第42話 あのバンド
久しぶりの更新です。ストックギリギリなのです。
お盆なんてない人も世の中にはいるんだ……!
翌日、みんなで放課後に学校から直接橘さんの所属するライブが出演予定のライブハウスへ向かう。
「へぇ……意外と同じ方向に向かう人たちって多いんだね?」
明音が生徒とすれ違う度に挨拶を交わしながらそんな疑問を口にする。
「そうだね。聞き込みしてる時も音楽人口かなり多かったし学校側も結構奨励してるみたいだからね。この辺りは地域ぐるみで文化的な活動支援してるし全国的にも有名だからね。」
初めて明音と紡ちゃんを家に招いた時にも触れたようにこの学園、およびこの地域は文化祭を中心に非常に文化系の催しや活動に力を入れている。そして同時にそれらを発展させる為の地盤作りもしっかりしている。
どれだけ大きく盛大な催しを起こそうと参加者が多くなくては意味がない。その為この辺りではその地盤の中核をなす学生への制度的な補助や環境の提供がされている。
今向かっているライブハウスも出る側にも見る側にも大幅な割引や優遇があり他所よりもずっと学生でも立ち入りやすい場所になっているらしい。
「あとはやっぱりみんな文化祭に備え始めてるんだろうな。」
「そうだね。文化祭の……特にブルームアウェイのオーディションには知名度や実績も必要だから参加する人たちは今のうちからファンを増やしておきたくて、観客側は未来のスーパースターに目をつけておきたいんだよ。」
後ろから歩幅を合わせて並んで歩いていた来途と紡ちゃんが補足するように会話に混ざる。
「ブルームアウェイって学生だけの思い出じゃなくてそこからプロデビューしちゃうような人も少なくないの。だから有名になる前から応援してたらプロになった時自慢できちゃう……?みたいな人も結構いるんだ。」
「そうなんだ。じゃあ紡ちゃんもライブハウス行ったことあるの?」
明音が尋ねると紡ちゃんは少し困ったような顔をして笑った。
「えへへ、実は初めてなの……。演劇ならたまに見に行ったりしてたんだけど音楽の方はあんまり気にしたことなかったんだ。」
「じゃあ、みんな初体験だね。ほら、着いたよ。」
みんなと話しているうちにライブハウスに着いた。入ってみるとすでにそこそこの集客があり賑わっていた。
「思ったより安くついたな。こういうところはもっと料金が高いのかと思ってたけど。」
入場料とは別にワンドリンク制なのでドリンクを注文して受け取りある程度スペースのある場所を探して移動したところで来途が呟く。
「学割が効いてるからね。他のとこなら普通倍くらいはするよ。本当に変わった地域だよね。」
そんな話をしていると舞台の照明がつき自然と注目が集まってざわざわとした音が静まる。
「始まるみたいだね。」
「なんか私ドキドキしてきちゃった……。私より歌が上手い人もいるかな?」
さすがにそれはいないんじゃないかな。演奏はともかく正直言って歌に関しては今日は全く期待していない。明音とまともにやり合える相手なんて自分は一人しか知らない。
「夕輝くん、橘さんはどれくらいの出番なの?」
「たしか最後から二番目だったかな?今日は5組出るはずだからまだ1時間半くらい後だね。」
「思ったより先だな。少し早すぎたくらい……。」
来途は本命以外にはあまり興味がなさそうだった。少し冷たいようにも思うけど実際のところ実力は不明でピンキリの学生ライブが続くわけで多くの人は同じような目を向けているはず。ここにいる観客の大多数はこれから出てくるバンドを見定めようと来ている。
もちろん楽しむために来ていてオープンな心持ちの人もいる。例えばすぐ横で鼻息を荒くしている明音とか。
中立よりもむしろ批判的に厳しい目で見る人が多くいる中で力量を示して味方につける。誰かの前に立ちパフォーマンスをするとはそういうことだ。自分たちもこれから活動を広げていくに当たって常にそういう目に晒されながら戦っていかなくてはならない。今日はその雰囲気を感じることもひとつの目的だった。
「みんな、俺達も次からは向こう側にたって今の雰囲気を浴びながら駆け上って行くんだよ。今日はそのことも考えながら楽しもう。」
そう声を掛けると3人が少し緊張した面持ちでステージを見つめたところでトップバッターが出てきた。ライブが始まる。
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「あ、ようやく次が橘さんのバンドだね。」
紡ちゃんが声を上げる。
ようやく。紡ちゃんから悪意なく出たそんな言葉がここまでのライブを表していた。ここまでの3組はまぁ、なんとも言えない……一般的な軽音部と言われて想像するくらいの感じだった。聞けなくはないけど聞きに行くほどでもない平凡なバンド。どちらかというとキリの方だった。
それでもこの場の雰囲気がそうさせるのか、会場としてはそれなりの盛り上がりを見せて楽しげな雰囲気にはなっていた。しかしあと一押し。爆発に至る着火剤がほしいところだった。
ステージでは次のバンド……つまり橘さんのいるバンドが姿を現しセッティングを始める。
小柄な紡ちゃんとやや平均よりは背の高い明音の中間くらいの背丈のポニーテールで闊達そうな強気さが伺える顔立ちをした女の子がドラムのセッティングをしている。
彼女が件の橘響葵。元、天才ドラマーだ。
自然と会場もざわめきが大きくなる。一般層の間では忘れられた名前でも、こと音楽の現場においては未だその名は忘れられてはいないようだった。
ドラムかつリーダーポジションの橘さんの他に2人。長身細身で影の薄いベースを携えた男子生徒といかにもという感じの明るい髪色の軽薄そうなギターボーカルの男子生徒の3人組バンドだ。
「いくよっ!!」
橘さんが大きく声を上げてスティックを振り下ろすと空気が震え会場を一瞬で呑み込んだ。先程までの演奏とはまるで違う粒だった生きた音楽が生まれ一瞬遅れて爆発的な歓声が沸き上がりボルテージは最高潮に達した。
橘さんとそれに追随するベースから生まれるリズムがこの空間を完全に支配している。
「……はは、本物だ。見つけたっ!」
ふと腕をさすると鳥肌が立っていた。




