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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十七章 ダウンタウン・ガール
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18. 契約完了


 

 

■ 17.18.1

 

 

 確かに親子げんかをしている最中なのだろう。

 部屋に入ってきたエリエットは、その場に留まって露骨に横を向き、部屋に幾つもある椅子に座ろうとも、父親と名乗った男と目を合わせようともしなかった。

 丁度父親を毛嫌いするお年頃だ。

 この辺りは地球人も銀河人類も似た様なものだった。

 

 そして彼女のこの態度が、二人が親子であること、そして男の話が真実であろう事を示していた。

 とは言え、一応はっきりと答え合わせはしておかないと、憶測だけで行動するわけにもいかなかった。

 

「エリエット。」

 

 本名は訊かせて貰ったが、そこは敢えて偽名の方で呼ぶ。

 

「なに。」

 

「この男はお前の父親だと言っている。本当か。」

 

 俺がほぼ真実だと確信している事を理解しているのだろう。

 男の表情は動かない。

 

「本当よ。」

 

「そうか。では、依頼はどうする?」

 

「未だ有効よ。」

 

「そうか。悪いがこの状態からお前を連れて逃げると、俺達は誘拐犯にされてしまう。ということで、こちらからキャンセルだ。」

 

「え? ちょっと! なに勝手なこと言ってんのよ。一度受けた依頼でしょ。ちゃんと完了させなさいよ。」

 

 エリエットが俺の方を向いて喚く。

 

「依頼の実状が提示された内容と著しく異なった場合、依頼そのものが違法であった場合、正当にキャンセルできるケースは色々あるが、そんな理屈はどうでも良い。要は、俺がこの依頼をこれ以上遂行する気が無くなった。だからキャンセルだ。」

 

「待ちなさいよ。勝手にキャンセルってどういうことよ。あたしは依頼主よ。違約金請求するわよ。」

 

 そうしたければすれば良い。

 十七のガキが親への反抗心から粋がって家を飛び出したのをこれ以上助ける気にもなれなかった。

 彼女は父親が他星系の学校に行くように言った意味をもう少し考えてみるべきだし、自分の意見を通すなら通すでもう少し冷静になって父親と話し合うべきだ。

 家庭内で解決すべき問題で、俺達他人がくちばしを突っ込んでかき混ぜて、状況をややこしいものにするべきでは無い。

 

 乳幼児では無いのだ。

 十七年も生きてきたならば、ただ癇癪を起こして暴走するだけで無く、知性のある人間らしく物事を冷静に考えて相手と交渉するというやり方をそろそろ身に付けてもいい頃だ。

 

 ま、似た様な年齢で外国の貨物船に密航した俺が余り偉そう言えた義理でも無いがな。

 バカなことをやった分だけ、それがいかに不利で損をする行動であるかというのを実体験を元にしているとも言えるが。

 そして、そんなバカはまだ世間を知らない若い時だからこそ出来る、と言うのも真実だ。

 

 俺の目の前でソファに腰掛けて娘の癇癪が収まるのを待っている男が、実はとんでもないDVオヤジでも無い限りは、いずれにしてもこの問題は親子の間で解決するべき問題だった。

 

 そこでまだ疑問が残っていることを思い出した。

 俺はなおもギャンギャン喚いている元依頼主を視野の外に追い出すと、その保護者の方に向き直った。

 

「教えてくれるか? あんたとブルキャルが彼女を追っていた理由は分かった。では残りの二つの組織の方はどういう理由があって彼女を追っていたんだ?」

 

 するとドルニコという名前で、彼女の父親だと名乗った男は少し不思議そうな顔をして言った。

 

「単純な話だ。私の娘だから追った。その程度の理由だろう。娘の身柄を確保すれば、何か私にひとつふたつ位は無理なお願いを聞いて貰うことが出来るとでも思ったのだろう。リドとデンベグタとは最近意見の食い違いがあってね。我々の間に出来たちょっとした溝を埋めて主に私の方から歩み寄って彼等と平和的に手を取り合うために、良い架け橋になると思ったのだろうな。そういう意味では君達はとても良い働きをしてくれた。」

 

 街中で派手な殴り合いをし、死人や重傷者が何人も出る乱闘事件を起こし、果てはLASや爆発物まで放り込んで街角の一部を吹き飛ばすほどの銃撃戦が発生した。

 ヤクザ者だけで無く、一般の住民にもそれなりに死傷者が出ただろう。

 それが全て、一人の娘が親子喧嘩をして家を飛び出しただけの事から発生したとは。

 俺自身も右手を失い、大小様々な怪我を全身に負うことになった。

 やれやれ、だ。

 

