刃をむける覚悟
近衛兵に連れられ、国王陛下の前に連れ出された第三王女は胸がこぼれそうなドレスを着ていた。
「ジュリア。何故お前がここにいる?」
国王陛下が床に座り込む第三王女に話しかけた。もし、言葉に温度があるのなら辺り一帯凍ってしまうだろう。
第三王女はジュリアと言うのか。ではもう、ジュリアさんなのかな。
「お父様!!誤解です!私はパーラメント様に呼ばれたのです。パーラメント様が婚約を破棄され、私との結婚を望まれたのです。それで今日はパーラメント様の婚約者として参ったのですわ」
国王陛下は目を一度瞑った。
「アンナ。お前が城に入れたんだな」
第二妃がビクリと体をこわばらせる。
「私は何も・・・」
国王陛下は首を横に振り言葉を遮る。
「私の前で嘘をつく事の重さを考え発言するように。今は国の貴族も多く見ている。その上でもう一度聞こう。お前が城に入れたのか?」
「・・・・。はい・・・」
「分かった、下がれ。追って沙汰を出す」
第二妃は目に涙を貯め陛下に縋りつこうとしたが近衛兵に止められた。
「陛下、ジュリアを許してください!あんまりでございます」
「もう何も言うな、連れて行け」
第二妃はその後も泣きながら許してと叫んでいたが、近衛兵に連れていかれた。
「では、王太子、お前の調べを聞こうか」
国王陛下が王太子殿下を見られた。
「は、ここ最近、王都にて不穏な噂がありました。ノア・パーラメント令息に関する悪い噂です。出所は分かっております。平民や下位貴族を中心に噂は回っておりました。そして次に、教会の一部が汚職に手を染めておりました」
聖職者の服を着た人が連れてこられる。
「これはこれは。どうしてお前がここにおる?」
「陛下!誤解でございます。私は何もしておりません」
国王陛下は首を振り王太子を見る。
「どうして、こうも、同じ台詞ばかりを聞かなくてはならないのかな。で、どういう事だ?」
「は、先だって、王都の端にある教会が老朽化の為取り壊し立て直す事となりました。そこで一部の子供達を保護する事になります。その子達は本来ならば教会が運営する孤児院にいるはずの子供達でした。その子達はミランダ・リンツ令嬢に保護され、報告があったのちにパーラメント家で保護をする事となりました。この件は以前陛下に許可を貰ったものです」
陛下は頷く。
「教会、孤児院を調べると孤児の数を水増ししたり、汚職が横行しておりました。正しい行いの者は貧しい地域の教会に飛ばされていました。辺境の教会もそうでしたが、ジュリアが辺境の教会に身を寄せてから、辺境の教会の人事異動がありました。それがこの者です。そして教会ではジュリアに好き放題させていたようです。近くの街にも出入りが自由、教会で祈りなど捧げた事はないようですね。ジュリアは第二妃から送られた金で街で遊んでいたようです」
第三王女こと、ジュリアさんはあまりに騒ぐので猿轡をされている。
「そして、ノア・パーラメント令息との結婚を諦めていなかったようですね。ミランダ・リンツ令嬢の元婚約者の浮気相手を使い、パーラメント令息の悪い噂を流し二人の婚約を壊そうとしていたようです。この度は第二妃の力で城に入り、パーラメント令息に如何わしい事を企んでおりました。力を貸した者は皆捕らえております」
ウーウー猿轡から声が漏れるが何を言ってるか分からない。
「汚職や子供の密売他色々ありますが、細かい事は報告書に上げております。以上です」
王太子殿下が礼をし一歩下がる。
国王陛下が第三王女を見つめる。
「お前は結局何も変わらなかったな。何度お前に救いを出した?学園で他国の王子に懸想し問題を起こした時、その後我が国の貴族の婚約をいくつ壊そうとした?他国に出せば少しは落ち着くかと思ったが結局は一緒だな。情をかけすぎた。この度は命ばかりはと辺境に送ったのに自らそれさえも切るか。もうよい。連れて行け」
