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第25話 止まない夕立ち

「それで、どうだったの?」


「うーん、全然話も聞いてもらえないって感じかな。スルッてすり抜けるみたいに逃げられちゃって勧誘以前の問題かも。」


 休み時間に私の席までやってきた明音ちゃんが次の授業の準備で出していたノートに落描きをしながら答える。

なんだろう、これ。タコ……?


 昨日降り始めた雨は止むことなく今日も降り続いている。天気予報では一週間以上雨の予報だった。ここしばらく怪しい雲行きだったのが遂に降り出したみたい。


 あの日の屋上で夕輝くんと来途くんがどんな話をしていたのか私にはわからなかったから改めて明音ちゃんに顛末を聞いている最中だ。

 明音ちゃんがいうにはほとんど話にもならずに一方的に来途くんに逃げられてしまったみたい。


「夕輝が君が物部来途くん?って聞いたら向こうはもう私たちのこと知ってたの。」


「そうなの?でも、私は来途くんに2人のこと話してないよ。」


「うん。最初は私も紡ちゃんから聞いたのかなって思ったんだけど私たちがお友達大作戦やってたからそれで知ってたんだって。」


 それもそうかも。お友達大作戦を始めてから元々際立った外見で有名だった明音ちゃんはさらに有名に、夕輝くんまでもが学年の有名人になっていた。来途くんが2人のことをすでに知っていても不思議ではない。


「それでね、話が早いって夕輝が君の才能を見込んで手を貸してもらいたいって言ったらそのライトくんの顔がちょっと怖い感じになっちゃったの。」


 なんとなく来途くんの気持ちがわかるかもしれない。知らない生徒が押しかけてきたと思ったら突然勧誘してきたらちょっとこわい……。


「私もこれはあんまり良くないかなって思って出直そうって言おうとしたんだけど、夕輝が君がHiKaRi novelだろって言っちゃって、そしたライトくんが話すことなんてないってドアの方に行って……その後は紡ちゃんが見た通りだよ。」


 話を聞く感じでは夕輝くんが来途くんを怒らせちゃったみたいだ。

 だけど夕輝くんも唐突だったとはいえそれほど怒らせるようなことを言ったようには思えなかった。あるとしたらHiKaRi novelが自分だと知られたから、とかかな。考えてみたところで来途くんではない私では答えはわからない。


それより気になるのは夕輝くんだ。


「なんか、らしくないね。夕輝くん。」


 私がそう言うと明音ちゃんも同じことを思っていたようだった。


「やっぱりそうだよね。いつもならただ友達を作るってだけのことでも作戦にしちゃったり私に話しかけるために策を練ったりするのに……。大胆なとこもあるけど実行に移すまでは結構慎重に動くと思ってたんだけどな。」


 無策で場当たり的な勧誘をしたり、時間をかけずにいきなり踏み込んで何かが相手の癇に障っちゃうなんていつもの夕輝くんらしさのない行動だと思う。夕輝くんにも何かあったのかな?


「そういえば、その夕輝くんは?」


「ダメみたい。ライトくんのとこ行くって出てっちゃった。」


 明音ちゃんが呆れて言う。

 どう考えても今の夕輝くんは冷静になれていない。一度話し合いはできないかな?


「あ、夕輝。」


 噂をすれば夕輝くんがちょうど教室に戻ってきた。聞くまでもなく表情に出ている。来途くんはまともに取り合ってはくれなかったみたい。


「ねぇ夕輝、1回作戦会議しよう?このままやっても変わらないと思うよ。」


「……うん。でも、あと少しだけ。」


 薄い愛想笑いを見せて夕輝くんは自分の席へ戻っていってしまった。本当に重症みたいだ。


「ね、ダメでしょ?」


「うん……。大丈夫かなぁ……。」


 今の夕輝くんはなにか大きな失敗をしそうで見ていて不安になる。


「あ、授業始まっちゃう。また後でね紡ちゃん。」


明音ちゃんが自分の席へ戻っていくとほぼ同時にチャイムが鳴った。


(来途くんも大丈夫かな……。やっぱりもう屋上には来ないのかな……。)


 世界史の暮葉先生が気だるそうに教室へ入ってくる。


 来途くんと夕輝くんのことが気になるけど自分がどうしたらいいのかはわからなくて、その答えを出すことから逃げるように私は黒板に意識を向けた。


 その後もやや浮わついた気持ちのままで授業を受けて放課後を迎えた。昨日までとは違って本格的に雨が降っている。屋上も今頃水浸しで夕日も見えないと思う。

 それでも来途くんが待っているかもしれないと思いつつも昨日私の横を通り過ぎた来途くんの悲しい顔が浮かんで足は階段を上がろうとはしなかった。


 もしそこに来途くんがいたとして、舞台に上がれない私が来途くんの手を掴めるのかな。掴んだとして私に何ができるんだろう。



 その翌日もその次の日も雨は降り続けた。


 私は相変わらず屋上に向かわずに、かといって無関心でも気持ちを切り替えるでもなく屋上へ向かう階段の手前でゆらゆらと揺れるだけの日々を繰り返した。


 日増しに夕輝くんの焦りは増して明音ちゃんが夕輝くんに作戦を練り直そうと言っても夕輝くんは曖昧な態度のままだった。


 結局夕輝くんが最後にもう一度だけやってダメなら私たちと相談をして考え直すと約束をした。


 事件が起こったのは週が明けて月曜の放課後だった。土砂降りの嵐みたいな雨がうるさい日のことだった。

途中の明音の落描きには特に意味はないです。茶目っ気です。

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