「分かった。最大の難問が解決した。礼を言う。で、俺達はもう帰っても構わないのか?」

 

 ほぼテロ事件のような大騒ぎを引き起こしたつまらない理由を知って、酷く疲れた思いがした。

 ある意味、俺達はただ巻き込まれた被害者でしかなかった。

 

「ああ、構わんよ。この騒ぎの責任は連中に取って貰う。娘の家出を手伝ったことに関しては少々思うところもあるが、結果的に君達は娘の安全を確保し、最後まで守り抜いてくれた。延いては私の立場も守ってくれたことになる。逆に礼を言わねばならん程だ。軍警察には私の方から言っておく。」

 

 裏社会と癒着している碌でもない警察組織と思っていたが、こうなるとその裏社会の影響力がありがたい。

 このまま引き留められたのでは、レジーナに戻れるのはいつになることやら分かったものじゃない。

 国家権力などと云うものは、時にマフィアなどよりも余程理不尽且つ頑迷で執念深く、そして(たち)の悪い組織と化すことがある。

 警察としては容疑者を手放すなどもってのほかだろうが、それをさせるだけの力をドルニコは持っているのだろう。

 道理の分かっているマフィアのお偉いさんの方が、余程に合理的で話の分かる存在なので助かる。

 

 そして今更ながらに危ない橋を渡っていたことに気付く。

 この依頼は、もし本来の依頼内容通りに完了させていたら、そちらの方が余程ヤバイ事になっただろう。

 

「そうか。それでは俺達は船に戻る。世話になったな。」

 

 そう言って俺は立ち上がる。

 俺の後に続いてルナも立ち上がる。

 

「依頼はキャンセルではなく、完了にしておこう。それで問題無いか? 実際、娘を守り抜いてくれた。」

 

「ああ、もちろんだ。問題無い。」

 

 問題などあろう筈も無かった。

 完了にしてくれれば、依頼の成功率も上がり、俺のスコアも良くなる。

 もっとも、グロードレリにまた世話になるかどうかは微妙なところだが。

 

 ふと目をやると、エリエット改めエリメーテが俺達を睨んでいるのに気付いた。

 彼女の恨みを買ってしまっただろうが、だが今回の話は明らかに父親の方に理がある。

 自分の意見を通したいなら、癇癪を起こして家を飛び出すのでは無く、筋道立てて冷静に父親と話し合うべきだろう。

 少なくとも俺達と話している間、ドルニコはそれだけの冷静さと度量を示していた。

 そして娘のことを大切に思っているという事も。

 

「癇癪起こさずに親父さんとちゃんと話せ。そんな分からず屋な男じゃ無いだろう? 感情的に父親を嫌っているだけじゃ、いつまで経ってもガキのままだ。そろそろ大人になれ。」

 

 そう言って頭に手をやろうとしたら、その右手が無いことに気付いた。

 どうやら昨夜ここの医療部門で吹きかけられた麻酔薬は案外とよく効くものだったようだ。

 痛みは殆ど感じなくなっており、右手が無い事を忘れるほどだった。

 

 思い直して左手をエリメーテの頭に置き、ゴシャゴシャと髪の毛をかき混ぜる。

 嫌そうな顔をしてエリメーテは頭を反らして俺の手から逃れた。

 そのまま歩いて部屋のドアに近付くと、ドアが自動で開いた。

 開いたドアから部屋の外に出ると、エリメーテを送ってきた警官がドアの外に立っていた。

 警官は仏頂面で俺達のことを睨み付けていたが、部屋を出て歩き去る俺達を黙って見送り、呼び止めるようなことはしなかった。

 

 部屋から出てすぐにネットワークが繋がるのを感じた。

 やはり、先ほどの部屋はネットワークを遮断するような機能を持っていたようだった。

 

「レジーナ、聞こえるか?」

 

 レジーナのIDを呼び出し、声を掛けた。

 

「マサシ! 無事ですか!?」

 

 まるで跳ね返ってくるかのように、すぐにレジーナが応答した。

 

「無事だ。ルナも一緒だ・・・ああ、右手は失ったままだが、特にそれ以上傷は増えていない。暴行を受けてもいない。案外悪くない扱いだった。」

 

