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交渉と4人の理解者

  その後は1週間でカタがついた。

 三日後以降と言う話だったが三日後には殿下方を含めたラッセル子爵、アルバート様に現ウォーカー侯爵のお父様、実質、実権をほぼ掌握し次期侯爵も近いと言われているルーカスお兄様にわたくしと全7名が王宮に呼ばれ、内密に交渉が行われた。


 実はアルバート様と顔を合わせるのはまだ実質2度目である。

 今まではこちらが一方的に見つめていただけで顔を合わせたことはなかったので。

 少々特殊だったわたくし達の出会いは残念なことにアルバート様の記憶にはない。勿論アルバート様の記憶力がないわけではありませんよ?アルバート様は優秀な成績で学園を卒業しております。

 わたくしが10歳、アルバート様は13歳のあの日今も思い出すと胸が熱いものです‥‥


 合法的にアルバート様を見つめていられる機会を逃すものかと意気込みながらこっそり見つめていると、ラッセル子爵は申し訳なさそうにアルバート様と目を合わせ2人共諦めを浮かべた顔で頷きウォーカー家の提案を受けいれた。


 ラッセル子爵は情に厚いらしい。弟の事を大切にしているよう。申し訳なさそうな顔にちくんと胸を痛めた。


 ラッセル子爵家は8人兄妹である。それがどういうことかというと‥‥ざっくり言うと貧乏なのだ。8人貴族院に出すということは並大抵のことじゃない。1人の娘を出すのに下手すれば小さな城を一棟立たせられるお金をかけることもある。


 そこに侯爵令嬢との婚約は、ありがたいだろうと自分の事ながら思う。侯爵家と縁を結ぶということはそれだけ経済効果も、周りの評価も変わってくるのだ。


 そんなことよりわたくしの胸をえぐるのは諦めを浮かべた笑顔を浮かべたままのアルバート様である。

 本当に愛していたんだわ‥‥ミラー男爵令嬢のことを。


 せめて嫌われず、お友達になれる方法はないかしら。

 背筋を伸ばし向かいにいるアルバート様の顔を再度見つめる。気づいた彼もまた背筋を正し、目が合った。


「‥‥アルバート様、わたくしからご提案がございます」

「‥‥はい?」

「ご令嬢と別れる必要はございません。母屋の敷地内に小さいながらも別宅がございます。2人と少しの世話をするもの達で暮らすには充分でしょう。おふたりで暮らすといいですわ」


 わたくし以外か目を丸くする。オクタヴィアン殿下が何言ってるんだこの馬鹿、という顔で眉を顰める。


「それは、どういう」


 ぽろ、とつい出てしまったような声でアルバート様が呟いた。


「勿論、条件もなしとは行きませんわ。ひとつ、わたくし以外と婚姻を結ぶことはおやめ下さい。ふたつ、我がローウェルの土地のことに口を挟まないでください。なので、アルバート様には引き続き王宮騎士として働いて頂きます。みっつ、必要最低限の夜会はわたくしとご出席ください。出来れば、恋人のご令嬢と夜会に出るのは控えてくださると嬉しいですが‥‥無理にとは言いません」


 噛み締めるように頷き聞いたアルバート様は困ったような顔で不思議そうに首を傾げた。


「私にとってはありがたい事ばかりですが‥‥どうしてそこまでして頂けるのでしょうか。我が領地を救っていただけるのです。そこまでしなくても私は貴方に従いますし、ローウェルに関して口を出すなと言われれば口を出しません」

「‥‥貴方をお慕い申しているからです」

「だったらなぜ、別れさせれば私は貴方のものですよ」


 周りを見ると皆そうだ、と頷く。

 そうだろうか。わたくしにはそう思えない。


「わたくしはアルバート様の心を無視してアルバート様を手に入れようとしています。それはかのバートン伯爵令嬢と同じだと、再三言われました。そうです、わたくしは最低だと思ったご令嬢と同じです。ですがお慕い申しているからこそ、わたくしはアルバート様に幸せになって頂きたいのです。‥‥その幸せにわたくしは邪魔でしょう?」


