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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十七章 ダウンタウン・ガール
89/90

17. 釈放


 

 

■ 17.17.1

 

 

 何も喋らない無愛想な警官の後に付いて延々と長い廊下を歩かされた。

 昨日より体調はましになっているとは言え、それにしても相変わらず怪我人に何の配慮も無い酷い警察署だと思った、

 まあどうやらこいつ等の中では俺達は死傷者を出した幾つもの乱闘事件と、白昼に街のど真ん中で起こり爆発物まで使用したとんでもない銃撃戦の首謀者という認識のようなので、そんな反社会的な行動をした半ばテロリストのような奴に対する扱いはこれ充分、とか思われているのかも知れないが。

 

 街の裏社会と癒着しているのか何なのか知らないが、いずれにしても俺達を無理矢理首謀者に仕立て上げて、実際のところは本当に騒ぎを起こした張本人であるヤクザ者どもの罪状を軽くしようとしているのかもみ消そうとしているのか、いずれにしてもそんな動きを見せる警官どもに対して此方も何の遠慮も気遣いもするつもりは無かった。

 

 エリエットを惑星ヒルデルまで送り届けるという今回の依頼は、ほぼ失敗したも同然だった。

 ここからいきなり警察が態度を改めて俺達を正しく被害者として扱って釈放し、依頼の続きを遂行できる様になるというなら別だが、まあそんな事は有り得ないだろう。

 エリエットからの依頼以外に今受けている依頼は無い。

 つまり、俺の方は幾らでも時間を掛けてゴネられるし、時間がかかったところで痛くも痒くも無い。

 徹底的にやり合ってハバ・ダマナン軍警察との関係が悪くなり、ダマナンカスの運送業組合から仕事を回して貰えなくなったら、活動拠点を別の星に移せば良いだけの話だ。

 

 ただ心配なのは、俺達と共に警察に捕まったエリエットが、裏社会と癒着している警察の手によって街中でも見境無く銃を抜きミサイルをぶっ放すようなイカレた連中の手に渡ってしまえば、その後はあまり楽しそうでは無い結末を迎えてしまう可能性があるという事だった。

 仲介したグロードレリからの情報提供にも色々不備があり失敗してしまった依頼だとて、もと依頼者である十七歳の子供が酷い目に遭うかも知れないというのはすっきりとしない夢見の悪い話だ。

 その辺り、外にいるレジーナやメイエラが上手いことやってくれると良いのだが、と思いはするのだが。

 

 愛想の無い警官に連れられて行き着いた先は、昨日押し込まれた取調室や一晩を明かした留置所の独房の入口のドアとは比べものにならないほどに豪華な造りの、廊下の突き当たりにあるドアだった。

 一目でVIP待遇の人間が使うために用意されたのだろうと分かるそのドアは、警官が近付くと音も無く左右に開いた。

 ドアの中はこの警察署の他の全ての部分とは大きく異なり、小綺麗な壁紙が貼られ、高価そうな家具や調度品が並べられ、そして何より汚れひとつ無く掃除の行き届いた部屋だった。

 警察署長の部屋だろうか。

 それにしては執務机も無く、そして生活感が全く無いほどに綺麗に整いすぎた部屋だった。

 そもそも俺が警察署長の部屋に呼ばれる理由もない。

 ニュクスやアデールが動いて連邦地球政府に働きかけ、地球政府からハバ・ダマナン政府を通じて軍警察に圧力でも掛かったのなら有り得ない話でも無いかと思うが、流石にそれは希望的な観測が過ぎるというものだろう。

 

 部屋に入り、この薄汚れた警察署には余りに似つかわしくない小綺麗で豪奢な部屋を一通り見回した後、壁際に一人の男が立っていることに気付いた。

 年の頃は五十歳を少々過ぎた辺りで、派手すぎない落ち着いた柄のシャツにスラックスという出で立ちのその男は、警察署長というよりもどちらかというと中小企業の社長と言った雰囲気を身に纏っていた。

 ただ民間企業の社長とは決定的に異なる点は、身体の中からにじみ出てくるような妙な威圧感と凄みだった。

 とても堅気の人間とは思えなかった。

 警察署の高官ともまた一風違ったその雰囲気は、その男が警察署の廊下の突き当たりにある妙に豪華な応接室に存在することに対して強烈な違和感を俺に与えていた。

 

「ああ、ご苦労。済まないね。その辺りに適当に座ってくれるか。」

 

 男が他人に命令することに慣れた口調で俺を連れてきた警官に声を掛けると、警官は何も言わずに後ろを向いてそのまま退室していった。

 そして俺に対して、部屋の中に二組ほどあるソファのセットを目線だけで示して座るように言った。

 

 警察署の建物の中の奥深い応接室に居て、警官を顎で使えるこの男は一体何者なのだろうか、というのが目下の俺の最大の疑問だった。

 エリエットを連れ回してダマナンカスの街中を逃げ回っている間に事を構えた地元のマフィアの親玉が、俺達を消しにやって来たと考えることも出来たが、それにしては取り巻きを誰一人として連れていないのは妙だった。