「心配しました。」

 

「済まん。警察署に着いてすぐにネットワークを遮断する首輪を付けられてな。もう大丈夫だ。二人とも釈放された。今からレジーナに戻る。ビークルを手配してくれるか。」

 

「諒解です。ビークルの手配は良いのですが、依頼の方は?」

 

「詳細は戻ってから話すが、依頼は完了扱いになるはずだ。ステータスが変わるまでしばらく掛かるかも知れないが、グロードレリのデータベースを確認しておいてくれ。」

 

「諒解です。」

 

 回復したネットワーク越しにレジーナ達と話をしながら警察署の廊下を歩いて行く。

 何人もの警官とすれ違い、俺達の方に視線を飛ばしてくる者もいたが、呼び止めようとする者は一人も居なかった。

 そして俺達が警察署の正面入口を通って外に出ると、メイエラが手配したビークルが駐まっており、ビークルは俺達二人を飲み込むとすぐに車体を浮き上がらせてレジーナが待つビスニステ港に針路を向けた。

 

 

■ 17.18.2

 

 

「お疲れ様でした。治療完了しました。現在調整液パージ中です。もうしばらくお待ちください。」

 

 頭の中に響くレジーナの声で、かなり強引且つ急速に俺の意識は覚醒させられていく。

 一瞬自分がどこに居るのか分からない状態になり、調整漕の透明なキャノピを通して見える狭い医療室の景色に、右手の再生治療と全身の大小様々な外傷の治療のために調整漕に入っていたことを思い出した。

 調整漕による大がかりな治療は長時間人口的な昏睡状態に置かれるため、治療後に記憶が混乱することがある。

 どうやらその混乱は一瞬で収まってくれたようだ。

 

 調整漕を満たしていた仄かに濁った液体が液面を急速に落としていく。

 調整中に人体から輩出される様々な老廃物を効率的に回収するためと、無理なく調整漕からでることができるように、この船の調整層は立てて設置してある。

 液面が下がり調整液がゆっくりと流れ落ちていくキャノピ越しに、俺の眼が覚めたとレジーナから連絡を受けたのだろう、ドアを開けて医療室に入ってくるルナの姿が見えた。

 

「シャワーで調整液を洗い流します。」

 

 レジーナの声と共に、頭の上から容赦ない水流が流れ落ちてくる。

 多少粘度を持つ水溶性の調整液が水流ですっかり洗い流された後にシャワーが止まる。

 

「キャノピを開けます。ルナがセンサーパッド類を取り外します。そのまま待機していてください。」

 

 レジーナの声が終わると同時に軽い音と共にキャノピが浮いた。

 濡れた肌にひんやりと感じる外気が、僅かに負圧になっている調整漕の中に入り込んでくる。

 キャノピが開き、ルナが手を伸ばして俺の身体のあちこちに張り付けられているセンサーパッドを取り外していく。

 どうせならもうこのままお世話されてしまおうと、俺も特に身体を動かすことなく彼女が全身のパッドを取り外すのを待つ。

 最後にルナが俺が咥えていた呼吸用マウスピースを取り外すと、同時に喉と鼻から柔らかいチューブがずるりと抜ける感触がして、咳き込むと同時に懐かしい匂いのする船内の空気が肺に入ってきた。

 

 どうやらレジーナがエアコンディショナーにディフューザを仕掛けているらしく、レジーナ船内の空気は仄かに良い匂いがするのだ。

 時に高級旅客船として運航されるこの船でもあるので、それはレジーナなりのオシャレのひとつなのだろうと理解している。

 

 ルナが手渡してくれたタオルで身体を拭き、用意されていた下着を着ける。

 治療された右腕を振るが、違和感は殆ど無い。

 以前とは筋肉量が異なるので、動かしたときの感覚が少し違うのはしょうがない。

 失った右手が思い通り動かせる形でちゃんと戻ってきたのだ。

 それで充分だ。文句を付ける筋合いなど無い。

 

「どれくらい経った?」

 

「10時間と25分です。」

 

 ルナから返ってきた返答に、違和感を覚える。

 

「確か、右腕の完全再生には最大72時間必要と言ってなかったか?」

 

「はい。それは通常の調整漕再生治療を行った場合です。調整液と修復用資材にニュクスがナノマシンを追加したことで、体組織の再生速度が劇的に向上し、工程が大幅に短縮されました。」

 

