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春の恋(初版)  作者: 赤良狐 詠
現代A(忘却)

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2/14

美幸(1)

 中学、高校時代、いや、それよりももっと以前、小学生の時から、人に良くからかわれていた。もしかしたら、家族以外の他人と関わるようになってから、美幸は()け者にされていたのかもしれない。


 小学校低学年の時、一目惚れで、駄々を捏ねて買ってもらった小さな鈴の付いたクマのキーホルダー。ランドセルに付けて小さな鈴が耳元まで響くのが心地良いと思ったが、それを聞くことができたのは登校した時だけだった。


 自慢をしたわけではなかったが、教室に入った途端、クラスの人たちが、嬉々としてキーホルダーに目を奪われていた。


「それ可愛い!」


「綺麗な音!」


 などと、普段話しかけてくることのない人たちからちやほやされ、嬉しかったが、それでも自慢したわけでも謙遜したわけでもなかった。ただ


「うん!」


 そう答えただけだったのに……


 クマのキーホルダーは下校する時にはランドセルから忽然と消えていた。泣きながら一人探していたら、担任の先生が一緒に探してくれた。


 しかし、結局キーホルダーを見つけることは叶わなかった。


 クラスで失くなったキーホルダーを知っている人がいないか先生が聞いたが、誰もかれもが何も知らなかった。


 そんなわけがないのに。


 友達だと思っていた人を家に連れてくるといつも自分の物が何か失くなった。テレビゲームも、集めていたビーズのコレクションも、好きだったアニメの魔法少女のステッキでさえも。


 両親は電話で友達ではない()()()の親御に電話したが「ウチの子は何も知らないそうです」で終わった。


 そして、美幸は一人でいることが多くなり、他者との接触を避け、話をすることをしなくなり、ただそこにいたのだった。


 地元にいることで、何も変わり映えすることのない顔ぶれにうんざりしながらも、中学からは少しばかり変化があった。


 他の小学校出身者が加わり、離れることになった同級生と入れ替わり、そして春に初めて会った。特に仲が良かったわけではないし、同じクラスになったわけでもなかった。


 それは高校でも同じで、同じクラスになることはなく、大学は偶然一緒だった。上京するにあたり、二人暮らしを両親と春の両親から勧められたが、自分の時間、いや、自分を守るために、それはしたくないと断固として拒否した。


 そして、二人は別々に賃貸アパートを探すことになったが、両家が美幸に妥協案として二人は大学卒業まで生活圏を近所にしてほしいと言うことだった。


 家賃を免除してもらう代わりとして、そこは妥協案に乗るしかなかった。しかし、そうは言っても、美幸自身が一番解っていることだ、春とは友達でもなんでもない。


 彼女はただの他人でしかなかった。

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