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第21話 上と下

*****


 夕輝くんの探している人、HiKaRi novel。

 この学校の生徒だというその人のことを私たちに伝えたことで夕輝くんは一段と意欲を増したみたい。


 未だに会うこともできていない現状から夕輝くんはHiKaRi novelに避けられていると見て策を打つことにして、その準備の為に今日と明日は別行動をすることになった。


 明音ちゃんは学年の7割くらいの人と顔見知りになった。夕輝くんが離脱する今日と明日は他にやりたいことがあるとかで明音ちゃんもお友達大作戦については一度ストップするみたい。


 そんなわけで連日続けていたお友達大作戦は学年のほぼすべての人の顔と名前が一致した辺りで作戦待ちで息を入れることになった。


 とは言っても夕輝くんも明音ちゃんも別のことをするというだけで私が作戦をやってはいけないわけでも別のことをしなくてはいけないわけでもない。


 ただもう梅雨が明ける頃にはテストが間近に迫っていることや委員会の仕事もあるから私も一度ここで息を入れようと思う。

 ここ数日の空模様は不安定にぐずついている。今日は雨は降っていないけど重そうな雲が空を埋めている。


 2人とわかれた放課後、委員会の仕事を終えて窓から曇り空を覗くと溜め息が漏れる。

 久しぶりのひとりの時間にこれまで向き合わないようにしていたものが風船みたいに心の中で膨らんでジリジリと心を圧迫する……。


 この頃の空はまるで私の今の心境のようだった。


 私の心を圧迫するもの。それは時が経てば経つほどに広がる一方の二人と自分の差。

 2人は作戦開始以後どんどんと友達を増やしてあっという間にこの学年のほとんどすべての人と知り合いになった。


 特に明音ちゃんの速度は驚異的で、それでいて誰にでも懐に飛び込むのではなくひとりひとりに対する距離感を掴むのがうまいみたいで付かず離れず多くの人との人脈を作り上げている。


 対する夕輝くんは明音ちゃんほど早くはないしどちらかというとこういうのは苦手な様子だったけど明音ちゃんに刺激を受けてか、コミュニケーション能力の差を尽きない話題の引き出しやフックの多さで補っている。


 それだけではなく夕輝くんは同時進行でこの先にも備えている。

 自分の周りに明音ちゃんか私がいない時はいつも何かしているかどこかへ出かけていて夕輝くんが何をしていないところを見たことがない。

 授業中でさえもいつも何か授業とは全く関係ないタイミングでノートに書き込んでいたり授業は上の空で考え事をしている。夕輝くんは教室のかなり後ろの方だからいつも見えるわけじゃないけど……。

 目の下のクマを見るにちゃんと寝てるのかも……。……夕輝くん、大丈夫かな?


 それはともかくとして、二人はそれぞれに怒涛の勢いで邁進している。それに比べて私は、いまだにクラスの壁をほとんど乗り越えられていない。

 未だに私には知らない人と打ち解ける方法がわからない。今のクラスの立場だってそれ以前だって自分から踏み出して得たものじゃなくて周りの友達やクラスのみんなが引っ張ってくれたから得られただけ。


(やっぱり、私がいるのは舞台の下なのかな。)


 私はあの日の舞台のことを思い出していた。


 心の中に眠る憧れの始まりを。


 私が輝くものに憧れたきっかけ。それがあの日見た舞台だった。

 まだ私の夢がお姫様になることだった頃の話。私はお父さんとお母さんに連れられて舞台を見に行った。

 今となってはどこのどんな劇団がどの程度の規模の公演をしていたのかも分からない。もしかしたら日本を代表する大劇団だったかもしれないしほとんど観客も入らないような小規模で細々と活動している劇団だったかもしれない。


 だけど、運良く最前列で見ることのできたその舞台は私にとって一生忘れることのない輝きに満ちていたことは確かだった。


 私はあの日見た輝きをずっと心の中に大切にしまっている。宝物を宝箱にしまっておくように誰にも見せることなく壊れるのを恐れ外側に出すこともなく、踏み出しもしないで……。


 私が明音ちゃんが孤立している時に声をかけられたのは明音ちゃんが物語の始まる前の主人公みたいだったから、あの舞台を忘れられない私は彼女の物語を見てみたくてつい足が向かってしまった。


 あの日見た舞台の独りぼっちだった主人公の女の子は退屈な日々を抜け出して不思議な出会いや運命に導かれ物語に巻き込まれどんどんと輝きを増していった。


 クラスで誰とも深く交流を持たない明音ちゃんに私はあの日見た舞台の主人公を重ねていた。自分がきっかけを与えて主人公の明音ちゃんが走り出すところを見たいと思った。



私は明音ちゃんの魔法使いになりたかった。


 でも、魔法使いは私じゃなくて夕輝くんで私は偶然その舞台に居合わせただけの観客だった。



 日に日に輝きを増す明音ちゃんと彼女を導く夕輝くんの傍にいればいるほどふたりとの間に広がる差を痛感させられる。


 始めは三人の中で一番リードしていたはずなのに気がつけば二人とは随分と差がついている。学年の中心的な存在になり始めている明音ちゃんとそれに食らいついていく夕輝くん。



私と二人の間にある差は、まるで……。


「役者が違うよ」


まるで、舞台の上と下。


 二人は目一杯の光を浴びて輝きの中で物語を描く役者。私は舞台の下、暗闇の中で二人を見送る傍観者。

 そんな無意識の感覚を言葉にしてしまうと抑え込んでいたものが抑えきれなくなってくる。心に暗い気持ちが滲み目を伏せたくなる。


(……それでも、この物語を終わりまで見届けたい。)


 まだ舞台に心を惹かれているからか、私は気がつけば屋上のドアの前にいた。二人に出会った場所で2人の物語が始まった場所。この屋上は今の私にとっての舞台になっていた。


 だけど、今日は役者の二人はここにはいない。役者のいない舞台で物語は始まらない。



*****



 明音も夕輝いない屋上。思えば屋上へ足を運んだ日はいつも空は晴れていた。


 明音が晴れの日の夕方を選んで歌っていたわけだがそのことは知る由もなく紡は導かれるように屋上のドアを開けた。


 高い屋上で外の空気を吸えばいくらか気分もマシになると考えたのか、はたまた運命が紡を導いたのかは誰にも分からない。


 しかし事実として紡は再び物語の始まりに立ち会うことになる。

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