 アルバート様は口を小さく開けて呆けている。あら、呆けたお顔も素敵。


「‥‥勿論わたくしはこのとおり独占欲が強い女ですから、第二夫人にミラー男爵令嬢を置いていいとも、夜会を出なくても良いとも言えません」


 そこで堪えきれないとばかりに笑いだしたのはオリヴィエ殿下だった。え?貴方が笑うんですか?

 オクタヴィアン殿下はなんだそれはと言いたいような顔で顔を顰めていた。実は意外とこっちの方が常識人だ。


「はーおかしい‥‥良いのではないのですか?ウォーカー侯爵令嬢がここまで言っておられるのです。話に乗られては」

「で、ですがこれでは示しがつきません」

「ではあなたの言う示しというものはどんなものでしょう?どう示しがつけばよろしいと思いますか?ラッセル子爵」

「‥‥少なくともアルバートはミラー男爵令嬢とは縁を切るべきでしょう。本来であれば王宮騎士も辞め、土地を管理するウォーカー侯爵令嬢の補助をし、お守りするのが筋というものです」


 アルバート様は瞳に微かな希望を覗かせたもののラッセル子爵の言葉にまた落胆が滲む。


「ですがウォーカー侯爵令嬢はその補助を求めてはおりません。そして、我ら王宮の人間もまた、優秀な騎士であるアルバートを手放したくないのが本音です」

「ああ、そうだな。アルバートは優秀な騎士だと聞いている。悪い噂もない」

「それにこれが一番の理由ですが‥‥無理に別れさせれば、アルバートはウォーカー侯爵令嬢を心から愛せないでしょう。悪い噂を聞かないということは一途ということだからね」


 王族である双子殿下が仰るのだから本当に悪い噂はないんだろう。

 ラッセル子爵はまだ納得出来ないのだろう、お父様やお兄様にも意見を聞いた。が、こちらもまた柔軟だった。


「ライラがいいならよい」

「私も同意見ですね。ミラー男爵令嬢の生活費を全てもつなど言い出すならば止めますが、別宅を与えるだけなら好きにすればいい。ああ、こちらから言わせてもらうなら、ミラー男爵令嬢とアルバート殿の2人に出来た子供は決してウォーカー家で認知しないように。争いの元だ」

「承知しておりますわ、ルーカスお兄様」

「こ、子供まで持たすことを反対しないのか‥‥?」


 ラッセル子爵は頭を抱えてしまった。

 そうでしょうそうでしょう。わたくしも内心びっくりしておりますわ。そう、肩を落とさないで


「ありがとうございます、お父様、ルーカスお兄様」

「ないとは思うがアルバート殿との子が出来ればウォーカー侯爵家は喜んで祝福を送ろう」

「ということですわ、アルバート様」

「‥‥本当に、別れなくても良いのですか」

「構いません」

「アルバート!」

「ラッセル子爵、わたくしこれ以上アルバート様に嫌われたくないのです。愛されることがなくとも、わたくしが愛すのは自由でしょう?」

「‥‥ですが、我が弟ながらアルバートは一途な男です。きっとあなたには靡かない‥‥何か、せめてもっと約束事を増やしてくださいませんか、我が領地を救ってくださったウォーカー侯爵家の令嬢を蔑ろにする未来しか見えないのです」


 信頼されているのかどうなのか‥‥このままではラッセル子爵は禿げてしまうんじゃないかしら。

 でもそうね、なにか考えなければ‥‥あとから娘を蔑ろにして、と難癖つけられかねないと思うわよね、普通。

 折角だし、わたくしの夢を叶えてもらえたりしないかしら


「‥‥では、朝食を」

「え?」

「仕事の日だけで構いません。母屋で朝食を共にとってくださいませんか、わたくしと」

「そんなことでよろしければ」


 え、いやだお許しが出たわ、これはもう少しわがままを言うチャンスでは


「あ、あの、お見送りもしてもよろしいでしょうか、いってらっしゃいといっても‥‥?」

「え、ええ」


 慌てて口元を指先で隠す。いけない、にやけてしまう。やった、やりました!夢だったいってらっしゃいができます!朝食付きで!