 勿論本人がとんでもない武闘派で、取り巻きの男達など頼らずとも人一人簡単に縊り殺せるという可能性もあるが、しかし銀河中で悪評高い地球人を相手に、たった独りで相対するというのは少々無謀が過ぎるだろう。

 

 そんな事を考えながら男の指示したとおりソファに腰を下ろすと、再び部屋のドアが開いて別の警官が一人と、その警官に連れられてルナが入室してきた。

 見たところルナは昨日と同じ恰好をしており、特に暴行を受けたり、機械生命体だという理由で身体を切り刻まれたりするなどの不当な扱いを受けたわけでは無い様だった。

 無表情ながら心配そうな視線をこちらに向けるルナと眼が合い、俺の方も今のところ問題は無いと彼女を安心させるために軽く頷く。

 右手は無いんだがな。

 ま、それ以上に状況は悪化していないのは確かだ。

 

 男が警官に指示して、俺達の首に嵌まっている首輪を外させた。

 ルナを連れてきた警官が上着の中から小さなデバイスを取り出し、ルナの首に近づけると小さな軽い音がして首輪が開放されて外れた。

 警官はそのまま座っている俺の後ろに近付いてきて同じ操作を繰り返した。

 首元でカチリと音がしたと思ったら、首に掛かっていた重量と異物感が消える。

 首輪は警官が回収していった。

 

 首輪は無くなったが、ネットワークは回復しない。

 しばらく影響が残るのか、或いはこの部屋がネットワーク使用不可になっているのか。

 

 ルナも男に促されて、俺の隣に座る。

 ルナを送り届けた警官が部屋を出て行くのを確認すると、男はゆっくりと移動して来て俺達の向かいに座った。

 その動きにはやはりどこか余裕というか、貫禄のような者を感じる。

 

「貨物船レジーナ・メンシスⅡのキリタニ船長と、乗組員(クルー)のルナ、いずれもテラン、だな。」

 

 男は座ってすぐに口を開いたが、俺達に訊いていると言うよりも、もはや知っていることが当たり前である事柄を再確認するような口調だった。

 

「ああ、そうだ。あんたは?」

 

「ドルニコ・トラバルット。お前達を釈放させた。」

 

 ・・・釈放、と言ったか。

 だが男は、なぜそうする理由があるかなどの説明をする気は無い様だった。

 ネットワークが使えないのでスタンドアロンになっている自前の脳ミソを働かせて記憶を辿ってみるが、わざわざ警察署までやって来て俺達の身元引受人になってくれそうな知り合いにそういう名前の心当たりは無かった。

 グロードレリギルドが手配したのか、或いはアデールを通じてレジーナが手配したのか。

 

「あんたがそこまでしてくれる理由を聞いても?」

 

「娘が世話になったのでな。」

 

「娘? エリエットのことか?」

 

 確かエリエットが名乗った名前は、トラバルットという響きでは無かった筈だが、と思いながら聞き返した。

 勿論、偽名を使っているのだろうが。

 

「そう名乗っていたようだな。本当の名前はエリメーテという。私の娘だ。」

 

 なるほど。合点がいった。

 

「あんたの娘は随分物騒な連中から狙われていたようだが。何があった? それと、俺達は娘さんをエワソッド星系の惑星ヒルデルまで送り届ける依頼を受けている。依頼はまだキャンセルされていない。有効だ。俺達は彼女の安全を確保せねばならない。それも依頼のうちだ。」

 

 例え相手が親であろうと、依頼人本人の意思が優先される。

 地球など、未成年であれば親権者の意思が優先される法律を持つ国も多いが、知ったことでは無い。

 それが俺のやり方だ。

 依頼が未だ継続中であるならば尚更だ。

 

「運送組合に言って依頼はキャンセルさせてもらった。ネットワークに接続できるようになったら、確認できるだろう。お前達はもう無関係だ。これ以上この件に首を突っ込むな。依頼人都合のキャンセルだ。お前達にペナルティは付かない。」

 

 この場で確認できないのを良いことに嘘を吐いている可能性もある。

 が、不思議と本当のことだろうという気がした。

 この男ならそうするだろうし、それが出来る力も持っていそうだ。

 

「それは後で確認させて貰うとしよう。乗りかかった船なんでな。おいそれとはいそうですかという訳にもいかん。で、あんたはなにもんだ?」

 

 運送組合も同じで、依頼人本人が申し立てない限りは、そう簡単に他人からの依頼キャンセルを受け付けるわけが無い。

 当然だ。信用問題に関わる。

 例え親と言えども、依頼人とは別の個人だ。

 依頼人に対して悪意をもって不利な行動をしないとは限らない。

 世の中色々な家庭の事情があるものだ。

 が、この男はどうやらグロードレリ運送業ギルドを納得させるだけの理由か力を持っているらしかった。

 そして、裏社会と癒着している警察に対して力を振るえる立場。

 俺達との面会に、警察がこれだけの部屋を用意する相手。

 つまり、裏社会に属する人間、ということか。

 それも、かなりの’力を持っている。

 

「ブルキャルの関係者、とだけ言っておこう。ブルキャルが何か、は知っているな?」

 

「エリエット・・・いや、エリメーテだったか。あの娘を追っていた組織のひとつだ。あの娘が俺達と接触したときにはすでにブルキャルに追われていた。最初から彼女を追っていたのが、ブルキャルだ。」

 

 まてよ。

 ということは。

 ブルキャルは彼女を保護しようとして追っていたのか?