 ルナの台詞に一抹の不安を覚える。

 再生速度が向上したことに、ではない。ニュクスが関与したことに、だ。

 

「ニュクス? ちゃんと元通りに治したんだろうな?」

 

 本体は船内のどこに居るか知らないが、俺が調整漕から出てくる様子を間違いなくモニタしているであろうニュクスに問いかける。

 

「なんじゃ。見ての通りじゃ。ちゃんと右腕は付いておろうが。」

 

「そうじゃない。俺は『元通りに』治したか、と訊いてるんだ。」

 

「問題無く動くじゃろうが。なにが不満なんじゃ。」

 

 微妙に論点をずらして答えを返すニュクスの態度に、不安感がさらに募る。

 

「ニュクス? 俺の右手の骨の材質を言ってみろ。」

 

「なんじゃ、おかしなものは使うてはおらぬぞ。安全も確認されており、使用実績も充分に蓄積したカーボンウィスカーを中心とした結晶性ヒドロキシアパタイトと生体親和性プラスチックとのコンポジットじゃ。各関節の耐摩耗強度は十倍増しで、派手な組み手をしても右手が折れることはもうなかろうの。関節症とも死ぬまで無縁じゃぞ。」

 

 と、開き直ったかニュクスが得意気に言う。

 やりやがったな、こいつ。

 右手の動きに僅かに感じる違和感は、もしかして筋肉量の差では無くて関節材質の差か。

 

「てめえ。誰がそんな事しろつったよ?」

 

「してはならぬとも言うておらんかったがの。」

 

 なにおう。

 言うに事欠いてこの中二病の兵器オタクが。

 

 ・・・とは言え、やられちまったものはしょうが無い。

 今から元に戻せと言っても、また腕を切り落とさにゃならん。

 あんなに痛いのはもうゴメンだ。

 

「右腕だけだろうな?」

 

「ん? なんじゃ?」

 

「おかしな材質に置き換えたのは、右腕だけだろうな、と訊いている。」

 

「なにを言うておる。当然じゃろうが。一部だけ置き換えたら接合部分に無理が掛かって壊れてしまうわ。全体を均一な材質で造るのは基本中の基本じゃぞ。」

 

「・・・レジーナ。今ニュクスはどこに居る?」

 

「自室に居ます。」

 

「ようし分かった。レジーナ、ニュクスの船室のドアをロックしろ。船長命令だ。逃がさんぞ。」

 

 そう言って俺は医療室を出て中央通路を歩き、ニュクスの船室に向かう。

 

「あっ、本気でロックしよったの。なんじゃ、横暴じゃぞ。儂はお主のためを思って・・・」

 

「やかましいわ。今日という今日はもう許さん。レジーナ、ドアロック解除。」

 

「ドアロック解除しました。」

 

 ドアを勢いよく開けると、俺はニュクスの自室の中に踏み込んだ。

 中ではニュクスがソファに座ってうろたえたようにこちらを見ている。

 俺は大股で一気に近付くと、アイアンクローの要領で右手を伸ばしニュクスの頭を掴む。

 

「ぎゃー! こんないたいけな幼女に何をするんじゃ!? 止めんかお主、痛い痛い痛い! 殺されるー! 黙って見とらんで、助けたらどうじゃ!?」

 

 俺の後を付いてきて、部屋の入口からこちらを覗き込んでいるルナにニュクスが助けを求める。

 そんなニュクスをいつも通り冷ややかな表情で見るルナがボソリと言った。

 

「自業自得です。私は反対しました。」

 

 反対したとしても止めなかったなら同じ事だからな?

 このクソガキの処刑が終わったら、次はルナにオシオキだ。

 そう思ってもう一度入口を見ると、すでにルナの姿は無かった。

 

 大丈夫だ。

 航行中の船から逃げ出せるわけも無い。

 じっくり追い詰めてやろうか。

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 とうとうマサシの身体にもニュクスの魔の手が伸びてしまいました。

 このままどんどん魔改造されて、速く走るための脚二本追加して、攻撃力と防御力を増すために腕を左右二本ずつ追加して、首を飛ばされても大丈夫なように頭部に独立循環器系を導入して、ブレスが吐けるように口腔内に燃焼性物質のインジェクタを設置して・・・

 次からはちゃんと、右手を切り落とされたとしても右手は独自に船まで返ってくることが出来るようになります。 (嘘

 便利だね!

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全然出てこないと思ったら、最後の最後で持ってかれた。>ニュクス
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