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目指す舞台

「さて、本題だけど……」


 一通り夕輝の家を回ったところでリビングに通される。物が少なくて少し寂しい感じのする広いリビング。夕輝はミニマリストなのかな。


「とりあえず、昨日帰ってから纏めてみたんだ。ここから最終到達点までのスケジュール。」


 一人で使うには持て余しそうな大きめの机に夕輝がバサッと年季の入ったノートを広げる。

どうしてこんなに机が大きいのかと聞いたら机が大きい方がたくさんものを広げられるから、と返された。


 ノートには年間スケジュールのような形でポイントになる大きな目標がいくつかと学校行事のような計画とは直接関係ない予定、それから周辺の小さなイベントまでびっしりと書き込まれている。

 さらにそこから目標までにやるべきことや目標の結果次第でどうする、このイベントは……みたいな分析や行動分岐などの情報が別のページに纏められていて一晩でこれを作ったのかと思うと夕輝の顔色を見てしまう。ちゃんと休めてるのかな……。


「いろいろ細かいとこまで書いては見たけどやっぱり足りないものが多いし不確定なところも多い。二人と相談しながら進めていくのが正解かな、と今は思ってる。」


 夕輝がノートを指さしたりめくったりしながら大まかに説明をしてくれる。

 これだけ書いても大部分が変わることを前提で動いているみたい。改めてすごい根性だと思う。


 だけど感心するのと同じくらいに傷ついたり落ち込むことに慣れて自分の痛みを忘れてしまっていないか心配になる。


「大事なイベントは3つ。今年の秋の文化祭、来年の冬のトワイライトソングフェスタ、そして来年の文化祭。紡ちゃんはもちろん、明音もこの3つは聞いたことがあると思う。」


 夕輝が計画のスケジュールの中で特に強調されている3つを示す。


もちろん、この学校に……というかこの街や周辺地域に住んでいる人はみんな知っている。


 私たちの通うこの学校は地域との繋がりが強固で、さらに文化方面に特に力を入れている。

強豪校がそれぞれのスポーツで全国的な大会を目指し常連校はその名を知られているように、この高校は大会こそないけれど全国有数の大規模な文化的行事で知られている。


 特に年に一度、秋期に行われる文化祭は全国から人が訪れる大イベントで地域と密接に連携し半ば職業訓練のように本格的に行う。

 各クラスの出店も去ることながら有志が行うイベントや出店、催しはトップ層はプロ顔負けと言えるほど。


 中でもメインステージにして文化祭の目玉にあたる屋上ステージは厳しい審査を通過したひと握りのグループにしか立つことが許されない。

 その中でも2日目の夕方、日没の時間帯は全てのグループの中で最も優れたグループの公演が行われる。


 並大抵のスポーツ推薦や学力よりも評価されることもあるこの大舞台に立つことは最高の名誉で例年ニュースでも取り上げられるほど。


 ……とはいえ、無駄に広く大きな学校の敷地の最も高い場所にある行くのも一苦労な屋上なので中継などはあるにしてもある程度どこからでも目立つパフォーマンスでそれほどスペースを大きく使わない必要があるからほぼ音楽専用のステージになっている。


 一応舞台パフォーマンスや出店には屋上とは別で華形の場も用意されているけどやっぱり1番目立つのはこの場所で、屋上ステージの夕方頃にパフォーマンスをして話題を呼ばなかった年はある特定の期間を除いて存在していない。


 夕輝が最終目標としてるのはおそらく、というか間違いなくこのステージだと思う。


 でもそれって至難の業だと思う……。

 だって、この舞台は学生かつ舞台関係者に学園の在籍者が入ればいい。つまりバックアップメンバーだろうと裏方だろうとなんだろうと1人でも生徒がいれば全国の学生が参加できてしまうから……。

