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ど貧乏の我が家

言葉使いが穏やかで、すらっと背が高いノアは、男らしいと言うより綺麗で美しい顔立ちをしている。

そしてど貧乏子爵の我が家と違って由緒正しき侯爵家の三男である。


まあ、侯爵家嫡男ではなく、次男でもなく三男と言う所が遊び相手に丁度良いのか、同じ年頃の奔放な貴族令嬢からお金持ちの平民マダム迄幅広く声は掛かっているらしい。


しかしモテる男は誰とも付き合ってないとも噂で聞いた。婚約者もまだいない。


最近は女性だけでなく女性の恋人を作らないなら、男性が好きなのでは?と、ムキムキから綺麗系、インテリ眼鏡まで多種多様な男性にモテているらしい。


守備範囲が広いと思われるのも大変だ。



私が友人のアイリーンと、昼食に手作りサンドイッチをもぐもぐ食べているとノアが下級生からキャーキャー騒がれているのを見かけたりする。年下枠迄どんどん範囲が広がっている。


モテる男は歩くだけで煩い。


私の友人のアイリーンは侯爵令嬢である。家格が違うが一緒に昼食を食べたり、テスト勉強を一緒にしたりと仲の良い友人だ。



友人になったきっかけは、私が街にアルバイトに行った帰りにアイリーンを助けた事である。お付きの人と少しの間離れ、偶々一人でいたアイリーンが暴漢に襲われそうになっている所を私が通りかかり、救った所から友達になった。


アイリーン曰く、まるで恋愛小説の一ページの様に私は颯爽と現れ暴漢をやっつけたらしい。



「あの時のミランダは、チョコレート色の髪がキラリと光って、アメジスト色の瞳がとても綺麗でしたわ。そしてこんなに小さくて可愛いのですもの、是非お友達になりたいと思いましたわ」



その後、暴漢は警備隊に突き出し、アイリーンを家まで送り状況を侯爵達に説明し、感謝され、家格が違うが親公認の友人となった。同じ学園で同じ学年と知ってからは行動を共にする事が多くなった。


そして今日も中庭でお弁当を食べていると、キャーキャー声が東の廊下の方から聞こえてきた。



私が我が家特製質素倹約サンドイッチを食べていると、アイリーンは二人の間に大量のお菓子を並べた。



私はあっという間にサンドイッチを食べ終わり、アイリーンが置いてくれたお菓子を貰ってむしゃむしゃ食べていると、また、キャーキャー声が西の廊下から聞こえてくる。ああ、ノアが食事を終え、食堂からクラスに戻る折り返しかしらって分かる。


「ミランダの幼馴染は人気者ね」

「うん、人気者も大変だね」


アイリーンが「あらあら」とキャーキャーと聞こえてきた方を向きながら言うので、私も頷いた。


遠くにいるノアがこっちを向いて目が合ったと思う。ふわっと笑った気がするが、キャーっという声だけが聞こえてきた。

ノアは学園で私と目が合うと、優しく笑いかけてくるが声は掛けてこない。私も頷くだけ。用事がよっぽどある時は話すけど、あまり話す事はない。ノアの周りにはファンクラブの子やら人が沢山いて近づく事が難しい。


入学式では同じ身長のちびっ子仲間だったのに、ノアだけどんどん背が伸びて今では私はノアの肩にしか背が届かない。


アイリーンに、女性の成長期について聞いてみたら「女性の方が男性よりも早いとされていますわね。個人差がありますが。まあ、成人までは伸びる女性はいるのではないかしら?ミランダは可愛いままが宜しいと思うのだけれど?」と言われて、少しショックだった。


私はもうすぐ成人。と言う事はもう伸びないのか。私があまりにもショックな顔をしていたのか、アイリーンは一生懸命慰めてくれ、暫くアイリーンが持って来てくれるお菓子が、背が伸びると言うミルクがたっぷり入ったミルクキャラメルや、バタークッキーになった。



ノアの家とはおじい様同士が同じ剣の師匠を持ち、二人のじい様はノアのじい様が兄弟子、我が家のじい様が弟弟子の関係だ。その為家族同士の付き合いがあり、長期休みの時はお互いの家族が両家を行き来し猟に一緒に出掛けたりした。


