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ユガタの原点

「結局、清めの儀式では魂繋ぎの契約は解除されませんでしたね」


「まあ期待はしてなかったがな」


「僕としては……ちょっと申し訳ない感半分、嬉しい半分ですけど……」


「なんで嬉しいが半分あんだよ」


夜の森の中、焚き火を囲む大男オレガと美少年ユガタ。清めの儀式を終えそれぞれの街や村に帰る乙女達と護衛のリザと別れ、また二人の旅が始まった。


「えと……その、魂繋ぎのせいでオレガに迷惑かけてるのは分かってるんですけど……」


「そーだな」


「オレガみたいな強い人と冒険……旅ができるのは、楽しいなって……ちょっと自分の夢でもあったので」


「まぁ、孤児院育ちのガキが抱きそうな夢だわな」


「はい……呪現獣と魂繋ぎをして心中すると言うことがなくても、孤児は司祭の為にその身を尽くせと教えられ、逃れられない運命ですから」


「……孤児という名の奴隷だな。まぁ、よくある話だ」


ユガタは身体を丸め、顔を膝の間に埋めながら揺らめく焚き火を眺め、オレガに出逢う前の自分を思い出していた。


「てめぇの自己犠牲精神もその孤児院での教育の賜物か?」


「それも……あるとは思います……でもそれだけじゃありません」


「ほう」


オレガが焚き火にその辺に落ちていた木片を投げ入れる。火は若干勢いをまし、より揺らめく。


「孤児院時代でも意外と本を読める機会は多かったんです。そんな中で僕は、冒険物語や英雄譚が好きだったんです」


「……」


「そこにでてくる主人公は、他人が為にその身を呈して、隣人を愛し、そして大きな偉業をなしてました」


オレガは暗に感じたことだが、ユガタが読むことが出来た本の内容こそ、無意識下で司祭にとって都合のいい駒を作る為に検閲されていた内容なんだろうと。しかし、その事はユガタには伝えなかった。造られた自由な夢でも壊してしまうのは後味が悪いと。


「僕は、その主人公みたいになりたい! 大きな偉業をなして栄光をつかみたい! とまでは思いません。でも、他人が為に自己犠牲を顧みない人はきっと誰かにとって忘れられない存在になるも思うんです」


「忘れられない存在か」


「はい……」


ユガタも木の枝を拾って焚き火に投げ込む。火はさらに揺らぎを増して燃え上がる。


「僕は怖いんです……誰にも自分の存在を覚えて貰えないことが……。孤児院に見つけてもらう前、色町で産み落とされ、挙句存在が邪魔だと捨てられて……通り過ぎる誰も僕を見てくれない……その時を思い出すだけで……とても怖いんです。寂しいんです。泣きたくなるんです。だから差し伸べてくれた司祭には感謝しかないんです。例え都合のいい駒として扱われてたとしても。だから僕は皆に必要とされるなら自己犠牲なんてなんとも思わないんです」


「長話ご苦労さん」


オレガはなんてことの無いように欠伸をし、無精たらしい伸びをする。そして地面に肩肘を付き頭を支え眠りに入る姿勢を見せる。


「俺から言わせりゃ、ユガタ、てめえの自己犠牲精神は気に食わねぇが理解はしてやる。ただ、お前の本性はそこじゃねえ気がするがな」


「と、言いますと?」


「人並みの承認欲求に、未知への好奇心、土壇場での正義感……自己犠牲のシスターと言うより」


「言うより?」


「ただのガキンチョだって話だよ」


「……ただのガキンチョが誰かにとって忘れられない存在になれますかね」


より顔を膝の間に埋めてしまうユガタ。そんなユガタを気にもとめず、再び大きな欠伸をしているオレガ。


「少なくとも俺にとっては傍迷惑な魂の繋がったガキってことだよ。美味い飯食うのには便利だがな」


「……そうですか」


ユガタはオレガの言葉とは裏腹にその声のトーンから、どことなく自分を認めてくれているようで、口元が少し緩んだ。


「また一緒に美味しいもの食べましょうね」


「……あぁ」


「あっ!」


急にユガタは飛び立ち、いつもの快活な調子を取り戻した。オレガは何事かと、若干嫌そうな視線でユガタを見やる。


「オレガ! 僕のプライベートな事結構聞きましたね! なら!」


「拒否する」


「のを拒否します! オレガって昔は何してたんですか? あのリザさんとどんなご関係で! もしや今は亡き亡国の英雄だったり?」


「妄想豊かなことで。俺は寝る」


「じゃあ! 今度美味しいもの食べたらちょっとずつでいいので教えてくださいよ」


「食いもので釣ろうとはてめぇガキの中でもなかなか強かだな。いいから寝ろ!清めの儀式で疲れてんだろ! 風邪ひいたりするなよ! 」


「しっしっし! 了解オレガ! 必ずやオレガのプライベートも聞いてやるぞ!」


澄んだ星空の元、森の中で微かに焚き火の光が見えていた。その揺らめきは暖かく、眠るユガタを照らしていた。

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