第41話 バンド乗っ取り計画
久しぶりのラタナコーシン朝です。
しばらくはカクヨムが追い付くまで気まぐれ更新です
3人に情報収集に時間がほしいと言ってから約束の3日が過ぎた。
自分は情報収集の為に学校を始めとしていろいろなところを駆け回り裏付けを行い目星をつけ、と忙しくしていて自宅にいる時間は夜になってからと朝学校へ行くまでのわずかな時間しかなかった。
その間にも3人は俺の家で活動をしていて数日まで最低限の物しかなかった部屋はすっかり見覚えのない物で賑わっていた。
「悪いな夕輝。明音が無遠慮に私物持ち込みまくったんだ。」
「む、無遠慮じゃないよ……。さすがに持ち込むものは考えてるって。教科書とかカバンとか着替えは持ってきてないし。」
「さすがにお泊まりの用意はまずいんじゃないかな……。でも、私もちょっと自分の物持ってきちゃった。ごめんね夕輝くん。」
自分は違うとでも言いたげな態度を取る来途も実際には漫画や辞書など私物を持ち込んでいる。明音に至っては自分専用のクッションを設置してナワバリを形成している。
「全然いいよ。せっかく広い部屋貸してもらってるのに何もなくて寂しかったくらいだし。」
容赦ないなと思う反面、物に溢れた部屋はみんなが心を開いてくれている証のようでなんだか暖かく感じて悪い気はしなかった。
「あんまりものが増えすぎて居住スペースがなくなるのは困るけど、まぁ好きにやってくれていいよ。じゃあ本題に移るよ。」
本題、つまり新しいメンバーとバンドについての方針と作戦の報告だ。
「まずメンバーなんだけど、実は作曲できそうな人も目星は付けてたんだ。この学校の人でそれなりに有名……。というか、有名だった人かな。」
「有名"だった"……?今はその人有名じゃないの?」
明音が疑問を口にする。
「まぁ、知ってる人は知ってるよ。特に音楽やってる人ならこの辺りの地域で育った同世代なら知ってる人が多いと思う。紡ちゃんならもしかしたら知ってるかもね。」
「え、私?……私が知ってるかもってことは何か実績があるってことだよね。有名な人じゃなくて有名だった人、でこの学校の生徒で今はそこまで有名じゃない……。音楽関係で……。」
紡ちゃんは俺の出したクイズに頭を悩ませ始めたけどイマイチ浮かばないみたいだった。特に答えを引っ張る必要はないけどちょっとした遊び心で紡ちゃんから答えを引き出したくなってヒントを出す。
「そう、大体5年くらい前かな。その人がいればバンドのメンバー問題も半分解決する。」
「5年前ってことは6年生か中学一年生くらい……。バンドの問題も解決なら…………ドラムか、ベース?あ、わかった、かも。」
明音は蚊帳の外にされてしまい仕方ないとばかりに紡ちゃんを応援している。来途は真剣な表情の紡ちゃんを見詰めている。この男……。
「その人って、もしかして橘響葵さん?」
「そう、大正解。橘さんを勧誘しに行こう。」
二人だけで新メンバーの人物像を共有していると明音が説明を求めて割って入る。
「え、響葵ちゃん?あの子ってそんなに有名人だったの?」
「うーん、たしかに夕輝くんの言い方が近いかな。橘さんは小学生の頃すっごく有名人だったんだ。この辺りってうちの学校の文化祭を中心に文化系の活動に物凄く力を入れてるでしょ?橘さんは小中学生向けの音楽クラブ……スクールっていうんだけど、スクールでもう一人の女の子と組んでコンテストを総ナメにしてたんだ。」
「へー、すっごい……。天才少女って感じだね。」
橘響葵の話を聞いて明音が目を丸くする。
「じゃあ、響葵ちゃんが仲間になってくれたらもう無敵だね!」
不敵な顔をする明音と対照的に紡ちゃんは顔を曇らせる。そう、この話には少しだけ続きがある。
「でも、橘さんは中学生になってからはあんまり結果を残してなかったみたい。噂だと橘さんと一緒に組んでた子が音楽を辞めちゃったとかで……。」
橘響葵が有名だったのは小学校まで。その後は音楽を続けていても表舞台にはあまり顔を出さなくなった。今は彼女の名が話題に登ることはほとんどない。
「でも、橘響葵はまだ音楽を続けている。ピッタリだと思わない?実力が確かで音楽を今も続けていて素性を隠しても正体がバレにくいドラマー。ぜひとも力を貸してもらいたい。」
そんな青写真を描いていると静観していた来途が待ったをかける。
「でもその橘さんは音楽を続けてるんだろ?じゃあ文化祭が見えてくるこの時期にフリーなはずないと思う。それに作曲は本当にできるのか?俺の時みたいに、できそうって意味で言ってるのか?」
そう。実は今は時期が悪く8月には文化祭のオーディションがある。ブルームアウェイにも繋がる文化祭のオーディションはこの地域で音楽を志す学生にとっては千載一遇のチャンスであり正念場。大抵はオーディションに向けてすでにバンドを組んでいる。
「たしかに橘さんは今バンドを組んでるって情報は手に入れた。明日ライブがあるところまでわかってる。そしてそのバンドで橘さんは作曲を担当してる。」
俺が集めてきた情報を聞いて3人の顔が険しくなる。この時期にバンドを組んでいて文化祭を目指していないわけがない。今のバンドを捨てて力を貸して!なんて上手くいくはずがない。
「でも、チャンスはある。そのための仕込みもそろそろ聞いてくるはず。計画通りなら明日の橘さんライブの後に突破口が開けると思う。」
手をこまねいていてもチャンスはやってこない。チャンスの神様には前髪しかなくて、準備をして自ら前髪を掴もうとしなければならない。そのことはこの数ヶ月で確かに学んだ。
「明日、みんなで橘さんのライブに行こう。」
ヒリついた興奮を滲ませながらみんなに伝えると明音が苦い顔をしていた。
「悪い顔してる……。ねぇ、何したの?」
明音が訝しんだ目で尋ねる。
「せっかく作った人脈を有効活用しただけだよ。何が起こるかは明日になってみないとわからない。ただ、偶然良いことがあるかもね?」




