ノアが危ない
学園祭の準備で皆が浮足だっている時に、お忍びで第三王女が学園にやって来たのだ。
ざわざわと皆がしているなか、学園長に案内された第三王女はすまし顔で廊下を歩いていたらしい。
らしいというのは、私も何かな?と思って人ごみを覗いて見たが背の低い私では上手く見れず、大勢の前でシノビ技を使えず側にいた友人に「何があったの?」と聞くと「第三王女様がいらっしゃったのよ」と、教えて貰ったのだ。
「ほー。第三王女、襲来」と呟くと「ミランダ!不敬よ!」と、小さな声で怒られてしまった。そんな私達をよそに、第三王女が学園長と共に廊下を移動し、その場にいなくなると次第に生徒も自分のクラスに戻って行った。
第三王女が学園に来て、ノアは大丈夫かな?と心配になったが、まだ婚約の書類は受理されず止まったまま。
私に出来る事は無い。
私はクラスに戻り、学園祭の準備を進めていると「絵具が少なくなったな」とクラス委員長が言っているのを聞き、絵の具を補充しに美術室へと向かった。てくてくと、廊下を進んでいると、噂話が耳に入った。
「男爵家のリリアさんが学園を辞めたらしいわよ」
「あら。本当に?じゃあ、あの噂も本当かしらね?」
リリアさんって、アレックスの一番最近の相手の子だ。
婚約解消の時に相手が妊娠したと言っていたから、きっとリリアさんで、お腹の子の為にも学園を辞めて安静にするのかな。
男爵家の子ならアレックスはその子と結婚して、アレックスが男爵家に入るかどうかは知らないけど、愛し合う二人なら幸せなんだろう。
私は人生色々だな、と考えながら美術室への道を進むと、また人ごみにぶつかった。
このまま、まっすぐに進むととすぐに美術室だが、人が多くて中々通れない。
「ねえ、ノア様に会いに来たらしいわよ」
「え、何故?嫌よ」
人ごみの中から女子生徒達の悲痛な声が聞こえる。
「なんでも第三王女様が婚約者としてノア様を迎えるとか」
「ええ!!そんな!!」
「王家から言われたらノア様もしょうがないのかしらね・・・」
女子生徒たちの小さな悲鳴や、泣き声が聞こえる。
あらあら、第三王女不人気だな。
私がノアの婚約者になったら、みんな、どうするのかな。
こりゃ大変だと、思いながら、私が隙間を縫って美術室にたどりつき、棚から絵具を取ってクラスに帰ろうとすると美術室に誰か入って来た。
「ちゃんと、渡したんでしょうね?」
「ええ、間違いなく」
聞きなれない声だが私は不穏な気配を感じ、隠密スキルで隠れた。
「ノアと婚約をすると言う子は見つかったの?」
「それが、教室を見ましたが一足遅かったようで、どこかに行ったようでした。見つけ次第拘束します」
「ふふふ。そうして頂戴。私達の邪魔をするのがいけないのよ。で、ノアはもう飲んだのかしら?」
成程、きっと話してるのは第三王女達ね。
「ええ、先程確認しましたが、しっかりと飲んでいるようでした。そろそろ薬が効きだすでしょう」
「ふふ。ちゃんと馬車の用意も出来てるのよね?保健室に行けばいいのでしょう?しっかり私が介抱してあげないとね。ふふふ」
私はそこまで聞くと美術準備室に入り、そこの天井裏に急いで登った。そして、天井裏を身を低くして足音を立てずに走り出し、保健室を目指した。
ノアが危ない。
何か薬を盛られ、拉致されようとしている。
私は三階から一階まで、窓と天井を使い保健室の前の天井裏に辿り着いた。保健室は東棟と西棟の真ん中にある。美術室からも遠くまだ第三王女は来ていなかった。ゆっくりと天井板を外し保健室のドアの下の廊下を覗いた。すると、教師ではない男が一人ドアの前に立っていた。
見張りだ。
私は天井板を戻し、保健室の上に移動した。同じように天井板を外し、保健室の中を覗き辺りを確認した。小さな息遣いがベッドから聞こえた。
見張りはいない。
