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第43話 足元に投げつけるような布石

更新不定期ですみません

カクヨムには頑張って毎日投稿してるのですが体調不良やら忙しいやらで……。

 ライブ終わりの混雑したライブハウスを人混みに押されるようにして脱出する。口々にライブの感想だとかこの後の予定だとかを話し合うざわざわとした喧騒の中で明音は少し複雑な感情の見える顔をしていた。


「どうだった?」


 そんな明音に感想を尋ねる。明音の表情の理由は多分さっきのライブ、橘さんのバンドのことだろう。


「すごかったよ!やっぱりヒビキちゃんは天才児って言われてただけあって演奏が始まった瞬間に雰囲気が変わって夢中になっちゃった。どうやったらあんなに凄い演奏になるのかな?ベースの人もちゃんとヒビキちゃんについていけてて目立つわけじゃないけど仕事人って感じだったかな。」


 明音は興奮した様子で感想を話し始める。内容についても概ね同意だった。


「ただ……。」


 明音は表情を少し曇らせて続ける。


「あれ?って思いもしたかな。始まった瞬間のワクワクが大きかったからもっと凄いものが見られるって期待しすぎちゃったのかも……。悪くはなかったんだけどね?」


 そう。明音が言った通り、あのバンドの感想としては"拍子抜け"だった。始まった瞬間の期待値をその後超えることがない全体として悪くはないが期待値が大きすぎて本来の実力以上に過小評価されてしまう。

 それがあのバンドの弱点であり、そして自分にとっては最も都合の良いポイントだった。この程度の評価に収まることをリサーチから予想していたしむしろ想定通りで俺は安心していた。


「その原因はなんだと思う?」


「え?あぁ……。それは、えっと…………。」


「歌、だよね?」


 答えづらそうにする明音の後ろから紡ちゃんが回答する。


「そう。問題は歌、つまりボーカルにあるんだ。今のボーカルは2年生の軽井隼雄(かるいはやお)くん。あのバンドに参加したのは今年の5月から。その前は別の男子生徒が3ヶ月くらい。そのさらに前は女子生徒が半年……。」


「そんなに頻繁にメンバーが入れ替わってるのか?そこまで頻繁に変わるんだったらむしろ原因があるのは橘さんの方な気すらしてくるな。」


 来途が訝しむ。その気持ちも分からないではないし橘さんに理由がないというわけでもないけど……。


「うーん、入れ替わってるのはボーカル兼ギターだけみたいなんだよね。ベースは3年の黛先輩で橘さんが入学した時から組んでるらしいよ。」


「へー、確かにさっきも言ったけどベースは安定してる感じだったもんね。でも、なんでボーカルはそんなに入れ替わっちゃうのかな?」


 明音が不思議そうな顔をする。自分はさっきのライブの中でボーカルがなぜ次々と交代してしまったのかすぐにわかった。ただ、その答えは明音が自力で辿り着くことはないかもしれない。


「……多分さ、ついていけなかったんだよ。あまりにも実力が離れすぎてたり埋めようもない差を感じると自信のある人や頑張った人ほど案外簡単に折れちゃうんだよ。」


 自分にとっては数え切れないほど経験したことだ。そこにいる来途の書いた小説に打ちのめされて筆を折ったこともある。

 わかったようなわからないような顔をする明音を横目に橘さんの前に打ちのめされた人たちの心中を察して天を仰いだ。空はもう(とばり)に覆われていた。


「まぁ、それだけが理由とは限らないけどね。」


 そう言って話を切り上げるとみんなを伴ってライブハウスの裏口側へ移動して機が熟するのを待った。

 何してるの?とみんなを代表して尋ねる明音にもしかしたら偶然良いことがあるかも、とだけ言ってから50分程が経った。

 ライブの観客はとうに捌けて裏口からは橘さんのバンド以外みんなが出ていってしばらくした時、3人の視線がそろそろ痛く感じてきた頃だった。


「そうだ。明音、これ付けてて。」


 明音に鼻から上を覆う形の仮面を手渡す。以前から紡ちゃんに市販品の仮面を加工してもらっていたものだ。


 押し付けられた明音が戸惑いを見せつつ仮面を怪しむようにいろいろな角度から観察を始めた、その時。

 突然ライブハウスの裏口の奥からくぐもった怒声が響き、勢いよく裏口のドアが開け放たれチャラそうな男子生徒が息を荒くして飛び出し走り去っていく。

 しばらくするとその後を追うようにして見るからに影の薄い長身の男子生徒が飛び出す。


 計画通りだ。思った通りに事が運んでる。

 思わず顔がにやけてしまう。布石が機能したに違いない。


「うわ、夕輝なにその顔……。」


「悪辣な顔だな。」


「悪いことしそうな顔だね……。」


 三者三様にあんまりな感想を漏らす。

 ええい、うるさい!とにかく回ってきたチャンスを逃す手はない。チャンスの神様には前髪しかないんだ。


 ライブハウスの裏口で困った様子で大きく溜息を漏らす男子生徒に急接近し声を掛ける。


「黛先輩ですね?」


「え?……ああ、そうだけど君は?」


「俺は2年の暮橋です。それより今困ってませんか?困ってますよね。俺なら解決できます。とうですか?」


 付け入る隙は今とばかりに黛先輩に畳み掛ける。畳み掛けられた黛先輩は困惑を通り越してその表情に怯えすら見える。


「えぇ、何?宗教勧誘か何か……?どうですかって聞かれても、こっちの話だから……。」


 しかし構わずさらに畳み掛ける。このまま黛先輩を押し切って橘さんのとこまで案内してもらおう。


「じゃあ悩みを当ててみせます。あなたたちのバンドのボーカルがドラムの橘さんに言い寄った。橘さんはそれに激怒しボーカルは逃げ出した。しかしボーカルがいなければ文化祭の参戦は厳しい。ボーカルを探そうにもこの時期にはフリーで実力のあるボーカルなんてそうそういない。でも、俺はボーカルを用意できます。それもカリスマに溢れていて誰よりもスター性のある最上級のボーカルを。」


黛先輩の瞳が揺らいだ。


「い、いやいやいやそんなこと言われたって信じられないって!」


「大丈夫です。信じてもらわなくても証明しますから。おーい!」


 少し離れたところで成り行きを見守っていた3人に声を掛けると3人はなんとなく状況を察したらしく駆け足で近寄ってくる。

 怪しげな仮面で顔を隠した明音はどこか神秘的にさえ思え、薄暗闇とライブハウスに灯る明かりが妖艶な雰囲気を際立たせる。

 顔の上半分を隠してさえも隠しきれない整った顔に持ち前の凛とした存在感に黛先輩は息を呑んで言葉を失っていた。


「彼女の歌を聴いてください。それだけで構いません。」


 不敵な笑みを浮かべ黛先輩に決断を迫る。

 

「……わかった。中で聴くよ。」


 黛先輩はしばし逡巡した様子を見せたけど観念したように俺たちをライブハウスの中に招いた。

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