子供達のこれから
じい様はあんぐりと口を開け、うちのキッチンで子供達がパン粥を食べているのを見た。
「うま」「うまうま」「うまい」「うー」
子供達は、少し落ち着くと、ガツガツ食べながらも、「うま」と言いながら出されたお茶や、薄めた果実水を匂いを嗅ぎながら飲んでは、口元を綻ばせていた。
はっと正気に戻ったじい様は私の襟首をむんずと掴むとキッチンの近くの部屋に押し込んだ。
「おい!ミランダ!子供を拾ってくるな!なんだ!あの量は!!」
「じい様、違います。拾ってきたんじゃなくて、サブロウ先生の所の弟弟子のブロンから頼まれました。裏路地に住みつかれて困ってるみたいで、どうにかしてくれと。弟弟子から頼まれたらしょうがないでしょう?で、今日、アルバイトに街に出たら、街の皆から婚約の話をされましたが、ノアがひどい言われようでしたよ。だから、この子供達はノアに任せようと思います」
じい様は頭に手を当てた。
「おい、どうしてそうなる。ノア君を一気に八人の子持ちにさせる気か、結婚前に子沢山過ぎるだろ」
「じい様、ノアの評判を知ってますか?アレックスはロクデナシ。ノアは色ボケ、セクシー魔王らしいですよ。アレックスはいいとして、ノアは可哀そうでしょ。ここらでイメージアップですよ。困ってる子達を助けて、色ボケじゃない事を皆に教えます」
じい様は溜息をつかれた。
「言いたい事は分かる。だがな、我が家には先立つ物がない。そしてノア君はまだ学生だ。八人もの子供をどうするのだ」
「知りません。でも、出来ないとも思えません。百人じゃ無い。八人です。後の事は王都の事で、王太子に丸投げしましょう。それかノアの兄様に助けて貰えばいいんですよ、第三王女の事で、王家はノアに借りがあるはず。いくらお金払ったからって、こっちが頼んだらどうにかしてくれるんじゃないですか。王都の孤児はそもそもが王家の管理でしょ?」
「ふむ」
「上手くいけば、王室のイメージもアップして、ノアのイメージもアップ。王都の孤児も減って皆幸せです」
「そう上手くいくものか」
私とじい様が話していると、丁度母様が帰って来た。
子供達を見て驚いていたけれど、すぐに野菜のスープを作り食べさせていた。父様もすぐに帰って来て、やはり子供を見て驚いていたけれど、ふむ、と考えていた。
父様は一番上の子を呼ぶと話を聞きだした。
「君達の親は?年は?今までどうやって生活していた?名前は全員あるのかい?」
「僕の名前はアンディ。妹は去年死んだ。親も三年前に死んだ。捨てられたり親が死んだり皆似た感じだよ。少し前まで隣町の教会に住んでいたんだけど、閉鎖されて寝床がなくなったんだ。今はここの、お嬢様に拾われた所で寝ていたんだけど、そこも追い出されそうになって」
「父様、ブロンの縄張りのボロアパートの隅に固まっていましたよ。盗みはしていないようです」
私が口を挟むと、アンディはコクリと頷いた。
「盗みをすると、大抵すぐに殴られたりして、小さい子はすぐに病気になるから。だから、盗みはしないように言ってる。お使いをしたり、仕事を貰ってお金を貰ってるんだ。名前は全員言えるけど、一番下のリーリアは多分、リーリアって事で呼んでる。リーリって自分の事を呼んだからリーリアだろうって皆で付けたんだ」
「そうか。ふむ。ありがとう。戻っていいよ」
父様がアンディにそう言うと、アンディはペコっと頭を下げて、皆が座ってこちらを見ている輪に加わった。「成程」と父様は腕を組むと考えだし、じい様と相談しだすとノアがやって来た。
「ミランダ、どうしたの?」
「ノア、急にごめん。一大事なんだよ」
そう言って、ノアに子供の事を話すと驚いていたけど、街の評判を話すと落ち込んでいた。
