブッシュ・ド・ノエルもケーキの名前だ……!そういうことなの、夕輝?」


「まぁそれもひとつかな。俺とみんなを繋いでくれたのはブッシュ・ド・ノエルの歌だからね。」


 思えばこのバンドはブッシュ・ド・ノエルの歌と共にあった。明音がブッシュ・ド・ノエルの曲を歌うのを聞いて俺と紡ちゃんが。来途と橘さんの心を動かすために明音が歌ったのもブッシュ・ド・ノエルの曲だった。

 ブッシュ・ド・ノエルはこのバンドにとって特別な存在であり同世代や少し上の世代にとっては伝説的な存在で憧れの最高峰にいる。


 そして、自分にとってはそれ以上に特別な存在。だからブッシュ・ド・ノエルになぞらえてケーキの名前から取ろうと思った。それがこのバンド名を思いついた最初の理由。


「それだけじゃないんだろ?全部教えてくれ、早く。」


 来途が待ちきれないとばかりに解説を急かす。

 もちろん、来途の言うとおりミルフィーユに決めたのはケーキの名前にしたかったからと言うだけではない。カバンの中からノートを取り出しバンド名を考えていた時のページを開いてみんなに見せる。


「ここなんだけど、ミルフィーユを表記するとこうやって書こうと思う。」


 とノートに綴った文を示す。

 そこには「Mille feelings to you」と書いてある。


「えーっと、どういう意味?」


「……黛先輩、出番!」


 明音と橘さんが頭に疑問符を浮かべて、橘さんが肘でグイッと黛先輩を小突く。黛先輩はウッと呻き声を上げてから頭を掻きながら見解を示す。


「うーん……。Mille のところは英語じゃなさそうだからわかんないけどfeelings to youは感情をあなたに……って感じかな。意訳すると、なんらかの想いをあなたへ〜みたいな感じ?」


 黛先輩の見解に来途が補足の見解を述べる。


「Mille は多分ミルフィーユのミルだろ。ミルフィーユは"千の葉"を意味するはず。黛先輩の意見と合わせると『千の想いをあなたへ』ってとこか。どうだ、夕輝?」


 来途に答え合わせを求められたので、そらに首を縦に振り解説を始める。


「意味も由来も大体正解。ブッシュ・ド・ノエルを意識してミルフィーユ。意味をもう少し意訳するとしたら『幾千の想いを重ねて貴女へ……』とかそんな感じかな。ミルフィーユの層が重なるってニュアンスも含めたいんだ。俺だけじゃなくて、みんなの力を重ねて行きたいから。」


 口頭で発表した時とは打って変わって真剣な顔をしてみんながこちらに注目しているのがなんとも気恥しくなってきた。


「ま、まぁこれをミルフィーユなんて発音する人はいないけどね!そこはまぁバンド名だから半分造語みたいな感じで無理やり読んでもらうしかないかな。そもそもMilleだけフランス語だし。」


取り繕うようについついおどけてしまったけどみんなは噛み締めるように頭の中でバンド名を反芻しているようだった。


「ミルフィーユ……うん、うん!凄くいい名前!よし、私たちは、ミルフィーユ!!」


 明音はバンド名がいたく気に入ったようで立ち上がり腕を振り上げる。他のみんなからも反対意見は飛んでこなかった。


 こうして俺たちのバンドは正式に《ミルフィーユ》と名乗ることが決定した。

 バンド名が決まり一段落ついたことで自然とみんなの肩の力が抜け取り留めのない会話をいくつも重ねた。


 ミルフィーユのこれまでの流れとか、来途の小説やブッシュ・ド・ノエルの話、橘さんと黛先輩の出会いの話や普通に学校生活の話なんかも……。本当にただ友達としてみんなでいろいろな話をした。


 そのうちに次第に話はミルフィーユのこれからの方針について舵を取り始めた。


「そうそう、それでこれからなんだけど……。」


 ちょうど良かったので自分から直近の計画を打ち明ける。


「橘さんと黛先輩は近いうちにライブの予定とか押さえてないかな?ないならないでいいんだけど……。」


 二人に話を振ると橘さんが嫌なことを思い出したように少し不機嫌そうな顔をして答える。


「そりゃあ……あるけど。この時期だしできるだけライブは増やしておきたいしとにかく早く枠取らないとどこも枠がパンパンだからね。……どっかのヘリウム頭のせいで全部パーだけど!!」


 ヘリウム頭……。軽井くんはとうとう軽すぎて頭にヘリウムを詰められてしまった。一枚噛んでいるどころか裏で手を回していた自分的には笑うに笑えなかったけど橘さんに怒りの矛先を向けられないようにそっと流し、話を進める。


「その枠なんだけどさ、ミルフィーユに譲ってもらえないかな?」


 橘さんに提案すると困ったような顔を向けられる。


「いや、それは……譲れるなら私だって譲ってあげたいけど無理だよ。っていうかそんなことしたら私とミルフィーユに繋がりがあるってバラすようなものじゃない?」


 橘さんの言うことは正しい。そもそも枠を押えておいて直前で別のバンドに譲ります、なんて場所取りみたいなものだ。そんなのが認められたらしたら立場や上下関係を利用して枠を確保する行為が横行してしまう。


「普通にやればね。だからさ、偶然を装うんだよ。もしギリギリでキャンセルが出たら開催側は穴埋めを考えないといけないよね。

 まぁここらだったら探せばいくらでもいるだろうけど、同じタイミングで都合よくダメ元で出演枠を交渉しに来たバンドがいたら?


探す手間も省けるわけだし簡易的なオーディションくらいで実力次第で優先的に枠をもらえると思わない?」


 名案と思って橘さんに構想を語って聞かせるとマジかよコイツ……と言わんばかりの引きつった顔をされる。人をそんな外道みたいな扱いしないでよ……。


「まぁ、有り得る……かもね。はは……。」


 ねぇ、そんな顔しないでって、


 そういうわけで、橘さんと黛先輩の好感度をわずかに下げる代償は払ったけど作戦は採用されることになった。


 ミルフィーユ初陣の時は近い。

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