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裏切りの街  作者: 広之新
4/7

別れの決意

 街の終りまで4日になっていた。私は朝早く電車に乗った。もちろんその時間では彼には出会わない。がらんとした電車は虚ろな私の心そのものだった。なにもかも失って空っぽになった・・・。

 電車の窓からはこの街が見渡せた。だが今日の景色はいつもと違う。私にはそびえ立つビル群が悲しそうにたたずんでいるように見えた。この街は私を魅了して誘い込み、逃げられなくなったところで苦しみを与え続けた。私にとって悪魔そのものだった。だが皮肉にも私の手でそれを破壊しようとしている。

 私は人のまばらな駅で降り、地下に潜り込んで鋼鉄のドアを開けた。そこは地獄そのものだ。この街を破壊するための作業が粛々と進行している。私はただいつものように端末の前に座り、ハッキングを繰り返していた。それはいつもと変わらない無味乾燥な作業・・・。数字と記号だけと格闘するだけだ。この街がどうなるのか、人々はどうなるのか、自分はどうなってしまうのか・・・辛さでもう何も考えられない。だが空っぽのはずの私に彼のことだけは鮮明に思い出され、それが次第に頭の中で一杯になった。

 夢見ていたような素敵な彼・・・せっかく付き合うことができたのに、楽しく過ごすことができたのに、何もかも忘れて夢中になれたのにあと少しで終わってしまう。私のせいで・・・。

 だが私は作業を止めることはできなかった。そんなことをしたら奴らにどんな目に合わされるか・・・考えるだけで震えが来た。私は奴らの奴隷として働き続けねばならない。こうして一歩一歩、この街の壊滅へのカウントダウンは進んでいく・・・。



 その日の作業が夜遅く終わった。私はため息をつきながら駅に向かった。この街の終りが近づき、街に人の数は少なくなっていた。このがらんとした街の静けさは私の心をもの悲しくさせた。

 私の頭の中には相変わらず彼のことで占められていた。


 私(心の声):彼に会いたい。せめて一目でも・・・。


 だがそれはもう叶わないかもしれない。いや、叶わない方がいいのかもしれない。これ以上、付き合ったところですぐに終わりが来る。私は何もかもを失うのだ。彼を含めて・・・。後は悲しみだけしか残らないだろう。私の心はもう耐えられないかもしれない。


私(心の声):彼にはもう会わない。


私はそう決意したのだ。だが・・・

 彼は改札の前で私をじっと待っていた。こんな遅い時間まで・・・。彼は私を見つけてうれしそうに微笑んだ。だが私は彼を無視するように通り過ぎた。


 彼:どうしたんだ?

 私:もう構わないで! 一人にして!


 彼は追いかけてきたが、私は振り返らなかった。


 彼:何かあったのか?


 彼はそれでもと私の手をつかんだ。だが私はそれを乱暴に振り払った。彼への未練を断ち切るかのように・・・。その時、彼の顔が見えた。彼はそんな私をやさしい目で見ていた。


 彼:僕はすべてを受け入れる。君のすべてを・・・


 すると急に私の目から涙があふれだしてきた。うれしいはずなのに私は彼を受け入れられない・・・その自分のかたくなさがやるせなかった。


 私(心の声):もうこの場にいられない。


 涙をふかずに私は走り去った。彼は涙に驚いたのか、そんな私の背中をただ見送っていた。

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