かの有名な雪国現象
国境の長いトンネルを抜けると雪国であったーーー
これは有名な小説の一節であるが、まさか自分がそんな状況になるとは思ってもみなかった。
歩き方が悪いのか昔からよく躓いていた。
靴底も片方だけ減りが早いし、それも外側だけ。姿勢が悪い証拠である。
あの日も何もないところで躓いた。
何度も経験しているくせに全く慣れないわたしは、そのまま地面に倒れ込んだ。
そう。倒れ込んだ。はず。だった。
現代日本の地面はどこもかしこもアスファルトに覆われ、倒れようものならどこかを擦り剥くのが当たり前のようなもの。
さらには目撃した周囲の人には呆れたような、憐むような視線を向けられ心も傷つく。
そんなダブルパンチを喰らうもの。
もちろんあの時もまずは衝撃に備え、まぶたを閉じ、いくらかマシだろうと腕を伸ばした。
パシャンッーーー
まぶたを開くと幻想的な森の中であった。
水の音。
これは水溜りに倒れ込むトリプルパンチかと怖くなったが、そうならば早くこの場を去りたい。タクシーでも拾って家に逃げたい。
そんな考えで頭がいっぱいになった。
しかしながら、このまま倒れ込んでいるわけにはいかないと気合いを入れて目を開けた。
ここまではよかった。いやよくない。
明らかにここはコンクリートジャングルではない。
もしや倒れたときに頭でも打って召されてしまったのか。
ならばここは天国か。なるほど。いやなるほどじゃない。
「え、どこ、ここ…」