両家の話し合い
ノアは馬車が我が家に着くと、すぐに自分のパーラメント家にも言伝を頼み馬車を返した。
「ただいま帰りました」
私が家に入り、挨拶をするとじい様が梯子を使い、窓の掃除をしている所だった。
「おや、ノア君か。大きくなったな。マックスも背が高いから似たんだな。背が高い者は足先と振り下ろしの鍛錬が良いぞ。薪割りも背筋に効いて良いな。やってみなさい。ああ、ミランダお帰り。お前は縮んだか?」
ノアが「お久しぶりです」と、じい様に挨拶し、私は鞄を執事の爺やに預けた。
「じい様、ノアの横だから小さく見えるんですよ。父様のチビ遺伝子のせいですが、これでも少しは大きくなってるんです。とにかく大変なんです。緊急会議ですよ。父様にも急ぎ帰るように手紙を出して下さい。母様はギルドですか?母様にもお願いします」
じい様はノアを見て梯子を下りて来た。ノアが私の言葉に頷くと、ふむ、と言い、執事の爺やを呼び手紙を書き急ぎ父様と母様に届けるように言った。
「ティールームに行こうか。で、どうした?頼みなら聞くが、我が家に金は無いぞ?」
すっからかんだ。はっはっは、と笑い、じい様はノアと私を連れティールームへとむかった。
ティールームに着くと、婆やがお茶を入れてくれた。
我が家に執事とメイドは一人ずつ。執事の爺やとメイドの婆や。馬車の御者も爺やがする。
私がお茶を飲んでいると、ノアは私に学園で話した事をじい様に話した。
私の事が好きな事、でも、ノアの家族から私への告白は止められていた事、私が婚約解消出来るまで待つつもりだったが第三王女が出て来そうな事、もう、待って失敗をしたくない等、一生懸命話しをしていた。
じい様がゆっくり聞いていると、婆やが来てノアの家族の訪れを伝えた。
ノアのじい様がやってくると、じい様同士は拳を打ち、抱き合い挨拶をした。
「久しいなジェフ。ノアから話を聞いた」
「そうか。ディーン元気だったか?」
「ああ。すまんな、気を遣わせる」
「いや、我が家の為でもあるんだ。王家が出てきては断れん」
「ジェフ、一つ確認したい、いいか?ノア、ミランダのどこが好きなんだ?」
ノアはじい様達の方を向くとはっきりとした声で答えた。
「ミランダが初めて羽兎を狩った時からずっと好きです。逞しく、美しく、勤勉で、可愛らしい。ミランダの何処を好きなのか分かりません。ミランダだから好きなのです」
私はボンっと顔が赤くなり恥ずかしくなった。ノアは不良物件押し付け仲間で言ってるんじゃないの?
私があわあわして、手をもじもじしていたらノアのお母様からニコリと微笑まれた。ノアはお母様似だな。ノアのお父様は逞しい。
綺麗なノアのお母様にぽーっと見とれていると、ノアから「僕を見て」と言われて手を握られた。
私はアイリーンに言わせると最高に撫で回したいくらいに可愛い頬をしているらしいけど、小さな背も童顔な所も褒められた事等ない。
アレックスからは顔合わせの時に、「これが俺の婚約者?嘘だろ?チビガキじゃないか」と溜息をつかれた。
身軽で小さな所はシノビに良いとサブロウ先生に褒められたが、それだけだ。アイリーンはいつも褒めてくれるが、可愛いなんて異性から言われた事はない。
可愛いなんて言われたら最高に嬉しい。
私がふっふっふ、とニヤッとしていると、「はー」とじい様が言いながら頷いた。
「分かった」と、言った後に、じい様はノアの家族の方を向いた。
「孫達を困らせて情けない事だな。ドルトン家との婚約はどうにかしなければと思っているのだが、何せ借金で、どうにもならなくてな。それに一度結んだ縁を簡単に反故にする事も情けないと、意地を張ってしまった。ジェフ、宜しく頼む」と、うちのじい様が頭を下げた。
「いや、ディーン、お互い様だ。こちらが変に意地を張ったのが悪かった。我が家から話を持って行けばお前は断れまい。お前を困らせたくなかったんだ。ノアにはミランダから好きになって貰えれば良いと言っていたんだ。もっと早くに話をすれば良かった。こちらこそノアを頼む」
じい様達が話していると母様が慌てた様子で帰って来た。まだ血が付いたエプロンを着けていたが綺麗に礼をしてパーラメント家に挨拶をしていた。
パーラメント家の皆は礼を返してくれたので、血濡れエプロンに驚かない事にホッとした。
まあ、猟で慣れてるのか。
アイリーンが初めて母様の血濡れエプロンを見た時は、私の鼓膜が破れそうな叫び声をあげ、パタンと倒れ気絶した。慌ててアイリーンを介抱した後、婆やと爺やは我が家の窓ガラスにヒビが入ってないか確かめたが無事だった。
アイリーンの家にガラス代を請求せずにすんでホッとした。
アイリーンの叫び声はその位凄く、母様は慌ててエプロンを外し新しいエプロンに代えていた。
両家で話をしていると父様も慌てて帰ってこられた。
そこでまた説明がされ父様も頷き、パーラメント家のおじ様と握手をし両家の話し合いは終わった。