学校の先輩が鈍感な後輩ちゃんのツイてない日
私は先輩が好きだ。
一応補足だけど、先輩っていうのは私の学校の先輩のこと。部活のでもなく、委員会のでもなく、ただの学年が一つ上の普通の先輩。
関わりなんて思い当たったキッカケがないけど、多分共通の知り合いとか、そんなとこだろう。そして、いつの間にか一緒にいることが多くなっていた、そんな人。
私が先輩のことを好きになったのも、一体いつの事だったやら。覚えていないくらい前の事なのか、それとも覚えていられないくらい好きになるキッカケが多かったのか。
多分、後者だろうな。
先輩は本当に鈍い人で、そのくせ優しいというか、キザというか。でも嫌味を感じさせない優しさを持ち合わせた人で。
そこになんとなく。まぁ何、惹かれたのかもしれない。
・・・自分で言ってて顔が暑くなってきた。水でも買いに行こうかな。
因みに私が先輩の事を好きなのはどうやら周知の事実らしく、友達からは結構な頻度でいじられる。
いつから好きなのとか、どこが好きなのとか。あとはまぁ
いつ告白するの、とか。
・・・そんなの分かんないっての。何、告白って。
どうやったらいいのかも分かんないし、気持ちを相手に伝えるって恥ずかしすぎないか。
周りにはお付き合いをしている人もいるし、そういう人を参考にすればいいのかもしれないけど、正直アドバイスを聞くのすら何か恥ずかしい。
私はただ先輩と一緒に居れればそれでいいんだ。それ以上は望まないし、望んでもどうせ手には入らないだろうし。
先輩は結構な人気者だし、そんな先輩の事が好きな人もたくさんいるし。人気者でも、目立つ奴でも、頭の良い奴でも、ましてや別に可愛くもなんともない私なんかが先輩に選ばれるわけないのだ。
あぁ、何か泣きそうだ。一人で考え事をすると嫌な気持ちにしかならないな、これ。
まぁいいか、もう自販機も近いし。水を買って教室戻って、後は部活から戻ってくるはずの友達と話して楽しくなろう。
ん、新作のお茶が出てる・・・。これは悩むな、水かお茶かどうしよう。
ありゃ、よく見たら水は売り切れか。正直水が飲みたかったんだけど、コレはツイてないな。
・・・ってあれ。あの後ろ姿って。
「好きです、付き合ってください!」
・・・・・・・・・・・・・・。
あは、どうやら今日はとことんツイていないらしいな、私。
その後は、結局何も買わずに教室へ戻った。
頭の中は不思議とすっきりしていて、何だかとっても晴れやかな気分ですらある。
これは凄い、今ならきっとテストも怖くないぞ。
それじゃあ荷物を持ってと。
さて、帰りますか。
・・・何だ、下駄箱までがやけに遠いな。いつもだったらもう靴を履いて校門を抜けているぐらいの感覚なのに。
まぁどうだっていいや。とりあえず歩いていればいずれ着くし。
何も考えず、歩いて歩いて歩いて。
今日はさっさと家に帰って寝ようかな。
・・・何だ、さっきから全く景色が変わってない気がする。
だいぶ歩いて疲れたんだけど。いったい何なんだこれは。
私、歩くのは結構遅いけど、流石にこれは時間がかかり過ぎだ。
いつの間にか何かのアニメみたいに異空間にでも飛ばされて、ならまだ分かるけど。
・・・いやそれも正直分からないけど、でもまだ納得は出来る。
だけどここは間違いなく現実だ。
だってその証拠にほら、今も部活終わりの友達が私の前方を通っていった。
ちょうどいいし、何かちょっと聞いてみるか。
・・・ってあれ、声が出ないな。どうしてだろ。
・・・ていうか、あれ。歩いてるつもりだったけど、私、立ち止まってるし。
・・・なんだこれ。何でだろう。
―――何で私、泣いてるんだろう。
あぁ、そっか。私、負けたんだ。
うじうじして、現状維持を望んで、本音を隠して。
だからきっと負けたんだ。
いや、それは言い訳かな。
だってさっきの女の子、凄い可愛かったし。あんな子に告白されたら、きっと誰だって受け入れちゃうよ。
そう、先輩も例外じゃなくてさ。
・・・あーあ。今日はホントにツイてないな、私。
本当に、ツイてないよ。
「・・・紗月?」
あぁ、聴きたかった声が、聴きたくない声になってる。
大好きだった声が、今だけはとっても嫌になる。
なんで今なんですか、先輩。
「・・・あれ、その声は先輩じゃないですか。一体全体どうしたんです?」
あーあ、可愛くない声。最悪だよ私。こんなぶっきらぼうに応えちゃってさ。
「・・・いや、どうしたはこっちの台詞だ。リュック背負ってもう帰るんだろう、こんなとこで立ち止まってどうした?」
それでも変わらず明るい声で話しかけてくれる先輩は、やっぱり優しい人だ。
先輩は私の様子がおかしいことに気付いてるんだろな。だからちょっと言葉を考えてた間があった。
そういう細かいとこには気が付く癖に。
何でこの人は、私の気持ちには気づいてくれなかったんだろう。
「・・・いやぁ、何。実は教室に忘れ物をしてしまいまして。今から取りに戻ろうとしてたんですよ」
我ながら下手な嘘。ホント最低な女だよ、私。
急いで涙を拭いて、後ろにいる先輩に振り返ったらさ。
ほら、先輩も困ったような顔をしそうだもん。
でも先輩、あなたはこういう時には決まって笑うんですよね。
私を励ますように。
相手をこれ以上傷付かせないように。
私の大好きな笑顔を、あなたはきっと浮かべるんですよね。
私には分かっちゃうんですよ、先輩。
だって、何時も一緒にいたから。いつだってあなたを見ていたから。
だからこそ。
だからこそ。
「あぁ、そうだったのか。しっかりしてる紗月にしては珍しいな。どうした、今日はもしかして」
あぁ、やめてください、先輩。
先輩の事だから。
いつも一緒に居た大好きな人の事だから。
その先の台詞と浮かべる表情を、嫌でも分かってしまうから。
どうか先輩、今だけは、本当に今だけは。
「ツイてない日か?」
その笑顔を、見せないで下さい。