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悪食の呪い呪われた者と

「っは!」


「なんだやっとお目覚めかお嬢さん」


気づけば夜。周りには木々が生い茂り、鳥たちの夜鳴き声が聴こえていた。そこの切り株にオレガは座っていた。ユガタは雑にだがボロい布布団に包まれていた。激しく燃える焚き火が二人を照らす。


「あれ、僕……ここは……そういえば……って!」


「あん? なんだよ」


「僕はお嬢さんじゃない! ユガタだ! れっきとした男だ!」


「どうだか、そんなシスターみたいな格好して女顔じゃねえか女々しいヤツめ」


「なら証拠見せてやろうかコノヤロー!」


「おうおう見せてみろよ」


「ほら! 胸だってないだろ!」


ユガタは服を勢いよく捲り、華奢でいて色白い美肌を晒した。オレガはそれを見て呆れている。


「お胸が無いお嬢さんかも知れねぇだろ」


「お嬢さんはこんな事しないだろ!」


何故かムキになってテンションがおかしくなってるユガタと、意外にも大人の余裕を見せるオレガ。


「なら……見せてやろうとも! 僕が男だという真の証明を!」


「ほう……お前にそんな度胸あるのか?」


「くっ……ならばしかと見て見ろ!」


一時のテンションに身を任せてユガタはズボンとパンツを一緒に一気にずらし下ろした。そこにあったのはまごう事ない男の象徴。対してオレガは。


「ちっせえな」


「うるせぇーーー!」


キャンキャン自分の男らしさを小馬鹿にされておかんむりなユガタを軽くあしらいながら焚き火に薪をやるオレガ。

ぐぅ〜とお腹の音が静かな森に鳴り響いた。その音の主はユガタであった。ユガタは怒りを収めてゲンナリとした。


「お腹すいた……」


「まったく不甲斐ないやつだな」


「お腹は誰だって空くものですよ!……はぁ」


「空腹で死なれでもしたら俺が死ぬんだろ。ため息つきたいのはこっちだぜ」


すると、足元に落ちていた小石を摘み、軽く上に投げては掴み、投げては掴みと手遊びをしていたかと思うと、刹那の速度で腕を振り上空へ投げつけた。と、間もなくして空から一羽の野鳥が落ちてきた。その野鳥の頭部にはえぐれるほどの傷があり出血し絶命していた。


「なっ!」


「ほら、飯が落ちてきたぞ」



焚き火の中に直火で焼かれる野鳥。ユガタは両手を合わせお祈りをしていた。それを呆れた顔でオレガは眺めていた。


「まったく何してんだか」


「生命をいただくんです。感謝はしないとですよ」


「たくっ、ほんとにシスターなんじゃねぇか?」


オレガは大きな欠伸をしながら無造作に地面に肩肘をついて寝そべる。ユガタは燃える炎の中からあちちっ、と声を漏らしながら黒焦げになる前にこんがり焼けた野鳥を掴み取りだした。


「いただきます」


はふはふ息をふきかけて冷ましながらユガタの小さい大口を開けて齧り付く。そしてよく咀嚼してごくんと飲み込んだ。


「うん! 野生の味だ!」


「そーでござんすか。ふあぁ〜」


「せめてお塩があれば……香草とか生えてはないかな……」


「贅沢言うな腹にたまればなんでもいいだろ味なんて」


「美味しいに越したことはないじゃないですか!」


ユガタはぶつくさ言いつつもこんがり焼けた野鳥に齧り付いていく。背に腹はかえられぬと言った具合でその勢いは止まらず、だが、ふと寝そべるオレガが視界に入る。自分のお腹の虫はまだ満足していなかったが、ユガタは野鳥を半分に引きちぎり、片方をオレガに差し出した。