私は天井板を外し紐をかけ、急いで降り紐を引っ張り天井板を戻した。そして埃まみれのままベッドに駆け寄った。
「ノア」
私が声を掛けると、赤い顔で瞳が潤んだノアが私を見た。
「ミランダ・・・。やっぱりミランダだ。どうしてここに?」
「話はあと。とにかく逃げるよ。第三王女がノアに薬を飲ませたみたい。もうすぐ拉致しにくるみたいだよ。ノア、私に掴まれる?窓から外に逃げよう。表のドアは見張りがいたから、一回外に出て別の教室に隠れるよ。門まで行くのは危険だと思う」
ノアは弱弱しく頷くと私につかまり窓から外に出た。私はシノビ技で小さな紐を使い、外から中に鍵をかけた。
これで外に出たとはすぐには気付かれない。ノアに掴まって貰いながらすぐに別の窓から校舎の中に入り空き教室に隠れた。
「ノア、大丈夫?緊急の魔鳩をさっき飛ばしたから、じい様はすぐに来てくれる。王女様はもうすぐ王宮に帰られると思う。馬車の話をしてたからね。暫く隠れて薬が抜けるのを待とう。きつい?水を持って来てあげたいけど、私も狙われてるんだ」
ノアはゆっくり息を吐き出しながら私に寄り掛かった。
「ごめんね、気をつけていたんだけど・・・。ミランダ・・・。ミランダはいつもかっこいいね。さっきもミランダが降りて来た時、キラキラ光って天使かと思った・・・」
私はハンカチでノアの汗を拭いた。
「天使は天井裏から降りてこないよ。キラキラは埃だね。ノア?きつい?熱いね。大丈夫?」
ノアは私の手をゆっくり握ると、頷いた。
「ミランダは僕の天使だよ・・・可愛い、大好き。埃まみれでも綺麗だよ。羽兎の時も怖がって泣いた僕を助けてくれた。小さな体で立ち向かうミランダは僕の憧れだよ。ずっと言いたかったんだ。ねえ、ミランダ。大好き・・・」
潤んだ瞳でノアは私の手に自分のおでこを付ける。熱がすごい。大丈夫かな?
汗を拭いていると、女の人のキーキーした声が聞こえて来た。
「どういう事よ!!なんでいないのよ!!本当にここに連れて来たんでしょうね!?」
きっと第三王女だ。ノアが逃げてるのバレたな。「確かに」「間違いなく」とかも聞こえる。
でもきっと大丈夫だ。私は隠密スキルを出し、ノアをぎゅっと抱きしめた。
「ノア。大丈夫だよ。私が守るからね」
私がそう言って大きなノアをよしよしと撫でると、ノアもぎゅっと抱きついてきた。
「ミランダ・・・。大好き・・・」
うわ言を繰り返し、埃も気にせず私にすりすりしている。きつそうだ。
「うん。ノア、私も好きだよ。第三王女がね、ノアの婚約者になるって聞いた時、嫌だなって思ったんだ。だからきっと、嫉妬したんだ。私もノアが好きだよ」
私がそう言うと、ノアは汗で髪が張り付いた顔を上げた。
「ミランダ、本当?」
「あれ、ノア。復活した?もう大丈夫な感じ?」
ノアはじっと私の顔を見るが、顔はまだ赤い。
「うん、ちょっとだけ大丈夫。ねえ、ミランダ、本当に僕の事好き?」
「うん、好きだよ」
私が言い終わると、ノアはにっこり笑って私を抱きしめた。
「嬉しい。ミランダ大好き・・・」
ノアはそう言うとまた潤んだ瞳で私をじっと見た。息もまだ荒い。制服が汗で張り付いている。
「ねえ、ノア、ここに寝て。寝た方が楽だよ」
私は自分の制服のジャケットを脱ぐとその上にノアを寝かせた。
「汗が凄いね、ちょっとごめんね」
私はそう言ってノアの制服のジャケットを脱がした。
「どう?少しは楽?」
私が聞くと、ノアが頷いた。
「うん、有難うミランダ・・・」
「こっちも脱いだ方がいいね」
「え・・・。ミランダ・・。恥ずかしい」
「恥ずかしがってる場合じゃないでしょ、ほら、抵抗しないの」
私が頬を赤らめ嫌がるノアのボタンをはずし、シャツを脱がしているとバーーン!!!っとドアが勢いよく開いた。
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