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街の噂と子供達

我が家は、ど貧乏子爵家から貧乏子爵家へと舞い戻った。



母様は相変わらず華麗に解体を臨時で続けているし、父様も休みの日は狩りに出かけ、じい様も弟子が増えてしまっている。


私もサブロウ先生の稽古が無い休日は街でのアルバイトを続けている。


ノアと私は恋人にはなったが私の毎日は変わらない。


今日も街に出かけアルバイトが無いか探しに行く。



私のアルバイト先は知り合いの花屋の配達か、八百屋の配達か、レストランの食料品の下処理の手伝いだ。街に行き、この三店に声を掛けると日雇いで雇って貰える。


街をうろうろしているおかげで道や店に詳しいし、警備隊の人とも顔見知りだ。


今日は私が花屋に行くと、皆待ち構えていたのか花屋のご近所さん達から囲まれた。



「ちょっと、ミランダちゃん!あんたの婚約者ってノア・パーラメント様で間違いないのかい?」



花屋のおかみさん、マダム・チュチュさんから凄い勢いで肩を掴まれ揺さぶられた。


おお、これは中々の握力。流石長年花を担ぎ歩いた経験者。



「うん、そうだよ」



私が、揺さぶられながら、答えると、皆がうわああ!!と声を上げた。



「あんた!!大丈夫なのかい!!偉い男前って聞いたよ!!すごいお貴族様なんだろ?騙されてないかい?男好きの酒場のリージュが狙ってたって喚いてたよ!あんた、そんな男で大丈夫かい?ああこんなに可愛いミランダちゃんだ、騙されてるんじゃないのかい」



マダム・チュチュさんの手から逃れてほっとしていると、隣の雑貨屋のユリアお婆から抱きしめられた。



「ああ、あんたの前の婚約者はロクデナシって噂だったけどね。今度は女たらしで、男もイケると聞いたよ。なんて不憫な子だろうね。一生懸命働いて、成績も優秀なんだろ?学費を免除して貰ってるのかい?偉いねえ」



ユリアお婆に飴を貰いながら私は首を振る。



「学期末の試験で十位以内に入れば学費を免除されるけど、貴族は原則出来ないんだよ、しない、が正しいのかな。だから我が家は払ってるよ、子爵家だからね。その分、下の平民の人が学費免除されるんだ。だからアルバイトも続けるよ。あのね、ノアは良い子だよ」



皆がまた溜息をつく。



「ああ!うちよりも貧乏なお貴族様なのに、平民の事を考えてしっかりしているなんて、ミランダちゃんは貴族の鏡だよ!婚約者の事は庇わなくていいさ。色々噂は聞いたよ、偉い色男で、男からも好かれて、第三王女からも言い寄られたんだろ。なんだか、勇者に助けられたとか聞いたが、男が助けられるなんて情けないよ。で、色々あって、ミランダちゃんの婚約者になったんだろ?ああ、こんなに可愛い子がねえ」



皆が涙をためて私を見る。


うん、ノアの噂、酷いな。



「えっとね、今日は仕事は無いのかな。ないならダッシュさんの八百屋に回るよ。そして、婚約者のノアは良い奴だよ、みんな優しくしてね」



私がひょいっと輪を抜け出し、手を振ると、皆が「分かったよ!まかせときな!ミランダちゃんは私達が守ってやるよ!」と言われた。


ノアの評判も困った物だな。


私がふむ、どうしようかな、と思い、ダッシュさんの八百屋に行くとそこでも女性と男性が入れ替わっただけで、似たような事が繰り広げられた。



「ミランダちゃん!!魔性の色男、ノア・パーラメント様と婚約したって本当か!?」



カボチャを並べていたダッシュさんが私を見つけ駆け寄って来た。



「うん。そうだよ。ノアは、良い奴だよ。ノアのお兄さんは王太子殿下の側近だし、優秀だよ」



ダッシュさんはカボチャを持ったまま、うんうんと頷いた。



「そうか、偉い家から言われちゃ、貧乏なノアちゃんの家は何も言えねえよなあ。この間、オネエバーのマリアンヌヒゲコさんが狙ってたって、泣いてたぞ。うちのリンゴを買いながら泣いてたな。やけ食いするって二十個買ってくれたが」


「ダッシュさん、マリコさんもノアを狙ってたの?まあ、マリコさんはダッシュさんを狙ってたって聞いたよ?今回もダッシュさん狙いかもよ。リンゴ買う元気あるし。それに、ノアの家から無理に言われたんじゃないよ。むしろ助けて貰ったよ」