 その割にはエリエットはブルキャルからも逃げようとしていた。

 どういうことだ?

 

「その通りだ。勿論うちのファミリーとしてはあの娘を傷つけるつもりなど全く無かった。ただ追いかけて、連れ戻そうとしていただけだ。」

 

 と、男は俺の考えを読んだかのように答えた。

 確かに。

 ブルキャルの人間が、俺達に銃を向けたことは無い。

 いきなり襲いかかってきたのは全て、他の組織の連中だけだ。

 

「じゃあなぜ彼女はブルキャルからも逃げようとしていた? 身内のようなものだろう? ブルキャル以外の追っ手も食い付いてきて身に危険が迫っても、ブルキャルに保護を求めるという選択肢は彼女の中に無かった様に見えたが?」

 

 鷹揚とした雰囲気で俺達の前に座り、エリエットの父親を名乗るこの男が嘘を吐いている可能性もある。

 しかしそれでは、俺達まで釈放させた事の説明が付かない。

 エリエットを始末するために連れ去りたいなら、俺達が警察に拘束されている方が都合が良いはずだ。

 そうすれば、エリエットを始末して全てを俺達になすりつけて、そして俺達を警察に始末させれば一件落着だ。

 

「追いかけていたうちのファミリーの若いのから、というよりも私から逃げようとしていたのだな。」

 

「なぜだ。父親なんだろう?」

 

 勿論ただ単に親子の仲が悪いだけ、という可能性もある。

 そういうお年頃だしな。

 

 男はしばらく黙り、その後僅かに雰囲気を柔らかくして言葉を続けた。

 

「親子で少々意見の食い違いがあってね。上級学校の進学先として、父親である私の職業を知る者の居ない他星系への留学を私は強く勧めたのだが、あの娘は数少ない友人の居る地元の学校へ進学することを強く希望した。私のことを知ってなお親しくしてくれる親友がいるのだな。」

 

 成る程な。

 で、父親と酷い言い合いになって、分からず屋の父親に腹を立てた娘が持ち前の行動力を存分に発揮して、家を飛び出した、と。

 

 その手の職業に就いた者の娘として、ありがちな話だろう。

 この男が主張したいストーリーは分かった。

 

「理解した。ただあんたが話してくれた一連の話が、嘘か本当かがまだ分かっていない。」

 

 状況としては矛盾していない。

 だが、矛盾していない作り話をでっち上げるのは、そう難しいことではない。

 

「ふむ。仕事熱心なのは良いことだ。客の信用と信頼を得るために必要な資質だ。」

 

 そう言って男は軽く笑った。

 

「では証明しようか。ぼちぼち来る頃だと思うが。」

 

 と、男は続けた。

 

 何が来る?

 薄汚れた警察署の署長が来てエリエットとこの男の親子関係を保証しようと、何の証明にもなりはしない。

 ダマナンカス市庁の役人でも連れてくるか?

 

 すると男が言った通り、部屋のドアが開く音がした。

 その音に振り返ると、開いたドアから再び灰色の制服を着た警官が一人入ってきて、その後ろに続いてもう一人入室してくる者がいた。

 かなり不機嫌な顔をして、逃走劇の間の様々な出来事で薄汚れ破れかけた服を脱ぎ去り、身体の汚れを落として清潔な服に着替えたエリエットが部屋に入って来たところでこちらを見て、俺達の正面に座る父親と名乗った男の姿を認めて不貞腐れたようにその場で足を止めた。

 

 

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 警察署の中ですが、今のところまだ現実に警察にご厄介になったことはなく、趣味で書いている小説で警察署に取材に行くような者でも無いので、想像だけで書いてます。

 まあ、SF小説の中の組織なので、現実世界の警察組織と大きく異なっても問題は無いのですけれどね。


 この警察組織のことを「ハバ・ダマナン軍警察」と呼んでいますが、これは「ハバ・ダマナン駐留軍の内部組織としての警察」という意味では無く、「ハバ・ダマナン駐留軍が担っている警察機構」という意味です。

 つまり、軍と警察の組織が分離されていない、軍の組織の一部で警察機構を担っているということです。

 ので、階級なども軍組織と同じ形式ですし、使用する装備も一部専用装備はありますが軍と共通のものです。

 組織が暴走したときに手を着けられない酷いことになるという危険は孕んではいますが、そこの制御さえちゃんとすれば、この形態の方が組織として効率的であるのは確かです。

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