第48話 星座の最終要件
カクヨムの方のストックが付きちゃいました……。気合い入れて続き書かなきゃ
「へぇ、なかなかいいとこじゃない。」
「いいなぁ……。俺もいつかこんなマンションで暮らせたらな……。」
昨晩の出来事から一夜明けて早速活動拠点になっている自宅に橘さんと黛先輩を招いた。今日は拠点で大事な決定をすることになっている。
明音たちと同じように衝撃を受ける黛先輩と一人暮らしならまぁこれくらいがだよね、と平然とする橘さん。自分で言うのもなんだけど、もしかして橘さんは結構なお嬢様なのだろうか。さすがに自分でもこのマンションの一室が高校生の一人暮らしの一般だとは思わない。
それはさておき2人を部屋の前まで連れて進む。中ではすでに一足先に拠点に向かった3人が待っている。
昨日は結局正体は明かさなかったから2人にとっては初顔合わせも兼ねている。
「中にもういるんだよね……。昨日の歌の子が。」
橘さんの顔には僅かに緊張の色が滲んでいた。でも玄関の前でモタモタされても困るから橘さんの緊張を無視してあっさりドアを開く。
「連れて来たよ、みんな。」
中に入り呼びかけると部屋の奥の方からドタドタと騒がしく明音が走ってくる。
「おかえりー!ようこそ私たちのアジトへ!!ヒビキちゃん久しぶり〜!黛先輩もよろしくね!」
流れるような動きで明音が2人を歓迎し強制的に一方的な握手を交わしにこにこと笑顔を浮かべる。
「なっ……!明音、ちゃん……??!?」
思わぬ正体に橘さんがフリーズする。その横で黛先輩は頬を染め明音に見蕩れている。
「明音ちゃん、そんなに急に迫ったら2人ともビックリしちゃうよ。はじめまして橘さん、黛先輩。2年A組明野です。よろしくお願いしますね。」
明音に遅れて紡ちゃんと来途が歩いて来る。明音とは違ってお淑やかに出迎え微笑む紡ちゃんに黛先輩が「かわ……」と何か言いかけるのを来途が鋭い眼光で睨みつける。黛先輩が怯えてヒッと息を呑む。
来途、お前そんなやつだっけ……?
「とりあえずみんな奥に行こうか。わざわざ拠点まで来たんだから立ち話はやめよう。」
早くも混沌としつつある状況を収めるためにも全員を部屋へ誘導する。前から騒がしくなっていた自宅はこれからもっと騒がしくなりそうだ。
そんなこんなで全員でリビングのローテーブルを囲んで座る。紡ちゃんが手馴れた様子で全員分のお茶を用意してくれる。
以前は自分の分のカップがいくつかしかなかったはずなのに全然知らないカップがたくさん増えている。もうこれって明音たちの家なんじゃないかな?
「それじゃあ、とりあえずみんな顔合わせってことで各々の自己紹介をしよう。まずは俺から。2年A暮橋夕輝です。一応リーダー?みたいな感じでやってるかな……。でも特に何か特別なことができるわけじゃないからみんなの力を貸してもらってなんとかやってます。改めてよろしくね。」
簡単に自己紹介をして明音に目線で合図をする。
「はい!2年A組朝凪明音でーす!私は夕輝みたいに作戦立てたり先のこと考えたりはあんまり得意じゃないからとにかく歌う役!昨日歌ってたのも私だよ!はい、次は紡ちゃん〜」
「は、はい!えっと、2人とおんなじ2年A組明野紡です……!私は明音ちゃんみたいに歌えるわけでもないし来途くんみたいに素敵な言葉も浮かばないし夕輝くんみたいにアイデアもないけど、みんなのお手伝いをさせてもらってます。だから、二人も手伝って欲しいことや困ったことがあったら声をかけてね。」
紡ちゃんは控えめに笑って締めると来途にパスを回して来途がいつも通りの調子で自己紹介を始める。
「2年C組物部来途。一応作詞をしろって言われてる。言われてるだけでこれまではずっと小説を書いてただけで作詞なんてどれだけできるかは正直わかりません。……でも、やるって決めたし夕輝に任せるって言ったからやれるだけやるつもり、ではある。」