ダッシュさんはカボチャを抱きしめ驚いていた。



「え!俺も狙われてるの?マリアンヌヒゲコさん、良い人だけど俺は妻も娘もいるしなあ。ノア君はまだ結婚前だし、魔性同士でお似合いじゃないかな」


「ノアをマリコさんに差し出さないでよ。ノアは優しいよ。成績も私より良いよ。剣も普通の勝負なら私より強いかも。まあ、最近は勝負してないから、分からないけど。ちゃんと皆にノアは良い奴って言ってね、今日は仕事が無いならポールさんのレストランに行くよ」



私は皆に愛されてるなあ、と感謝しつつ、ここでも周りに聞いてる人に、皆、ノアと仲良くしてね、と言ったら、野太い声で「任せとけ!俺らがミランダちゃんを守ってやる!」と言われた。


嫌な予感を胸に抱きながらポールさんのレストランに行くと、ここでも似たようなものだった。


私がポールさんのレストランの裏口を開けると、待ち構えていたように皆がこっちを見て口を開いたので、私は先に「ノアは悪い奴じゃないよ」と言った。


ポールさんが私が来てる事をシェフから聞いたようで、表から慌ててやって来た。



「ミランダちゃん!男も女も両方イケる、セクシー魔王と婚約したって本当か!?」



おお・・・・。ノア・・・。どんどん酷くなってるよ。

これは少し疑ってもいいのかな。



「えっとね、ノアは幼馴染で、小さな頃から知ってる良い奴だよ。だから心配しないで。そして、ノアは魔王じゃないよ、どちらかと言うと聖女かな」



私はちゃんとノアの汚名を晴らしてあげようと説明をした。


シェフのエイドリアンさんが包丁を二つ持ち、肉を叩くのか、素振りをしていた。



「ミランダちゃん、うちの裏のおタキ婆さんが、魔王を狙ってたって、ショックを受けてたぜ。魔王は年齢幅のストライクゾーンが広いんだな。あと、ダッシュが野菜を持って来た時にマリアンヌヒゲコさんもショック受けてるって言ってたぞ?なんでもありな奴なんだな。やめとけ!」



ノア・・・。もう、私の説明じゃ、皆を止めれないよ。


私は説明を諦め、今日の仕事が無い事を確認すると、ノアは悪い奴じゃないから皆宜しくね、と、ここでも同じように皆にお願いして店を出た。


店からは、ミランダちゃんに何かあったらミンチにしてやる!と恐ろしい声も聞こえたが気にしない事にした。


困ったなあと、街を歩き、今日はもうなんだか疲れたし、帰るかと家に戻っていると、裏路地からちょいちょいと手招きをされた。


裏路地を取り仕切ってるブロンだ。



「アネゴ、こっちこっち、ちょっと寄ってって下さい」



最近サブロウ先生に稽古を付けて貰っているブロンは、私より十歳程年上だと思うが姉弟子の私の事をアネゴと呼ぶ。


初めは私の事をバカにしていたが、最初の稽古でボコボコに叩きのめしたら素直になった。分かりやすくて良い奴だ。

それからは真面目に稽古も受けているし、自分の力を街の治安に役立てているようで良い事だと思う。



「なに、どうしたの?」



私が裏路地をブロンと進み、崩れそうなアパートに入ると子供が沢山いた。



「どうしたのブロン、いつの間に子沢山になったの?」


「アネゴ、俺の子供じゃないですよ。こいつら、この間、隣町の教会を建て直す際に叩きだされた子供らしいです。こっそり空き教会に住んでいた所を取り壊しで追い出され、ここまで流れて来たようです。どうにかなりませんか」



私は呆れた顔でブロンを見た。



「ねえ、ブロン、うちが貧乏貴族って知ってるよね?それでも出来ると?」


「ええ、ロクデナシの婚約者から誰でもオッケーの色ボケ婚約者に変更になったと聞きました。アネゴの男運もなかなかですね。その婚約者は金持ってないですか?こう、アネゴがお願いしたらどうにかなりませんかね?ここらの治安が悪くなったりするのも俺も困るんですよ」



私はふーーむ。と考えた。



「あ、良い考えかもしれない。あと、婚約者のノアは色ボケじゃないよ、良い奴だ。うん、我が家に連れて行ってみよう。よし、じゃあ、あんた達一緒に来て」



私は上は十五歳、下は五歳の子供を八人引き連れて家まで帰った。


執事の爺やと婆やは驚いたが、事情を話し子供達の手足と顔を洗いパン粥を食べさせた。


じい様は裏で薪割りをしていたが、急いで呼び、「じい様、緊急事態です。また、父様、母様、ノアも呼んで下さい。あと、子供が大量にいますのでちょっと来てください」


「お前は忙しい奴だな、なんだ、子供が大量とは。犬猫でも拾ってきたのか。しょうがない奴だな」



じい様は斧を置き、汗をぬぐうと家の中に入った。



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