「ひどいよ、色ボケなんて。セクシー魔王って何?僕はミラだけなのに。僕と噂になってる人は知らないよ。会った事もないよ。ミラ、信じないでね。ミラの為なら子供八人の父親になってもいいけど、子爵家の事を考えたら僕とミラの子じゃないと継がしたくないよね」
ノアは自然と子供の話をしてくる。私は恥ずかしくて指をもじもじさせた。
「リンツ子爵様、第三王女の慰謝料は僕の個人資産に入っているんです。この子達をリンツ家の従者にするのはどうでしょうか?爺やさんと婆やさんの後継者が必要でしょう?僕が預かり、パーラメント家で育て鍛えましょう。僕の婿入りと同時にこちらに連れてきます。年上の子達はすぐに働けそうですし、下の子も、街の学校に行かせながら見習いをさせれば宜しいでしょう。希望があればよそに働きに出してもいいでしょう」
じい様は顎を撫でられ、爺やと婆やを呼んだ。
二人に今の話をして、この子供達をリンツ子爵家のメイド、従者、執事候補として育てる事を説明すると、納得してくれた。
「よし、では、儂の稽古にもついて貰おう。見込みがありそうな者はサブロウ殿にも引き合わせよう。とにかくやってみるか」
ノアは「兄様達にも相談します」と言って子供八人を連れてパーラメント家に帰って行った。
帰る前に、「せっかくミラに会えたから」と言って、むぎゅっと抱きしめ、頭にちゅっちゅっちゅと気がすむ迄キスをし、「またね、変な噂を信じないでね、ミラ大好き」と言ってちゅっと頬にキスをすると帰った。
家族全員と爺や婆やも集合し、食堂で緊急会議を開いた。
「ノアの街の噂を聞きました、色ボケとか、魔性の男とか、色々言われてました。ノアが我が家に婿養子に入るなら、自分で噂を払拭した方が良いと思います。勇者に助けられた情けない男ってのもありました」
母様は頬に手を当て、困ったわねえと首を傾けられる。
「確かに執事、メイドを増やさなければいけない。後出来れば料理長に庭師か。六人は増やしても問題は無いのが普通だが、我が家は普通ではないからな。まあ幸いノア君は婿養子で、ノア君が連れてくると言ったのも大きい。持参金として連れてくるかもしれんな。セバスとマリアでノア君の子供を見てくれ、執事見習いとメイド見習いによさそうな子をノア君に言ってくれ」
「「はい」」
「ノアは、兄様達に相談するって言いました。きっとおじ様と一番上の兄様で、王都の孤児だから王太子殿下に話を上げて貰うと思います。ノアが孤児の世話して文句を言ってくる人もいるかもしれませんが、その後王太子殿下が出てくれば、ノアに色々言う貴族も平民もいないと思います。世話して貰えると思われてどんどん子供をノアの家の前に捨てられても困りますし。王家でどうにかしてくれると思いますよ」
父様が頷く。
「こういう事は線引きが難しいんだよ。一度与えれるとね、与えられる側は貰うのが当然と思う人も出てくるんだ。頑張る意欲をなくす人もいるのだよ。私からも王宮で話をしてみよう」
じい様は溜息を着かれ、分かったと言った。
「しっかり勉強も出来るのなら、警備隊の方に就職が出来んか、儂が稽古を付けて様子を見よう。冒険者にさせる手もある。貴族に使えるよりも、自分で生活をしたいかもしれん。いくつか世話を考えよう」
「はい、どうしようも無かったら私が世話します」
母様は困った顔されて私の頭を撫でた。
「ミランダ、貴方はもう少しお淑やかになってもいいわね。今度ダンスとマナーの練習をしましょう」
私は、「はい」と返事をした。
じい様は「返事だけは良いのう」っと顎を掻いたが、父様が「父上に似たのですよ」と笑われた。