我が家にとって猟は死活問題なので必死である。貴族の娯楽でやってる訳ではない。他の家の猟と本気度が違う。


勿論私もナイフやら弓やら罠やらボウガンやらを扱える。血抜きや解体までは母様には負けるけど、そこらの令嬢には負けない。


パーラメントのおじい様はそんな我が家を気に入ってるのか、私の事も可愛がってくれた。


学園に入学しても長期休みに両家で一緒に狩りをする行事は借金が出来るまで変わらなかった。



ただ、ある日、突然私の婚約が決まった。




アレックスの家のドルトン伯爵家から婚約の打診が来たのだ。ドルトン家とは我が家が借金をした事から付き合いが始まった。


我が家が肩代わりした借金の借用書をドルトン家が持っていたのだ。


我が家の借金の原因は大叔父だ。じい様の年の離れた弟が金山発掘を夢に見て、そして夢だけで終わり、大層な借金を山のように作り消えた。


じい様は借金で迷惑をかけた家に、貴族、平民関係なく頭を下げ、今後の事を考え大叔父と縁を切った。縁は切っても、切る前に作った借金は我が家で返済すると決め、貧乏子爵家からど貧乏子爵家へとなった。


我が家に子供は私一人。アレックスのドルトン伯爵家はアレックスの上に嫡男がいる。

貧乏とはいえ、一応由緒正しき子爵家の婿養子に狙われたのが我が家だ。


初めはドルトン家は感じの良い人だった為、我が家は婚約を決めたらしい。家格が上の家からの打診ではそもそも断る事も難しい。


それでも、簡単に婚約したのはタイミングが悪かった。丁度じい様が寝込んでいて、父様、母様も憔悴している時で、皆、まともに考えられない時だった。


普段なら結ばない縁を思わず結んでしまったのだ。


そして婚約が決まったとたん、ドルトン家は我が家に対して横柄になった。



しまった、と思った時はもう遅い。一度結ばれた婚約は簡単に解消出来ない。我が家から婚約解消を申し出れば慰謝料を請求される。


その上、借金もある。

家格も下。

詰んだ。


結果、私は生贄の様に差し出された。いや、我が家が不良物件を受け入れるのだ。



この一年の間、私も浮気の証拠を集めながらも、アレックスと仲良くしようとはした。


いきなりお互い婚約だ。アレックスも困っているに違いないと、話を掛けにいったり、一緒に勉強をしようとしたり。もし、婚約破棄が出来ない時はアレックスが我が家に婿入りするのだ。少しでもお互いを知ったり、助け合えたらと歩み寄りはした。


歩み寄りはしたが。


こちらがよると、嫌がり逃げる。


勉強の話をすると、馬鹿にされる。勉強する奴は馬鹿、とまで言われた。


それでも、アレックスだって好きで婚約者に私を選んだんじゃない。ある意味アレックスだって被害者かもしれない。


勉強が嫌なら一緒に出掛けよう、と誘ったが、「嫌だブス、ばーか」と言われた。


もう、こっちが嫌だ。


断り方が子供だ。


アレックスは私を一目見た時から嫌な様子で、嫌われた相手から仲良くなるにはどうしたら良いか、試行錯誤を繰り返した。


そして三か月前。仲良くするのは諦めた。


声を掛けに行こうとしたところで、アレックスが浮気相手と私の悪口を言っていたのだ。


私はもう駄目だと、両手で頭を抱え、じい様から、父様、母様に、アレックスのクソ男っぷりを訴えたがどうしようもなかった。婚約して一年経つ今は、アレックスの浮気やら、素行不良やら、成績が最悪な事等の証拠を集めている。


婚約解消が出来なくても、我が家も少しでも借金を返済しようと皆でお金を稼いでいる。


母様は冒険者ギルドで内職をしている。


内職と言って良いのか、母様が持つ解体スキルを生かし冒険者ギルドで日々魔物の解体に勤しんでいる。子爵婦人がやる仕事ではないが給料が良いらしい。


もちろん子爵婦人と言う事は隠しているが、ギルド長以外は誰も子爵婦人とは思っていないと思う。


血濡れのナイフを振り回し、優雅に解体していく様は見事だが恐ろしくもある。


父様も王宮で働きながら休みの日は猟に出かけ、我が家の食費を浮かしている。じい様もいまだに働き続け、剣の師匠として小さな子達に教えている。


それでも我が家の借金はなかなか減らない。



まあ、私は浮気の証拠を集めようとコソコソ学園を歩き回り、気配を消しながら行動したおかげで私は隠密スキルを身に着ける事が出来た。父に隠密スキルを相談した所、じい様の知り合いのサブロウ殿から鍛えて貰う事が出来た。


教えて貰ったシノビの技で天井裏にも床下にも隠れられる。


これで、学園卒業後は婚約解消しても冒険者としてやっていけるんじゃないかと思っている・・・




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