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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十七章 ダウンタウン・ガール
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12. 地下道大通り


 

 

■ 17.12.1

 

 

 俺達三人は、当然近寄ってくる追跡者の情報を共有していた。

 俺とルナをバックアップしてくれているレジーナのネットワークチーム、つまり今この時正に中心となって俺達の支援をしているメイエラと、追っ手の追跡を掻い潜りダマナンカスの街中をエリエットが逃走するのを助けていた、彼女のバックアップであるイールディが情報の共有を行った結果、双方の情報は共有され、メイエラとレジーナが提供する周辺マップや追跡者の情報がエリエット達にも共有されている。

 だから、コンテナの向こう側に居る追跡者の存在について、エリエットも俺も認識しているものとしてルナは何も言わずに動いたのだろう。

 

 搬入された資材や何に使うとも知れないガラクタや、個人所有のビークルなどが乱雑に散らばる地下二階の薄暗がりの中、先頭を歩いていたルナは丁度目の前に転がっていた、うち捨てられた何かの機械の筐体を蹴り空中へと飛び上がった。

 肉体改造を行ったというルナの膂力は凄まじく、近くに居てさえ聞こえるかどうかという軽い音を立てたのみで、その身体は6m以上あるかと思われる天井へと軽々と到達した。

 天井を走る配管を掴んだ彼女は、飛び上がった勢いをさらに加速して追跡者がいると思われるコンテナの向こう側へと一瞬で姿を消す。

 コンテナの向こう側からドサリと云う音が一瞬聞こえて、そして静かになった。

 一拍の間を置いてコンテナの向こう側からルナが姿を現す。

 音も無く俺達の元に走って戻ってきて頷いた。

 

「追っ手は無力化しました。行きましょう。」

 

「助かった。」

 

 俺が発した言葉を聞いてもう一度軽く頷くと、ルナは踵を返して再び地下通路を目指して俺達を先導し移動を開始した。

 コンテナの向こう側には、ルナに無力化され意識を失った大柄な男が床に横たわっているのが見えた。

 マップ上には他に障害になりそうな追跡者のマーカは無い。

 程なく俺達は地下通路に辿り着き、辺りを見回して、逃げる俺達を視認できる範囲に追っ手が居ないことを確認すると地下通路に逃げ込んだ。

 

「何なのよこの子。上での格闘といい、人間業じゃ無いわよ。噂には聞いてたけど、テランってこんななの?」

 

 薄暗かったビルの地下二階とはうって異なり、明るく照明が灯っている地下通路を走りながらエリエットが言った。

 十五歳程度のまだ大人になりきっていない外見のルナが、何人ものやくざ者を同時に相手にして大太刀回りを演じたかと思えば、今度はまるで映画に出てくる忍者か何かのように人間を遙かに超える身体能力を見せつけて音も無く男一人を無力化した。

 幾ら地球人が戦闘民族として銀河にその名を轟かせているとは言っても、ルナの身体能力と戦闘能力を見れば度肝を抜かれるだろう。

 

「まあ、な。ああいうことが出来る奴も居る。」

 

 強化された生義体を持つ彼女だから出来る話であって、俺には無理だがな。

 

「・・・ああ、そういうこと。」

 

 少し経って、エリエットが納得したような声を上げた。

 多分、彼女のバックアップであるイールディから話を聞いたのだろう。

 わざわざおおっぴらに喧伝するようなことはしていないが、しかしレジーナの人員構成を秘匿するようなこともしていない。

 メイエラをそれなりに感心させるほどの腕を持つハッカーであれば、少し本気で調べればルナが機械知性体の生義体であることは調べが付くだろう。

 意外だったのは、それを知ったらしいエリエットが、ルナに対して嫌悪の感情を見せなかったことだ。

 機械知性体に対して悪感情を持っていないのか、或いは地球人としてヒトと共に生きている地球生まれの機械知性体は別枠なのか。

 その詳細については船に戻ってから訊けば良い。

 いずれにしても今この状態でエリエットがルナを毛嫌いして行動に支障が出るようなことが無くて安心する。

 

 通路を抜けた先は幅15mはあろうかという地下道だった。

 どうやら表通りの道路に沿って造られているようで、かなりの数の通行人が行き来している。

 地下道には所々に今俺達が抜けてきたような通路が接続されているが、商店の類いは存在しないようだった。

 地下街のような使われ方では無く、天候に左右されない歩行者用通路といった使われ方だけなのだろう。

 所々にAARの広告などが表示されてはいるが、全体的に彩りと変化に乏しくとても殺風景な印象を受ける。

 地球とは違ってそういうところが銀河種族の街だと感じる。

 

 そして俺達の視界にAARで表示されている黄色い誘導線は、その地下道の中を真っ直ぐに延びていた。

 辺りを警戒しながら、他の通行人の流れに紛れるようにして誘導線に沿って少し足早に歩き始める。

 

「この地下通路にカメラの類いはあるのか?」

 