「朝が苦手で起きてこないライラが朝食を?それは健康的になりそうだな」

「お父様は黙っていてくださいまし」


 アルバート様と朝食を頂けるのであればわたくし、苦手な朝も克服致しましょう!


 ラッセル子爵は相変わらず頭を抱えているし、双子殿下とお兄様は堪えきれないのか3人して肩を震わせている。

 アルバート様は困ったように首を傾げ、他には?と聞いてくる始末。


 こ、これ以上わがままを言ってもいいなんて‥‥罰が下るのではないのかしら‥‥


「こ、これ以上ですか?どうしましょう?」

「約束事なんだ、ここで決めていくように」


 オクタヴィアン殿下が目に涙を浮かべて言う。王族が共に席につく場だ。言ったもん勝ちということだろう。だけど絶対この人聞きたいだけだわ。


「いってらっしゃいをいうのだからただいまも言いたくはないのですか?ウォーカー侯爵令嬢」


 オリヴィエ殿下がからからうように言うが、それは越えてはいけない一線だ。


「いいえ、夜は1日の仕事の終わりです。すぐいとしい人の元に帰りたいに決まっています。1日の話をお夕食と共に語らい、疲れた身体を癒し、ようやく訪れる2人だけのゆっくりする時間を奪ってはいけません。わたくしはそうして家族と過ごしました」


 皆の動きが止まってしまった。‥‥そんなに寒いこと言ったのかしら、どうしましょう


 口を開いたのは、ラッセル子爵だった。


「‥‥アルバート」

「‥‥はい、兄上」

「これから宣言することを肝に銘じよ」


 ラッセル子爵は席をたち片膝をつき頭を垂れる。

 王宮に使える騎士の最上の礼だと聞いたことがある。たしか本来は腰の剣を差し出すはずだが、ラッセル子爵は帯刀していないので多分省略しているのだろう。


「ラッセル子爵家領主アーロン・ラッセルはここに、オクタヴィアン殿下、オリヴィエ殿下、ウォーカー侯爵、ルーカス殿、ウォーカー侯爵令嬢に宣言致します。愚息アルバートとミラー男爵令嬢のことは今後一切私は口出し致しません。そのかわり、アルバートに令嬢との子供が出来た時、子供を取り上げ、令嬢もろとも亡きものに致します」


 目を大きく見開いた。どうしてそんな話になったんだろう。抗議しようとしたところにオクタヴィアン殿下が手を軽くあげわたくしを制した。


「オクタヴィアン・キャベンキッシュはその宣言を聞き入れよう」

「オリヴィエ・キャベンキッシュも同じく。その宣言を聞き入れましょう」

「我らウォーカー侯爵家一同も宣言を聞き入れます」


 お父様にひとまとめにされてしまった。テーブルの下で隣りにいるお兄様に足を叩かれる。先程の暴走には文句を言わないから口を挟むなと言うことですか。


「肝に銘じます」


 王族を含めた宣言は誓いと同じだ。

 今後、アルバート様がミラー男爵令嬢と子供を作ればミラー男爵令嬢と子供は‥‥



 こうして口を挟む場もないまま、宣言は皆に受け入れられこの場は解散となった。




 そのあと5日もしない間にバートン伯爵夫妻は不慮の事故にあい神の身元に旅立たれ、バートン伯爵令嬢は何処かの悪食だと有名な子爵の男に買い取られたと聞いた。


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