第三王女は最後までウーウー言っていたが結局何を言っているか分からなかった。
最後に私を睨まれた。
睨みで私を殺そうと思ってるのかしらね。
私はじい様を見てじい様が頷き、陛下も私に頷いたのを見て、一歩進んだ。
私の前で近衛兵も止まり、第三王女は私を睨みつけ喚いている。
私は一気に、気を出した。
「黙れ」
私が一言発し気をぶつけると、第三王女はガタガタ震え、王女の周りに水たまりが出来た。
近くにいた貴族も皆顔を青くしている。
近衛兵は流石に倒れはしないけど、歯を食いしばり顔色を変えた。
「相手に刃を向けるなら相手からも刃を向けられる覚悟位持て。腰抜けが。ノアは私が守る。あんたに収まる相手じゃない」
「僕のミラは世界一素敵だ」
私をふわっと後ろから抱きしめたのは髪の毛が乱れたままのノアだった。
気を出している私の頭にちゅっちゅっちゅと、キスをして、「僕の勇者は素敵だね」とキスの嵐を振らせた。
私が気を引っこめると、近衛兵も顔色を戻し第三王女を連れ出した。
私が国王陛下の方を向きカーテシーをすると、ノアも私から離れ礼をし、陛下が頷いた。
「流石、リンツ子爵の娘だな。勇者の末裔だけはある。頼もしい事よ。二人には度重なる迷惑をかけた。また後日話をさせて貰おう」
私は陛下の言葉が終わりカーテシーを解いて、じい様の方を見ると頷かれたので陛下の方に再び礼をして一歩下がった。
その後は陛下がまた貴族の方を向き、皆、気にせず楽しんでくれ。と手を振られた。
「ミラ、大丈夫だった?」
新しい服に着替えたノアが頭の上から話しかける。
「僕は大丈夫って言ったのに、検査なんかされたから遅くなっちゃったよ。ミラ、大丈夫?」
ノアは私の頬を触り無事を確かめているが、頬は何処も悪くない。
「だぁいじょうぶでぇしゅよ、ノアは?」
ノアがムニムニ頬を触るからちゃんと喋れない。
私がキッとノアを見つめるとノアが「ごめんね。可愛くて、つい」と言った。
「うん、連れていかれた部屋で、飲み物を貰って飲んだふりをしたよ。持っていた別の物を飲んで、渡された物は兄上に渡したよ。身体が熱くなったふりをして、ジャケットを脱いで、襟元を開けていたら、変態王女が飛び掛かってこようとしたんだ。気持ち悪くて思わず近くにある花瓶を投げちゃったんだ。そこを皆が捕まえてくれたけど、花瓶を投げた時に服が破れてね、着替えてたら遅くなっちゃった」
私はノアの言葉に頷いた。
「ノア、無事でよかった・・・。心配したよ」
私がそう言い、ノアの手を握ると、ノアは私の髪を優しく撫でていた。
私は横のじい様をツンツンと付きじい様に聞いた。
「じい様、うちって勇者の末裔なんですか?」
「うん?ああ、そうだぞ。本家の伯爵家が途絶えたからな、末裔は我が家だけになってるな。普通は本家の伯爵家の仕事が子爵家に回ってくるはずなんだがなあ、うちは本家は途絶えるわ、仕事は無いわでノア君には悪いがお先真っ暗だ。わっはっは」
「じい様・・・。笑い事ではないですよ・・・。私、勇者ミランダって呼ばれてるんですよ。これで勇者の末裔なんてバレたら・・・」
私はハッと後ろを振り返ると、キラキラした瞳で私を見つめるシルバーシャドウズがいた。
聞かれた。
私があちゃーっと思っていると婚約者と共にアイリーンがやって来た。
「ミランダ。流石でしたわ。痺れましたわ。私を救ってくれた時を彷彿とさせましたわ。流石勇者の末裔ですわ」
アイリーンが少し大きな声で言う。
これは怒っていいのかな。
その後は早めにじい様達と家に帰った。
全ての結末は後日ノアの兄さまから知る事になる。