「誘導線に沿ったカメラはすでに全部無効化してある。あんた達の姿が映ることは無いわ。ついでに言っとくと、IDもマスクしてあるからそっちから追跡することも出来ないわね。安心して良いわよ。」

 

 俺の問いに対してメイエラの返事がすぐに返ってきた。

 さすがと言うべきか、ウチのネットワークチームは有能で有難い。

 通りに面したビルの地下への連絡通路なのだろうが、所々にそういう通路が枝分かれしているだけでほぼ一本道のこの地下道では、前後を挟まれると逃げ道は無くなる。

 さっきの様に相手が武器を持っていなければ、多少の人数ならば素手ゴロでどうにかなるが、SMGなど持ち出されたら一巻の終わりだ。

 ルナがどれだけ武装しているのか不明なところがあるが、少なくとも俺が持っているのはナイフと化学式ハンドガンだけだ。

 ましてやエリエットがそういう場面で役に立つ様な武器を持っているとはとても思えない。

 地上とは違って、俺達に接近してくる追っ手を確実に把握でき、また目的地に向かって直線的に移動できるというのは有難いが、商店や様々な障害物を遮蔽体として使うことが出来たビルの中よりもここは危険な場所だと思われた。

 

「拙いわね。前方地下道にリドに所属していると思われる集団。十一人。距離200m。近付いてきてるわ。」

 

 地下道を100mも進まない内にメイエラが警告を発した。

 200m? 目と鼻の先じゃないか。

 

「なんでバレた? カメラもネットワークも押さえてるんじゃ無かったのか?」

 

「押さえてるわよ。これは全くの偶然。リドのシマはこの辺りなのよ。応援の依頼を受けてどこか近くの事務所から現場に歩いて向かっている連中に偶々ぶつかったのだと思う。運が悪かったわね。」

 

 脅威に直面するこっちにしてみれば、運が悪かった、では済まされない。

 

「つまりそいつらは俺達がここに居ることを知らないんだな?」

 

「多分。」

 

「よしルナ、そこを左に曲がって・・・」

 

「止めた方が良い。もう近すぎる。相手はこっちが女二人男一人の三人組だって知ってる筈。一致する三人組が目の前で逃げるような素振りをすれば、確実に目を引く。相手は十一人も居る。誰かが気付く。」

 

 50m程前方で地下道の左側の壁に口を開けている脇道に逃れようとしたらメイエラに止められた。

 

「クソ。このまま知らんぷりして通り過ぎた方が良いってのか?」

 

「上手くすれ違えれば、悟られずに包囲網の外に抜けられる。そこで左に曲がると多分確実にマークされる。下手すれば包囲網の中に逆戻り。」

 

「仕方ない。お互いさり気なく少し間を開けよう。他人の振りして、三人ひと組みだと気付かれない様にするぞ。」

 

 そう言って俺は歩行速度を少しだけ落とし、さり気なく右に逸れて、前を行くエリエットとの距離を広げる。

 逆にエリエットは徐々に左の壁際に寄っていき、白々しくお互い他人の振りをして歩き続ける。

 くそったれめ。一難去ってまた一難、か。

 

「リドのグループとの距離100m。リドと思われる連中にマーカを付ける。赤、L21からL31。けど、見ちゃダメだからね。変に気にすると不審がられてバレるわよ。」

 

 メイエラの言葉と共に、100mほど前方にいる肩で風を切ってこちらに向かって歩いてくる柄の悪そうな男達の集団の上に一斉に赤色のマーカがAARで表示された。

 目を合わさないよう、露骨に視線を向けないようにして赤マーカの男達を観察する。

 

 男達は互いに何か話ながら、まとまり無くこちらに向かって歩いてくる。

 見た感じでは、それほど急いでいる風でも無く、せき立てられ神経質になっている感じでも無い。

 上から現場に行くことを指示されたが、真面目に言うことを聞く気が無いのか、ただ単に危機感がないのか、そんなところか。

 趣味の悪いタイトなシャツを着ているだけの奴も居れば、ダブダブの上着を引っかけている奴も居る。

 何人かは身体の動きに僅かなぎこちなさを感じる。

 多分そいつらは、上着の下に重い何らかの携行火器を隠し持っているのだろう。

 気付かれると面倒な事になりそうだった。

 

 俺は、万が一気付かれてしまった場合の逃走経路を探しながら、男達に関心も無い一般の通行人の振りをして真っ直ぐ歩き続ける。

 

