幼馴染の危機的状況
はっと我に返り、ノアを見つめると、ノアはにっこりと私を見つめ手を握っていた。
びっくりして、記憶がちょっと飛んで行ってしまっていた。
いけない。こんな所見られたらノアがなんて言われるか。ファンの子達が泣いてしまうんじゃないかな。私は急いでノアの手を払うと、辺りをキョロキョロ見回した。
教室の中は二人だけ。危ない所だった。
私がキッとノアを見上げると、ノアはにっこりと微笑んでいた。本当、この顔に見つめられると弱い。
「ノア・・・。いきなりどうしたの?」
私はいつもと違うノアに、自分の顔が赤くなるのを感じながら訊ねた。
「好きだよ、ミランダ。いきなりで申し訳ないんだけど、君さえ良ければ僕の父上やじい様にお願いして、君の家で君との婚約の話しをしてみようと思うんだ。君の家とドルトン家の婚約解消を円満に進める為にも我が家に手伝わせて。爵位の上の家が話し合いの間に入る事は間々ある事だよ。急かもしれないけれど、我が家ではこの話は前からあるんだ。だから後は君の了承を先に欲しいんだ」
私は驚きっぱなしで目が丸いまま。
「ノア。そう簡単に物事は運ばないよ。父様には何度も婚約解消のお願いしたもの。アレックスの浮気や、学園での成績、生活態度も含めてね。アレックスも私の事が嫌いで困ってるはずって説明したよ。アレックスが婿養子になるとうちの家はお先真っ暗って言っても、我が家は借金で首が回らなくてどうしようもない。だからまだ浮気の証拠も集めているんだよ?急にノアの家が間に入っても上手くいくのかな」
ノアはミランダの手小さいね、と言い、優しく私の手を握る。
「ミランダ、ねえ僕の事を考えて。ミランダなら、クソ男のアレックスと僕なら、どっちが良い男か分かるでしょ?あいつは一度だってミランダを大切に扱った事はないよ。僕は浮気はしないよ?成績だって五位以内に常に入ってる。ちゃんと自分で稼げるように剣だって頑張ってるよ?僕はミランダが大好きだし、ミランダを幸せにする為ならなんだってするよ?ミランダ、僕を選んで。ミランダが初めて羽兎を仕留めた時からずっと好きだよ。小さな体で容赦なく弓を射って、羽兎を掴んだミランダはキラキラしていた。まるで天使だった。ミランダは僕の事嫌い?」
ノアは綺麗な瞳を悲しそうに潤ませ、私を見てコテンと首を傾けた。長い綺麗な髪がノアの顔にかかる。
「ノア・・・。その聞き方はズルい・・・。嫌いじゃないよ、でもなんかノアの気持ちが重い・・・。それに羽兎を狩る天使はいないよ・・・。キラキラはノアの涙じゃないかな?ノアの事は好きだよ。でも、私、なんて言うかそういう事はノアと違って、よく分からないから。ほら、猟をしたり、シノビの技を習いに行ったり、男の人はアレックスとノアしか周りにいないし。仲の良い友達は、恋人や婚約者と仲良くていいな、とは思ってたけど、恋とかよく分からない。それに私の婚約者はアレックスだよ、ちゃんと手続き踏まないと今は考えられない」
私はもじもじと手先をいじりながら顔を赤くして答える。
「ミランダ、最高に可愛い。ねえ、顔を赤くしてくれるって事は少しは僕の事考えてくれてるんでしょう?大丈夫だよ。婚約が解消出来たら、僕をミランダの恋人にして良いって言って?」
ノアが天使の顔で私の手を握りながら悪魔の囁きをする。
私は思わずノアの悪魔の囁きに頷きそうになった所で、我に返った。いけない、ダークサイドに落ちる所だった。
「なんだか変だよ。ノア、急にどうしたの?なんで急にこんな事言うの?」
ノアはしゃがんで私の目線に自分の顔を合わせると、へにょんと困った顔をした。
「僕がミランダの事が好きなのは本当だよ。大好き。ミランダが自分でクソ男をやっつけるのを待つつもりだったんだ。我が家も手を出したくてうずうずしていたけど、じい様が、頼まれてもない剣士の助太刀は恥ずかしいとかなんとか言ったり、剣士の約束がどうのこうのって。僕からもミランダに告白しちゃいけないとかね。色々煩かったんだ。でも、のんびり構える時間が無くなったんだ。隣国に留学していた第三王女が帰国されてね。僕と婚約したいって王太子殿下に頼んだらしいんだよ」
私はびっくりした。え。第三王女って確か、私達より十歳は年上の人よね。
そして、昔色々やらかして国内での嫁ぎ先が無くて留学って名目で外に出された人だよね?私達より上の代でのやらかし有名人だ。
なんだ、なんだ、そう言う事か、と。
私はじとー--っとノアを見た。ノアは慌てて私の手をぎゅっと握った。
「違うよ。ミランダの事が大好きなのは本当だよ。王太子殿下の側近にうちの一番上の兄様がいるからね。それで王太子殿下から教えて貰ったんだよ。何処かで僕を見掛けて一目惚れしたから、結婚したいって王太子殿下に第三王女が話を持って行ったらしいんだ。その話を王太子殿下は王家からの話が来る前にって兄様にされたんだ。王太子殿下の好意だね。今は国王陛下まで話しはいってはいないけど、王室から正式に我が家に話を持ってこられたら断るのは難しいよね。まあ、無いとは思うけど、可能性は潰したいからね。ミランダを待つつもりだったけど。もう待ってられないよ。大体、急にミランダは婚約するんだもの。僕はちゃんと準備してたのに。父上も母上もじい様もやっと説得出来て、ミランダに告白して良いって言って貰えたんだ」
ノアは慌てて言うが、私は納得した。成程、ノアも不良物件を押し付けられようとしているのか。
それも特大の。ノアは三男。王女も第三王女。結婚したいって、第三王女は何も考えてないのかな。それとも、二人で、爵位もなくてもいいから生きていきましょう?王族が?凄いな。
愛の力は偉大だな。
ああ、王様が沢山お金を持たせるのかな。領地をあげるとか。
ふむ。でも。
成程。ノアが困っているのは深刻だ。
気心知れた私であれば、婚約を結んでも何かあった時にすぐに婚約解消出来る。まあ、ノアの家がうちの借金も少しは手伝ってくれるかもしれない。私は頭の中をチャカチャカ動かし、ピコーンと答えをはじきだした。
「うん、成程。解った。良いよ。そういう事なら、じい様も納得すると思う。両家の為だもの。助太刀って思わないんじゃないかな?色々ノアも大変だね。なんだ、それならそうと言ってくれたらいいのに」
ノアはゆっくり私の手を握る。
「はあ、ミランダ。ちゃんと分かってる?婚約が無事に解消になったら僕と恋人になってくれる?」
私は頷いた。
「うん、ノアがピンチなのは分かった。危機的状況だね。では、早速我が家で作戦会議と行きましょう!!」
「分かってない気がするけど、返品不可だからね?言質取ったからね?もう、ミランダは僕の恋人になるんだよ?」
私達は教室を出ると、ノアの馬車で我が家に帰った。