目障りな太陽
一般的に、光は好意的な解釈をされる。
良いことが起こる兆しだとか悩みから抜け出すことを示していたり、光と影を対比的に用いて物語の上で立ち位置や未来を現す演出に使われたり。
でも、本当にそうだろうか。
人は太陽を直視できない。眩しすぎるから。
強すぎる光に人は耐えられないし見えるものも塗り潰して見えなくしてしまう。
燦然と輝く主人公みたいな輝きが虫のように小さく蠢く細やかな明かりを意図せず塗り潰して見えなくしてしまう。
必ずしも光が良いものだとは、とても思えない。
こんな風に光を疎ましく思うのは、この頃存在感を増してきた太陽がスマホの画面より眩しくて読んでいる漫画の続きを大変読みづらくしてしいることにいささか苛立ちを募らせているからではない。
放課後のHRも終わってすぐに動くのも……と思って読み始めた漫画も昼下がりの日の光に邪魔をされたところで耳を澄まし、ため息をつく。
飽きもせず聞こえてくる声の主から隠れるためにそそくさと荷物を片してカバンを肩にかけ流れるように教室を出る。遭遇したくはない来訪者と鉢合わないようすれ違うように、逃げ去るように。
「夕輝、何してるの?」
「……眩しい、太陽が。」
教室の外からそんな声が近づいてくる。
噂の来訪者はいつも三人組で、最近になってどのクラスにも顔を出しているようでこのところすっかり有名人染みてきた存在感のある同級生。
何を企んでいるのか知ったことではないがあんないつでも話題の中心にいそうな華々しいグループには近寄らない方がいい。
特にすれ違っただけでも顔をまじまじと見るまでもなくわかるほどの優れた容姿の女子生徒なんかは距離を置いた方がいいに決まっている。人生の在り方が違う。
露骨に方々に顔を出しては人脈を広げて彼女たちが何をやろうとしているのかはわからないがきっと歴史に名を残すような、とは言いすぎとしても何かしら名を知らしめるような才能に溢れた人間。
それは少なくとも自分ではなく彼女のような人なのだろうといやでも思わされる。
何かを引き起こし、常にその中心にいるような……所謂主人公というのはお前ではなくこういう人間なのだと知らない誰かに耳元でささやかれているようで気分が良くない。
だから諦めろと遠回しに嘲笑されているみたいで自分が否定された気すらしてくる。
全く心当たりのないはずの彼女たちには申し訳ないけど自分がそう感じてしまうのだから仕方ない。情けない自尊心のために自衛行為として避けるくらいのことは許してほしい。
自分が逃げ去った後の教室に入れ替わるように彼女たちが入っていくと教室がにわかに騒がしくなる。
居心地の悪い喧騒を背にここしばらく立ち寄っている穴場へ足早に向かう。
最近の汗ばむ程度の気温と憂鬱な季節の気配がする高めの湿度の中、こんな時期に階段なんて登るべきではないと少し後悔しつつ最上階まで辿り着く。
階段を登り切ってすぐを曲がると見えてくる踊り場の古く鈍重なドアを開き、人気のない屋上に出る。
光は必ずしも好意的ではなく、太陽を疎ましく思うこともある。
それでも人は太陽を見上げる。光がなければ人は生きられない。
ちょうど日陰になっている場所で太陽の熱気から逃れるように座り込み、爽やかなそよ風を受けて熱を逃がしつつ懐からスマホを取り出す。
いつものように意識を集中させ誰にも邪魔されない自分だけの世界に身を投じる。
誘惑が多く気の緩む怠惰の巣窟と化した家とは違い、静寂に満ちたこの場所は怠け癖のある自分を戒めるにはちょうど良く、物語が自然と内側から溢れる。
見慣れた小説投稿サイトのマイページ。
しばらく前で更新が止まったワークスペースの下書きには未公開の下書きが公開された話数よりもずっと多く眠っている。
軽く直近の2,3話に目を通してからいつものように続きを書き連ねる。
思考が現実から切り離され空想の中に飛び込む。自分の中に広がる光景と物語を言葉に書き起こす中で、さっき見た光景を思い出し意識が空想から逸れる。
ここしばらくで瞬く間に生徒たちの間で顔を広げているあの三人組。その中の男子生徒。
顔を合わせたことがあるわけではないし避けているから基本横顔や遠巻きに見た顔しか知らないが、ふと思い出した記憶の中にあの生徒の顔が浮かんでくる。
あの男子生徒はたしか少し前にあったことがある。というか、正確には接触事故を起こしたことがある。
廊下の曲がり角でぶつかったあの時の生徒だと思う。少し急ぎ足で飛び出してきた彼の腕と考え事をして俯いていた自分の腕が接触してスマホを彼の足元へ滑らせてしまった時の事故相手。
「スマホくんは元気みたいだよ……。」とユーモア溢れる返しとともにスマホを拾ってくれたのでよく覚えている。
別にそれだけの関係でお互い知った仲ではないが、なんとなく知り合い面をして素性もよく知らないのに(へぇ、あの時の……。)とよくわからない気持ちになる。
もしかしたら芸能人と同じクラスだっただけの人はこんな気持ちで過ごしているのかもしれない。
……もしも、あの時なんとなく、それとなく会話を交わして仲良くなっていたら彼と友達になれていて、あの三人の中に自分もいて自分も何か彼らと一緒に企んで、この学園のこの学年の何やら知らない小さな物語の主人公になれていたのかもしれない。
そんな有り得ない妄想がよぎって少し楽しそうだなんて無意味なことを考えて、それが無意味で有り得ない妄想だと冷静になり吐き捨てる。
自分の前にある現実は目の前のサイトの中の書き溜められた最早面白いのかもわからない小説だけ。
更新を停止しているが終わらせることもできず誰にも見せず続いている生きてるのか死んでるのかもわからない、かつて夢に満ちていた物語。
そしてそこに下された現実的な一目で桁数のわかる僅かな閲覧数。
鬱陶しい湿った夏前の風がぬるくなった制服のワイシャツを撫でて気持ちが悪い。
一瞬でもキラキラとした小学生の夏休みみたいに楽しげな輝いた瞬間を想像したお気楽な脳髄を戒めると目を逸らしていた込み上げる苦々しい現実の味が口内に広がる。
粟立つような焦燥感に煽られながら、何になるかもわからないままのにそうするしかないから書き続ける。
あるかも分からない希望に縋るような苦し紛れの小説を気味の悪い風に撫でられつつ書く自分を、目障りな太陽が大気越しにじりじりと熱していた。
すみません……。なんか、文学的なキャラを意識しすぎていて読みづらくてまどろっこしい番外編になっちゃいました……。随分前に書いたんです。ごめんなさい……。