 左側の次の通路までは150mほどある。

 遮蔽物の無い中で、撃たれながらこの距離を走って逃げるのはキツい。

 右の壁には丁度リドの男達の向こう側に同じ様な枝道の通路の入口が見える。

 だが、右の道に逃げ込むためには男達の脇を走り抜けなければならない。

 俺とルナなら乱戦に持ち込んでなんとかなりそうだが、脚も遅いし荒事に慣れて無さそうなエリエットがそれをするのはちょっと厳しすぎる。

 左後ろには、今通り過ぎたばかりの通路が50m以内にある筈だ。

 そいつを使うか。

 だが振り向いて通路との距離を確認するわけにはいかない。

 そんな事をすれば目立つ。

 努めて平静を保ち、さり気なく目立たず男達の脇を通り過ぎなければ。

 傍若無人に地下道の半分以上に広がって騒ぎながらこちらに近付いて来る男達を、他の通行人同様に触らぬ神に祟り無しと通の端の方に寄って躱す。

 

「・・・でよぉ、ルーデンの奴三杯目でひっくり返ってヨ。女の方はそれ見て呆れてどっか行っちまったヨ。でアイツはそのまま飲み屋の床抱いて朝まで寝てた、ってワケだ。」

 

「わはは。ヒデェ。オマエ、連れて帰ってやらんかったんか。」

 

「知るかヨ。こっちだって女連れだ。アイツの面倒まで見きれねえヨ。」

 

「ツレがしょっ引かれるより、ヤル方が大事ってか?」

 

「ったりめえヨ。」

 

 男達との距離が詰まれば、地下道で反響する連中の会話の内容が聞こえてくる。

 緊張感も何も無い、下らない馬鹿話だった。

 上から出ている指示がそれだけ緩いのか、或いは単にこいつらにやる気が無いだけか。

 追っ手の気が緩んでいるのは、俺達にとってはありがたい話だ。

 

「で、ヂソールズのアニキんトコ行ってヨ・・・ん?」

 

 あと数mで男達とすれ違って向こう側に抜けられる、というところで、さっきからデカい声で下らない事を喋り続けている趣味の悪いシャツを着た男がこちらを向いたのが視野の端で分かった。

 クソ。

 

「おいオメエ。そのガキども、オメエのツレか?」

 

 男は完全に俺の方を向いて喋っている。

 どうやら運の悪いことに、女二人男一人という手配書の内容を覚えるだけの頭はあったらしい。

 もしかすると常にAARで視野に浮かんでいるのかも知れないが。

 俺は男に話しかけられたのに気付かない振りをして、なんとか通り過ぎられないかと歩き続けた。

 その右肩を掴まれた。

 ち。無理だったか。

 

「テメエ、シカトこいてんじゃねえぞ。訊いてンだろが。オメエのツレかよ?」

 

 男は目線だけでルナとエリエットを指した。

 当然二人とも、迷惑なチンピラとのもめ事に巻き込まれるのは勘弁、という風を装って少し足早に遠ざかっていく。

 

「は? 私ですか? ツレ? え? 何ですか?」

 

 と、素っ恍けてみる。

 どこまで通じるか。

 今や十一人いるチンピラども全員が足を止めてこちらを見ている。

 さすがに数が多すぎる。

 どうするかな。

 

「あ? 惚けてんじゃねえぞテメエ。その前のガキ二人だヨ。おいガキ、止まれ。オメエ等だ。止まれっつってんだろがヨ!」

 

「え、何ですかあなた。ちょっとやめてくださいよ。今からお客さんとの約束があるんです。」

 

 と喋り続けて時間を稼ぎつつ、男の注意をこちらに向けようとする。

 が、男は視線をルナとエリエットから外さない。

 仕方ない。

 

「やめてください、って。急いでるんですよ。お客さんを待たせちゃってるんで。」

 

 そう言って、俺の右肩をがっしりと掴んでいる男の右手を、拳を握った右手を内から外に回して強引に弾く。

 男の右手が外れた。

 そして男の注意が俺に戻った。

 

「テメエ、舐めたマネしてっじゃねえぞコラ!」

 

 と、唾を飛ばしながら男が捲し立てる。

 汚え。

 

「おい! そいつらだ! その服、例のテランの船のクルーが着てるヤツだ。ジストルーが言ってる! そいつらIDにマスク掛かって、監視に映ってねえ!」

 

 ち。

 ばれちまっちゃ、仕方がねえ。

 もう左前の通路が近い。

 

「エリエット、走れ! 左の通路に入れ! ルナ、手伝え!」

 

 と、ネット越しに言うと共に、自由になった右手の底掌を男の鼻に叩き込む。

 グジャリと鼻の潰れる感覚があって、盛大に鼻から血を吹きながら男が後ろにのけ反る。

 エリエットが弾かれたように駆け出す。

 その向こうにいたルナが、床を蹴り、空中で身体を捻ってこちらを向きながら突進してくる。

 ぶっ倒れる男の向こう側で、男達が上着の下に手を突っ込んだ。

 マズいな。

 こいつら最初から武器を使う気満々だ。

 と内心顔を顰めながら俺も床を蹴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 更新遅くなりました。

 正月休みは家庭の事情と家族サービスで殆ど執筆の時間が取れず。

 まあ、今年もぼちぼちと更新して参ります。

 カメ更新になってますが、愛想尽かさず、今年もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。


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