「どうぞ……えと、オレガさん」


「さん付けするな寒気が走る。オレはいらん」


「でもオレガさ……オレガもお腹空くでしょ?」


「昨夜でっけえ呪現獣を喰えたからな。暫くは大丈夫よ」


「でも……」


「それにな、俺は普通の飯は食っても腹は満たされねぇし、味すらしねぇからな」


「え……どうしてですか?」


ユガタのやや動揺した問いかけに、不敵に笑い、べぇ、と舌を見せつける。よく見るとそこには獣の顔を縁どったような黒い紋様が刻まれていた。


「呪い……ですか?」


「悪食の呪いってんだ。どうだ、カッコイイだろ」


「よくはないです」


今度はユガタが呆れた顔をして、オレガのセンスを否定する。オレガは、さようですかい、と言いつつ舌をしまい、そしてまた大欠伸をした。


「オレガはどうして呪われたんですか?」


「あぁ? 説明すんのめんどくせぇな。教えねぇよ」


「魂が繋がった交でおしえてくださいよ」


「人のプライベートに踏み込むのはデリカシーがねえぜお嬢さんもどき」


「なんですかその呼び名、ユガタって呼んでくださいよ!」


「へいへい、で、ユガタちゃんよ。てめぇこれからどうするつもりだ」


オレガは寝そべりながら方目を開けユガタを見つめる。ユガタは食べかけの野鳥肉を持ちながら、少しの間考え込む。そして曇りなき眼でオレガを見つめる。


「前にも言いましたが、僕は一度命を捨てた身です。孤児の僕の命で成し遂げるはずだった事をオレガのおかげで達成すること出来ました。だから僕の命は貴方の為に活かしていきたいです」


「俺にとってはただただ迷惑な話だぜ。てめぇのお守りをしながら生きてかなきゃならねぇんだから」


「役に立ちますよ! 料理に洗濯家事は得意です!」


「基本俺野宿だぜ?」


「うっ、あと! ささやかですが治癒のまじないとかも使えますよ」


「この俺様が怪我でもするように見えるか?」


「くっ、でも! そうだ! 一人旅では話し相手がいなくて寂しいですよね! そんな時に……」


「くだらん、俺は寡黙だ」


「そうはみえませんけど……はぁ」


尽く自分の決意を軽くあしらわれるユガタは肩を落としてしょげてしまった。そしてちびちび残りの野鳥肉を食べ始めた。


暫くの沈黙、焚き火で薪が爆ぜる音が微かに響くだけの時間が過ぎる。ユガタは焚き火の近くで暖を取りながら膝を曲げ、両腕で抱えて座っている。オレガは変わらずの姿勢で睡眠を取っているように見えた。


「オレガはこれからどうするんですか?」


「……あー。俺は呪現獣探して適当に旅してくだけだな」


「……悪食の呪いを解こうとは思わないんですか」


「ねぇな」


「どうしてですか?」


「プライベートな質問は却下」


「そう……ですか」


「てめぇその丁寧な話し方もやめろむず痒くなる」


「この丁寧語は僕の処世術なんですよ! そう簡単には直せません!」


ユガタは胸を張り誇らしそうに話す。ぽりぽりオレガは頭を掻きながら、ユガタに話す。


「ま、てめぇと魂が繋がった以上仕方がねぇ。俺は野垂れ死に無駄死には大嫌いだからよ。俺の為にてめぇを連れて護ってやるよ。俺の為にな」


「すみません……」


「てか、魂繋ぎの……なんだ、まじないか? 呪いか? 何方にせよ解く方法はねぇのか」


「僕の知る限りでは……ないですね」


「てめぇの狭い世界での知識じゃ無いかもしれんが、世界は広いんだよ。探せば見つかるかもだろ」


「じゃあ決まりですね! オレガの腹を満たすために呪現獣をさがす! 魂繋ぎを解く術をさがす! その為に旅をする!」


ユガタは意気揚々両の手を力強く掴み、瞳を燃やし見開く。


「なんでそんなテンション高ぇんだよ」


「いや……ちょっと夢でもあったので……旅人になって冒険するのって……ワクワクじゃないですか」


「これだから世間を知らないガキは……やっぱり置いてくか? だが野垂れ死にが目に見えやがるなくそが」


「あ、それに僕、呪い、呪現獣の居場所を探るまじないも使えますよ!」


「よし採用。連れてってやる」


「やった!」


小気味よく且つ若干あざとく喜びのジャンプをするユガタ。オレガは仕方がないといった具合で大きくため息を吐く。


「とりあえず朝日が昇ったら動くぞ。アルトリアからはまぁ離れたが、追っ手が来ないとも限らねぇからな」


「はい! ……あ、すみません……ひとつお願いが……」


「あ、なんだよ」


露骨に嫌な顔をするオレガだが、ユガタの照れながら申し訳なさそうにする姿に毒気を抜かれる。


「もう一羽……お肉を採って貰えませんか……」


「てめぇ……見かけによらずだな」


ユガタの腹の虫がまた鳴き始めた。


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