マが使えない自由業
「皆さんおはようございます。アンナと言います。よろしくお願いします」
昨年は組合の従業員と商会に対して行い、今年は店舗経営者、いわゆる個人事業主に対して行なっている。
今年は昨年受講した組合の従業員が講師として教える予定であったが、やはり同じ講師が行った方が間違いがないだろうということで今年も依頼(強制)された。
その通りだと思うし、ほかに何か用事があるわけでもないため引き受けた。
「簿記、というのは収支を帳簿に書き記していくことという意味です。初めは帳簿のつけ方を。そして最終的には年末に提出する収支決算書を作ってもらうところまでお教えします」
そもそも簿記はさほど難しいものでもない。ただ、この国では今まで統一されていなかったものを国として統一させるという点で間違いがあってはならない。
「ここにきた皆さんは来年から収支決算書を年末に提出しなければいけません。今まで個々人で大まかに決めていた上納金を今後はきちんと計算していきたい、という国の意向です。
国のメリットだけでなく、皆さんも収支や利益、資産管理がやりやすくなるというメリットがあります」
またこの国は労働基準法なんてものもないため、特に個人事業主は自由に働き自由に休む。働いている時間も曜日もバラバラなため、一週間ごとに同じ講義を行い、行ける時に行くというまったりスケジュールである。
ただし一週間補講のための予備として確保しており、必ず全員が受けられるように出張講義(有料)も用意している。
講義のスタンプカードも作成しているので、気分は夏休みのラジオ体操だ。
「わからないことがあれば都度質問してください。なんとなくで覚えてしまうと“損”をする可能性があります」
商売人には“損得”を伝えておいた方がやりやすい。