表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/55

第37話 私にできること

「……私、行ってもいいのかな?」


 屋上のドアの前で声をひそめて夕輝に問い掛ける。


 ドアの向こうでは紡ちゃんとライトくんが久しぶりの夕陽を見ているはずで、聞けば2人は屋上の夕陽を見る約束をしていてようやくその時が来たってことで……。

 私ってなんだか2人の間に割って入る空気の読めない人みたいじゃない?


 それでなくても、私は今回のことに関して自分を部外者だと思ってしまっている。

 事の発端は夕輝がこの学校にHiKaRi novelがいると知ったから。元からHiKaRi novelを知っていた夕輝はその正体を突き止めて力を貸してもらおうとした。捜索の中で紡ちゃんがライトくんを見付けた。

 二人がそれぞれにライトくんに惹かれてぶつかったりすれ違ったりしながら今ようやくその手を掴もうとしてる。


 でも、私は?

私はライトくんを知らない。ライトくんも私を知らない。それなのに私が出ていって何を伝えればいいんだろう。


「私、ライトくんのこと何も知らない……。」


「それでいいんだよ。」


 夕輝は屋上に耳を澄ませながら横目に返す。


「明音の一番凄いところはみんなの懐に入っていけるところ。通りすがる人だって惹き付けてしまう。それは誰にでもできることじゃないし努力で手に入れられるものでもない。」


 予想外に褒められて耳が熱くなる。なんで褒められたのかわからなくて困惑する私を他所に夕輝は屋上に意識を向けたまま続ける。


「そんな明音の声だからみんなに届く。明音の歌の届く先にいる人が頑張りたいと思っているなら、それが明音の知らない相手だって明音の声はきっと届くよ。」


「……うん、そうだといいな。」


 そうだね、とは言えなかった。今の私にはまだ夕輝がいうような力があるかはわからない。誰かの為に歌うのもこれが初めてだ。


 でも、私の声が届いてくれたらいいなと思う。それに夕輝の目的からすれば私は世界を変えてみせないといけないんだ。知らない人にだって声を届けて心を震わせて見せなきゃ。

 私は夕輝みたいにいろいろ考えて策を練ったりアプローチをかけたりはできない。


 私にできることはこんなとき、歌うこと。歌うしかない。


「出番みたいだよ。」


 ちょうど心の中で覚悟を決め終えたところで夕輝に声をかけられる。そのすぐあとにドアの向こう側から紡ちゃんの声が聞こえてくる。


「明音ちゃん!」


「うん!!」


 ドアの脇に控えて身を隠す夕輝と手を叩いてから屋上に踏み出す。

 屋上には久しぶりの晴れ間が覗いていた。傾き始めた太陽が空を茜色に染め始めている。物語の始まる予感がする。そんな空だ。

 2人と手を取ったあの日の空を思い出してジンジンと痺れたままの手のひらを握り締めた。


「ちゃんと話すのは初めましてかな?私は朝凪明音。よろしくねライトくん。」


「……物部来途。呼び捨てでいいよ、呼びづらそうだし。」


 夕陽を背にする形で紡ちゃんの横に立つライトくん。なんとも言えない距離感で実はやりづらさを感じていたからありがたい申し出だった。


「うん、ありがとう来途!私も明音でいいよ。」


 来途が短く、わかったと応えて会話が途切れる。すかさず話題を変えて切り出す。このまま歌の流れまで持っていこう。あんまり悠長にやっていても夕輝の番が回ってきた時に日が沈んでいたらあんまりだし。


「私ね、今回は出番はないかと思ってたんだ。今回の主役は紡ちゃんで、その紡ちゃんが自分から任せてって言ってくれたんだもん。私は任せようって思った。」


 本当は少し不安だった。悩んでいる様子の紡ちゃんを無理矢理屋上に連れて行って本当に良かったのかなって。だから紡ちゃんが任せてって言ってくれたことがすごく嬉しくて、その言葉を信じて任せようと思えた。


「でも、紡ちゃんがバトンを回してくれた。頼ってくれた。だから、私も私のできることをやるよ。」


 一歩踏み出して来途に本音を隠さず伝えてみせる。


「私ね、本当はあんまり賛成じゃなかったんだ。正直なこと言っちゃうと二人には悪いけど私は来途の小説って難しくてあんまりよくわからなかった。」


「……よく言われる。」


「でも、夕輝が作って紡ちゃんが演じてる劇を聞いてて……いいな、って思った。やっぱり難しかったりよくわからなかったりするところはあったけど来途にも迷ったり悩んだりして、それでも諦められない熱いものがある。夕輝と同じなんだってわかったから。」


 来途はどうかなって小さく呟いてそっぽを向く。紡ちゃんはその横でにこにこして頷いている。


 自分の頭上、昨日までの曇り空やその前の大雨が嘘みたいにどこまでも高く続く空を見上げる。


「空、晴れたね。紡ちゃんとっても素敵だった、光を纏ってるみたいで。」


 横を見ると小さくなった私たちの街が茜色に染まり広がっている。不思議と懐かしくて暖かい。


「私ね、最後のユスティリオの気持ちよくわかるよ。……君の見る未来を見せてほしい。連れて行ってほしいってさ。」


 ユスティリオもきっと教えてもらったんだよね。


「私もね、本当はまだ夢はないんだ。名前の意味、探してるんだ。だから、今は夕輝の見る世界と夢を見たい。」


 正面に立つ来途の目を見詰める。その目に映る世界を。


「空が、街が、夕焼けが……世界がこんなに綺麗なんだって教えてくれたのは夕輝なんだ。まだまだもっと夕輝の見る世界を見たい。その為には来途が必要で、私も来途の世界を見たくなった。」


夕陽の溶けた空気を胸いっぱいに吸い込む。


「……だから、歌うよ。聞いてね。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