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獣の段通  作者: ハシバミの花
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幕引

 先日彼の大段通を見せられた歴史資料施設が、此の物語の舞台と成った砦の場所に有る。

 其処は実際の砦で在り、実際に戦争にも使われて居る。

 御陰で具体的な想像が膨らみ、人物達が用紙の上でより生き生き活動する様に成った。書き上げるのに時間が掛から無かったのは、現地の風を心の翼に受けたからで在ろう。

 彼の段通を裏側より眺めた時、私の此の身にも、登場人物達の如き霊感が舞い降りたのだ。

 九枚の段通を、土台部分にて固く縫い合わせた其の創意と工夫が、己が内腑を熱く奮わせた。


 現地の研究者、砂漠民族の系譜の若者に、帰国寸前に草稿の複製を渡す事が出来たのは、筆の遅い自分にして幸運で有った。

 後日丁寧な感想が送られて来て、大いに発奮させられたのだが、

「先生の(したた)めた物語は、年代が幾つも重なっていて、少々混乱致しました」

と云う、誠、学者らしい視点には、毎回(なが)ら辟易させられて仕舞った。先生呼びも参ったが、此の物語は、基本的に私の妄想なので在る。

 友人はと言うと、例の(した)り顔で言った物だ。

「以前より小説が巧く成って居る。本腰でも入れる積りかい?」

 果てさて、短き話だが、一気に書き上げた所為で(いささ)か疲れを覚えて仕舞った。

 帰国後ゆっくりする暇も無かったが、今夜辺りは酒も飲まず寝て仕舞おうと仕事を片付けた折りに、自棄に執拗く呼び鈴を鳴らす御人が居る。

 鳴らし方で判ろう、友人で在る。高い酒を持って来てやったぞ等と、言葉は丸切り悪魔の誘いで在る。此の扉を開けてはならぬ。

 周囲の住民に迷惑だと一言言って追い返して遣ろうと思うが、如何為るかは分かった物では無い。何せ私は最後まで彼女を跳ね付けられた事が無い。

 だが、今夜許りは帰って貰おう。

 如何なる美酒をも受け付けぬ、鋼の決心が此の身に備わって居ると、彼女に思い知らせて遣るのだ。



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