全てを観測した男
時は2016年。
佐部タスクには、欠けている要素があった。
それは隣人だ。
「なあ、消えちまったけどお前なんて名前だ」
応答はない。
世界にも応答がない。
「だあれだったんだ」
ふと涙がこぼれる。
俺を救ったのか。
大きな爆発音が聞こえる。
「ああ、始まった」
第三次世界世界大戦である。
都市開発も進むこの町でも始まった。
すると気づいた。
隣人が消えていることに。
それが二千二十三年。
消えてしまった隣人の話である。
誰も知らないとは言わせない。
もしかすれば、あの人だったのかもしれない。
ただ時が過ぎていく、酒が進む。
酒だけを強奪して毎日を過ごしている。
機密情報によれば、自衛隊と機関で内部衝突があったらしい。
自衛隊は壊滅。
機関が自衛隊の任務をもらっていた。
水簿らしくキリンの酒を飲む。
人生どうでもよくなっていた。
ただ時が過ぎる。
「ああ、いかんねえ」
いとこであったおじさんも同じことを言う。
退廃する日本。
情報戦争の後の日本だ。
世界は中枢となる男が必要であった。
それには強固な自己が必要である。
一人が抜擢された。
二つの記憶を持っている人間である。
ESPである人間が必要である。
なおかつもう一つの世界を観測する人間だ。
名前はもう剥奪されていた。
だから抜擢されていたのかもしれない。
いろいろと考えていた。
いとこの子供かもしれない。
だがとなりで消えた。
誰もしらない人間だ。
「ああ、涙がこぼれるだなんておっさんか」
声もしない声がこころからあふれる。
「うるせえよお」
無意識的にあざ笑う。
彼かもしれない。
今になって分かる。
レベル0の人間に。
この世にはファンタジーがあった。
しかし、一人の男がすべてを終わらせた。
それが一年越しの今になって分かる。
彼の人生がノベライズ化、されていた。
身体強化にしか使えないと思っていたが。
世界は平和じゃない。
でもかつてよりいいんじゃないだろうか。
なにもみていない。
そうだと信じたい。
トウマいままでありがとう。