 つまり学生ならプロアマ問わずここを狙ってくるから、この舞台に立つには実質プロに勝たなくてはならない。


そんなこと、できるのかな……。なんて不安を一人で膨らませていると夕輝が続ける。


「最終目標は当然文化祭のメインステージ"ブルームアウェイ"。最も栄光に近い舞台を目指そう。」


「……でも、今から始めるまだ何もない私たちが届くのかな?プロ並みの人たちもたくさん参加するって聞いたことあるけど。」


 紡ちゃんが当然の疑問を口にする。

 最終目標ということはきっと今年じゃなくて来年の文化祭だと思うけど、それにしたってあと1年半もない。まだやることを決めている段階の私たちが手の届く場所だとはとても思えない。


「今のままじゃ厳しいかもね。でもひとつ勘違いしてるところがある。今紡ちゃんが言ったみたいに、参加してくるのはプロ並みの人だから大丈夫。プロじゃないよ。」


 夕輝が予想通りと言わんばかりに毅然として回答をする。でもその前置きだけでは言葉の意味がよくわからなかった。


「どういうこと?プロ並みもプロも実力は同じくらいじゃないの?違いがわからないかも。」


「同じようで全然違うよ。結論からいえばこの舞台にはプロは来ない。」


 夕輝はこの質問をされることも予想していたようで理路整然と説明を始める。


「ブルームアウェイ、元々はブルーミングウェイって言うんだけど……って今はいいか。とにかくこの舞台はたしかにプロに繋がる格好の舞台ではある。でも実際に十年くらい前、あまり話題にはならなかった年があったようにプロ確約の道ではないんだよ。」


 少し考えてみよう、と言って夕輝がノートの余白にペンを走らせる。


「確かに注目の舞台だけどあくまで有数の文化祭の1ステージ。テレビ番組だとかタイアップ企画だとかそんなものには遠く及ばない。それにこの学園の生徒が必ず1人以上いなければならないという縛りもある。すでにプロの舞台にいる人がそんな条件付きでリターンも少ない舞台に一時しのぎのメンバーまで迎えて挑むメリットは少ないんだ。実際、過去の出場者にもプロはほとんどいない。」


 言われて見れば、そうかも。

 プロといってもいろんな基準の人がいると思うけど、文化祭の舞台はプロの活躍の場とは違ってあくまで注目度が高いだけでプロの協賛や口利きがあるとかスポンサーがついているみたいな話は聞いたことがない。

 審査の段階でプロを呼ぶことはあるみたいだけど文化祭は基本的に地域と学園内部の先生たちと卒業生、それから生徒会が中心となって開催する。


 だから活躍の舞台が与えられるというだけで、実際にさっき夕輝の言った十年くらい前あまり話題にならなかった年には同じ学生の枠で比べ物にならないくらい名を馳せていたブッシュドノエルがいたのが原因だった。

 世代丸ごと魅了してしまった彼女たち相手にはブロードアウェイの栄光は歯が立たなかった。

 だからプロがわざわざ出張ってきてまで立ちたい場所とは言えないかもしれない。


 それにもうひとつ、リスクもある。

 それが出場資格にこの学園の在校生が必要ということ。この学園自体、この文化祭を始めとして多くのチャンスがあるから自ずと高いレベルで文化活動をする生徒が集まってくる。


 だけどプロならすでにある程度メンバーは固まっているはずで、わざわざこの学園の生徒を資格のために入れたとして……その後はどうするのかってこと。


 最初からこの学園の生徒をメンバーに誘って組む人もいるかもしれないけど、お金がもらえるわけでもないし結局ここに集まるのはプロ並み……プロは来ない、かもしれない。


「一応実際にはプロとアマの間に明確な基準はないし箔をつけるために狙う人たちもいる。でも過去にそうなっているようにブッシュドノエルくらいの規格外には勝てない栄光なわけで、外れ値になるくらいの実力者が出てくるとは考えにくい。」


 そこまで説明すると、まぁ結局は……とひと呼吸おいて


「プロは来ない。相手はせいぜいプロのたまご。俺たちにも十分見込みはあるよ。」


と夕輝は結論づけた。

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