他人のキスは興味ない
短編で投稿した物の連載版です。大幅に加筆してます。
ここは王都にある、ネンダール王立学園の中庭。
時刻は生徒の多くが下校し、夕日が差し込む頃。中庭には一組の男女の姿しかない。昼間の中庭ならば、笑い声や話し声も聞こえていたが、今は時々遠くから鳥の声や、騎士科の生徒達の声が聞こえるだけだった。
一組の男女。綺麗な黒髪を無造作に後ろに流した男子生徒が、女生徒の手を取りながら囁いた。
「好きだ。リリア、ずっと好きだった。俺の恋人になって欲しい」
風が吹き、リリアと呼ばれた女子生徒の癖のある胡桃色の髪がふわっと靡いた。
「アレックス・・・。嬉しい・・・。私もずっと好きだったの」
華奢な女生徒は髪と同じ胡桃色の瞳を潤ませて、背の高い男子生徒の胸元に飛び込んだ。
「ああ。リリア、俺も嬉しいよ・・」
男子生徒は女子生徒の髪を優しく撫で抱きしめた。
「アレックス・・・」
ゆっくりと顔を上げ、女生徒は潤んだ瞳で男子生徒を見つめた。男子生徒はそっと女子生徒の頬に手を添えた。
「リリア・・・」
そして二人は目を閉じ、顔を寄せ合った・・・・。
はい!!アウトー---!!!!!
私はノートに状況、時間、どんな様子かを備に書き込んでいった。
もうこれで何回目よ。
キス迄持って行くやり方も毎度同じ。感心するが、ワンパターンすぎる。このやり方は教科書にでも載ってるのかな。私も同じ事が出来る。せめて三パターン位用意してほしい。毎回同じ事を書くのは板書しているようで疲れるし飽きてきた。
ちなみにこの後は、体を離し女子生徒の髪にキスをして、「ああ、もう離れないと。寂しいな」「え・・、私も・・」「君の事しか考えられない」「ああ・・アレックス・・」なんてして、もう一度、ぶちゅー。
ちらっと窓の外を見ると、胡桃色の髪にキスをしていた。ほらね。あと二分後にはぶちゅーよ。
私は覗いていたボウウインドウを音を立てないように閉めた。ふー、やれやれと溜息をついてると教室のドアが開き男子生徒が入って来た。
幼馴染のノア・パーラメントだ。
「ミランダ、やっぱりまだ残ってたんだ。門の所で待ってるって言ったのに来ないから、探しちゃった。僕との約束、忘れて帰ったかと思ったよ?」
腕を組んで眉毛を下げこちらに歩いて来る幼馴染は、そんな仕草でも絵になる。シルバーブロンドの長い髪を一つに結び、瞳の色は柔らかいエメラルド色。昔、ノアって聖女様に似てるって言ったら、ノアから怒られたが綺麗な顔立ちから色味まで似ていると思う。
「ノア、待たせてごめん。もう帰る。用は済んだし」
ボウウインドウのレースのカーテンを閉めると、鞄に荷物をまとめた。そんな様子を見ながらノアは近づいてきた。
「ミランダ、なーに見てたの?」
「ぶちゅーであります」
私は敬礼をしながらノアに答える。私の側までやってきたノアはレースを捲り、ひょいっと外を覗きこむとうわあっと小さな笑い声をあげた。
「凄いねえ、こんな場所で。ぶちゅーだって・・・。まあ、確かにあれは、ぶちゅーって感じだね。でも、いいの?あれ、一応君の恋人なんじゃない?」
私は静かに首を横に振った。
「違うであります。恋人ではなく婚約者であります」
私は敬礼をしながら答える。ノアは溜息をつきながらレースを戻した。
「余計悪いと思うけど。で、なにその敬礼、今の流行りなの?」
私は首を竦め、鞄に荷物を詰め終わっているか確認した。
「ふざけてないとやってられないから。アレックスと仲良くしようとも頑張ったけど、やっぱり無理だよ。だからと言って、私から婚約解消が難しいの分かってるでしょ?証拠を集めていたんだけど、それでもどうかな。今回はノアも見てくれたから、目撃者が一人増えてるけど。なんせうちは貧乏だから。ど貧乏だからね。証拠をしっかり集めないと。名ばかりの貴族って大変よ。平民になるのが一番だけど、あまり貧乏だと平民にもなれないよ。爵位も売れないし。人が良すぎるのも考えものだね。ああ、アレックスをどうにかしたい」
私が鞄を持ちクラスのドアを開け、ずんずん歩き廊下に出るとノアは私の後を追ってきた。
「ところで、ノア。私に何か用事?ぶちゅー見たかった訳じゃないでしょ?」
私が歩きながら訪ねると、にっこりとノアは頷いた。そうして私の前に回り込むと私の手を握った。そして、こっちこっち、と手を引き、空き教室の一つに入るとドアを閉めた。
いつの間にかノアの手は私よりも大分大きくなっている。私は目をぱちくりしてノアを見上げた。
何故ここに入るの?私が不思議そうに見てるとノアが私を見つめ、にっこり微笑んだ。
「うん、他人のキスは興味ないかな。ねえ、可愛いミランダ。僕、君の事が好きだよ。大好き。君があんなのでも婚約者だから返事が出来ないのも分かってる。あの男がミランダを大切にしない事が嫌なんだ。他に好きな子がいるならミランダと婚約を解消してくれればよいのに。君の家が我が家に迷惑を掛けたくないと、何も言ってこないのも分かってる。だから僕だって婚約解消迄待つつもりだったけど、もう待てないよ。君の家はすぐに婚約解消出来そうにないでしょ?僕や我が家が手伝っちゃ駄目?」
私は目を丸くし、口をかぱっと開けた。
「一生懸命で、可愛くて、勉強を頑張ってる君が好きだよ。大好きだよミランダ、僕が婚約者になりたいって言ったら嫌かな?」
私は普段から丸い目をさらに丸くしてノアの綺麗な顔を見つめた。
この作品を見つけて読んでくれてありがとうございます。m(__)m☆☆☆彡
七話までは短編とお話の大筋は同じです。