ダウナーに見えてやる気十分な来途の挨拶を聞き届けてからそのまま橘さんに目線を移す。
橘さんはよし、と小さく気合を入れてから少し頬を上気させて自己紹介をする。
「2年D組橘響葵!昨日ライブに来てくれたみたいだから知ってると思うけどドラムなら誰にも負けない。それから作曲もしてるからきっと力になれると思う。よろしく!!」
勢いよく名乗りをあげるとそのままの勢いで「はい、次!」と黛先輩を橘さんが指名する。なんとなく橘さんと黛先輩の関係が見えてきた気がする。
「あー、はい。えっと、黛です。3年の黛結弦……。ハナちゃんと一緒にバンドやってて今はベースです。まぁ、弦楽器が好きかな。そんな感じで、よろしくね。」
こうしてお互いに簡単な自己紹介が終わったところで本題を切り出す。各々のもっと詳しいことはこれからいくらだって知っていけばいい。今は早急に決めなくてはならないことがある。
「うんうん、じゃあみんなよろしく。で、早速なんだけど今日は重大なお話があります。みんなに集まってもらったのもその為です。」
みんなの顔が強ばる。
「重大なお話……?」
緊張した面持ちで明音が呟く。
「そう、俺たちのバンドは大きな問題に直面しているんだ。」
「勿体ぶらずに早く言えよ。」
来途が急かす。一呼吸、大きく深呼吸してみんなに宣告する。
「俺たちのバンドにはまだ名前がない。……これは由々しき事態だよ。」
俺が重々しく切り出すとみんなが呆れたような顔で息を吐き出す。
え、なんで……?重大なことだよね?
頬を膨らませ不満気な顔をした明音に肩をどつかれる。痛い!痛たい、やめて!
「夕輝がそういう顔したら本当に緊張するからやめて!!」
「で、でも大事でしょ?名前がないとライブにも出られないし知名度も上がらない……。」
明音に肩をバシバシと叩かれながら弁明すると紡ちゃんが同意してくれる。明音もそれを聞いて手を止める。
ありがとう、天使みたいに優しい紡ちゃん……。
「言われてみたら確かにそうかもね……。明音ちゃんが歌うことを中心に考えてたから名前とかは考えたことなかったかも。」
来途が紡ちゃんに同意しつつ尋ねる。
「そういえば橘さんたちはなんて名前で活動してたんだ?昨日は夕輝に言われるまま着いて行ったからバンド名は気にしてなかった。」
「あー、そうなんだ?私たちのバンド名は《call me, please》だよ。黛先輩の発案でバンド始めてからはボーカルが入れ替わってもずっとこの名前でやってきたんだ。」
「へぇ……。ちなみに、どういう経緯で?」
来途が興味深そうに黛先輩に尋ねる。名付けや込められた意味は来途にとって重要なものなのだろう。
「えっと、初めてバンド組んだ時にハナちゃんが音楽を続けてる理由を教えてくれたんだ。探してる子がいる。音楽を届けたい子がいるって。だからその子に声が届くように……みたいな感じかな。《私を呼んで!》って。コールドスリープみたいで語感もいいでしょ?」
来途は頷きながら空を仰ぎ楽しげな顔を浮かべている。来途的にはアリということだろう。黛先輩もその様子を見てほっと胸を撫で下ろしていた。
「で、どうするの?」
明音が俺にそう投げ掛ける。
「へ?」
予想外のパスに変な声が出る。
「へ?じゃなくて。どうせもう考えてあるんでしょ、夕輝のことだから。」
どうにも、明音にはお見通しだったみたいだ。実はバンドを組もうという話になってからずっと考えていた。そしてもう候補もひとつに絞った。
「まぁ、ね。でも、いいの?俺が決めてさ。みんなの意見とか……」
「いいよ。だって夕輝のバンドでしょ?メンバー集めたのもみんなを見つけたのも全部夕輝なんだから夕輝が決めなよ。」
当然でしょ?とばかりに明音が答える。みんなの顔を見渡すと誰も異論はなさそうだった。名前にこだわりそうな来途までも早く聞かせろとウズウズして命名を待っている。
「……そっか。うん、ありがとう。」
みんなに感謝を口にしてバンド名を発表する。




