表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/18

第9話

結局、二時間分すべての時間を影山のために使ってしまった。影山は思いのほか素直で、僕の言うことに目を見て返事をしてくれて、かなり教えやすかった。ゼロ距離で目に入る影山は、いつも以上にかわいく見えた。特に、笑ったときに光る白い歯や、ぷっくらとした涙袋などが繊細で、僕の瞳に焼きついた。


 この教えを乞う顔を、橋本はずっと見てたのかと思うと胸が焼けそうだった。だが、よくよく考えてみると、影山は橋本から教わるとき机を繋げていなかった。ということは橋本は至近距離であの顔を見れてない。僕だけが知ってる影山のかわいさに優越感を抱いた。



 午前の授業も終え、やっと本に浸れると背筋を伸ばしたが、すぐに腰を折られるハメとなった。


「ねえ、今日はこのまま机寄せてていい? 授業中もわたるくん居ると心強いと思うんだ」

 影山は隣の席で弁当を開き、そう言った。


「勉強の邪魔はしないでよ」

「しないです。お願いします」


 僕は授業がすべてというタイプであったが。まぁ、彼女の誠意は伝わってるし、構わないか。


「今日だけだよ」


「やった。なんだかんだ優しいよね。わたるくんは」


「べつに……」


「ねぇ、弁当ひとくち食べますか?」


 影山は己の弁当箱から、卵焼きをとって僕の口へと近づけた。


 そのとき、叫び声が聞こえた。


「なにやってるんですか? わたる先輩?」


 あずがどこからともなく乱入してきた。


「弁当、私が用意してるのに…… しかも席までくっつけて! どういう関係ですか? この子と……」


「勉強教えてただけだよ」

 

 なんだか修羅場っぽい空気が流れている。


「男が女の子に教えるって、一体なにを? まさかえっとそんなこと……」


「違うよ。物理だよ」


「本当ですか?」


「当たり前だろ」


「じゃあなんで物理を? その子が好きだから、特別にってことですか?」


「好きとかじゃないよ」


 僕があずにそう言うと今度は影山の方へ咎めていく。


「わたる先輩、好きとかじゃないって言ってますよ。ほら早く離れてください。人に迷惑かけたらダメだって知ってますね」


 あずは年上にも全く臆せず、机を持ち上げ元の場所に戻そうとした。


「わたる君はあんたのこと好きって言ったの?」

 影山も熱くなる。


 二人を止めようかと迷ったが、女の喧嘩に男が入るもんじゃないとよく言うし、見守ることにした。


「わたる先輩のこと、イジメられてるときは見下してたくせに、いまさら好きになるなんて都合良すぎますよ」


 あずの意見に、影山は返す言葉がないようだった。


「もういいから。あずは教室戻って!」


 さすがに僕は止めに入った。


「でも!」

「後で話すから。僕の頼みが聞きたいんでしょ」


「はい……」

こういうとあずは素直を聞いてくれる。


 影山の方は、下を向き髪で顔が見えなかった。わざと隠しているようにも感じる。


「ごめんなさい」


 影山は小さくそれだけを僕に言った。


 まったく、二人ともなにを熱くなっているのやら。女のプライドというものはよくわからん。平和が一番だ。




 学校も終わり、帰宅のバスから降りて、あずとの別れ際のこと。


「ねえ私、今日は用事あってできないんですけど……」

「ん、なに?」


「明日さ、先輩の家に泊まりに行ってもいいですか?」

「え? 泊まり? 無理だよ」


「も、もちろんさ、記憶のためですよ。きっと思い出せることがあると思うんです。断じておかしなことを考えてるわけじゃないです。断じて」


 記憶のためか。おそらく前にも僕の家に来たことがあるのだろう。今のところ、きっかけがないと記憶も戻らんことだし、気が進まないが仕方のないことか。


「明日だけならいいよ」


「よっしゃっ! ありがとうございます」


 あずは胸の近くで小さくガッツポーズをして、目をシワシワにして喜んでいた。




「ただいま」

 家についてから、上着を脱いでコップ一杯の水を飲む。ばあちゃんが覚束ない手つきで麺を茹でようとしてた。


「今日の晩飯、ラーメンか何か?」

「そうしようと思ったんだけど、体が追いつかないわー」


「手伝おうか?」

「あぁ、ありがと。じゃあ、そこのどんぶりとっておくれ」


 僕は食器棚からどんぶりを二つとって、ばあちゃんのすぐそばに置いた。たしかにお年寄りには重たい素材でできている。


「そっちのザルも」


 湯切りか。体もキツそうだし僕がやった方がいいな。


 そう思ったが、ばあちゃんは「年は取りたくないな」と言いながら、べしべしと腰の入ったたくましい湯切りを見せつけた。


 まだまだすごい元気じゃないか。僕より体幹強そうだ。


「たくましいね。ばあちゃん」

「何をいうのやら、たくましうなったのはわたるの方じゃ」


「僕は何も変わってないよ。ばあちゃん」

「自分では気づけないもんさ。その代わり、周りが気づいてくれるさ」


 そういうもんなのか。


「さあ、冷めぬうちに食べよう」




ご愛読ありがとうございます



「おもしろい!」


「続きが読みたい!」



と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から作品の評価と応援のほどお願いします


「おもしろい」☆5  「つまらない」☆1


と素直な評価がいただけたら幸いです。



【ブックマーク】もいただけると励みになります


何卒よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