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友達の作り方

 ある程度落ち着きを取り戻した前田が集まってきた数人の男子に共有し、わいわいと自分の周りがにぎやかになる。


 辱められているのは事実だけど、みんな本気でバカにしたり侮っているわけではないことのは明らかで嫌な感じはしなかった。


笑いの波を乗り越えた前田が楽しげにこちらを見て言う。


「お前なぁ、友達が少ないってそれはそうなのかもしれないけど朝凪さんとも明野さんともあんなに親しくしてこのクラスで誰よりも先に二人と仲良くなったお前がそんなことで悩んでどうすんだよ。」


周りの男子がそうだそうだとガヤを飛ばす。


「あの二人とあっという間に仲良くなれたんだから他のみんなと仲良くなるのだってお前なら簡単だろ?」


 前田がそういうと、取り囲んでいた男子の一人の浅山が乗っかるように疑問を投げかけてくる。


「ていうか、同じクラスで話したこともあって、名前も知ってるんだし友達じゃん?違うっていわれたらめっちゃしんどいけど?」


 その言葉を聞いて、なんだか自分の中の何か引っかかっていたものがきれいさっぱりほどけて消えた気がした。


 自分はずっとひとりで生きてきたような気がしていた。


 あの日からずっと、自分ですべて何とかして世界を変えたいんだと。


 世界を変えたいといいながら、その一方で少しだって変える対象で届けたい相手であるはずの世界を形作るひとりひとりの顔を見てこなかったのかもしれない。


 今回のこの作戦だって、思いついたのはいざというときに立ち回りやすいポジションにいたかったから。使えるものは多い方がいいと思ったから。それから見つけ出したい人物がこの学園にいると知ったから。全部打算的な理由だ。


 そしてそれらすべてを達成するならまとめて顔を広くしておけば効率的だと思ったからで、明音がお友達大作戦なんて名前を付けたときにイマイチ納得がいかなかったのは自分は本心では欲しかったのは保険や備えであって人と人との繋がりはあくまで副次的なものだと、友達を作ろうなんて考えてはいなかったのかもしれない。


 自分でも気づかなかった自分の軽薄さに呆れる。こんなことで世界を変えるなんて(のたま)ったってうまくいくはずがない。

 自分で結論づけただけだけどこれまで何をしても上手くいかずに才能のせいにして見て見ぬふりをしていたものがひとつ、すっきりと腑に落ちた気がする。


「いや、うん……。言われてみればそうかも。友達多いかもな、俺。」


 おどけて返すと、調子乗んなと笑いが起こり明音たちに負けず劣らず騒がしくなる。

 自分の席を囲むみんなを見て、知っているはずの顔なのに今初めてしっかり顔が見えたような気がする。


 そうこうしているうちに予鈴が鳴って先生が入ってくると各々が元の席に戻っていく。

 そのころにはすっかり自分の中にモヤモヤと漂っていた雲は晴れて、なんとかうまくいきそうな気がしてきた。


 そんな幸先のいいスタートを切れたからかその後も授業中や放課の時間など今までで一番多くクラスメイトと会話をした気がする。

 授業中にわからないところを聞かれたり教えてあげたり、思いついたことを呟いて小さく笑いを取ったり思いついた疑問を投げかけてみたり、単純に世間話をして人となりを知ったり……。


 気が付けば今日の始まりよりもずっとクラスの一人一人に対して詳しくなっていた。いつか役に立つかもと思ってクラスの一人一人の様子を観察してきたけど、それをしてきたときよりも早く詳しくみんなのことを知ることができた。見ているだけではわからないことにもたくさん気付くことができた。


 その一方でこれまでしてきたことが無駄で遠回りだったのかといえばそうでもなくて、観察してきたから会話の引き出しを多く用意することができたしこれまでの挑戦と挫折の数々で才能がないと諦めてきた経験も話のネタにするにはちょうど良かった。


 自分が重ねてきた時間と努力は無駄ではなかったんだと少しだけ前向きに向き合うことができた。


 こうして苦手意識を払拭したことで3,4日が過ぎる頃には2人に遅れてクラスの全員と知り合うことができた。まずは第一目標突破だ。


 次はクラスの枠を超えて学年中にパイプを伸ばすのが目標になる。

 計画した時点では自分の中では途方もない壁だと思っていたけど意外とそうでもなくて友達の友達だとか部活など諸々の交流があるという細い繋がりが無数に伸びていてそれを辿ることで少しずつ交流は増えていった。


 とはいえ、それだけ繋がりが薄くなるのも事実で顔見知りが増えていく程度の関係性にある相手が増えていった。

 自分がそれを感じ始める傍らで明音はそれさえ飛び越えて元々有名人だったのが輪をかけてさらに顔の広い存在になった。


 それでもやはり活動のこともあるしクラスでできた友人知人を放り出して関係だけ作ったらはい終わりというわけにもいかない。


 交友関係の維持に時間を割きすぎて明音が身動きを取れなくなっても困るというような話し合いがあり、それぞれのクラスに何人か見かけたら声をかけられるくらいの相手ができた辺りで一度お友達大作戦の第1目的は区切りをつけて緩やかに継続する方針に切り替えた。



 明音が噂に聞く高嶺の花ではなくなる頃には季節も巡り独特な湿度と張り付くような雨の日が増え、街の植え込みや校内の自然には移り気な花が色付き始める頃になっていた。

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