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3人の家族

 


 王宮を訪れた日の夜。

 久しぶりに夕食のお時間に家族が揃った。

 次期侯爵のルーカスお兄様は年の離れた兄弟で今年35歳になる。

 さきのご令嬢は一人娘だった為、婿を採らなければならなかったのでお別れする他なくあれ以来お兄様は独身のままこの歳まで来てしまった。もてないわけではないけれどどうにも気分が乗らないらしい。

 苦労するのはお兄様だけど、気乗りしない結婚よりは幸せになれる結婚をしてほしい。けれど真夜中の空のような黒い髪の色に空気が澄んでいる時の月のような淡い金色の目。お兄様はお父様の御髪とお母様の瞳を持ったとても整ったお顔の持ち主だ。要は夜会では格好の餌食である。


 あ、ちなみにわたくしはすみれ色の髪に羊の毛のような色の瞳。なんというかメリハリのない色だ。母方の曾祖母様と色彩が似ていらっしゃるご様子でちなみに皆直毛。もう少し色彩のハッキリしたお色に生まれたかったな、と思ってしまわなくもない。

 ごめんなさい、曾祖母様。


「久しぶりだね、ライラ。ローウェルはどうだい?」

「はい、ルーカスお兄様。なんとかなっています。エイベル叔父様が館の皆を残しておいてくださったお陰ですわ」

「そうか‥‥また夏にはそっちに顔を出していいかな」

「勿論ですわ。楽しみにしています」

「ライラ、今回王宮に行ったのは殿下方に呼び出されたんだったね?どんなお話だったんだい?」


 きた。無意識に背筋を伸ばしお父様を見るとお父様は目を細め、ふむ、と顎を撫でた。

「なんだか深刻なお話かな」

「強いていえばわたくしの結婚相手が決まりそうなお話ですわ」

「まあ、それにしては嬉しそうではないように見えるのだけれど?」


 お父様の横で心配そうに眉を顰めるお母様はイマイチ歳をとってる感じがしない。

 細身の身体に豊満な胸、お顔は少女のようなあどけなさ。お母様曰く若さの秘訣は毎日愛されること、らしい。

 うらやま‥‥こほん。他人を羨むことしかしない者はただの怠惰の塊。母も見えないところで努力を重ねているのだから羨むことだけではなく努力しなければ。


 密かに決意を決めていると沈黙が肯定になってしまったようだ。家族が顔を見合わせ心配そうにわたくしを見る。


「‥‥長い付き合いだ、双子殿下とは友好な関係を築けていると思っていたんだが」

「どちらかと婚姻を迫られたか?」

「それとも誰かとの婚姻を進められたのか?」

「ち、違います、わたくしはわたくしの好きな人と婚姻を結ぶチャンスを殿下方に頂いただけです」


 ルーカスお兄様は1人納得されたのか頷きなるほど、と呟いた。


「どういうことだい、ルーカス」

「ライラの想い人はラッセル子爵領の三男アルバート殿だろう?今あそこはバートン伯爵家に圧力をかけられているはずで…たしかうちの領で作っている織物がラッセル領に下ろせないと苦情が上がっていました」

「バートン伯爵?‥‥ああ、いつだったかバートン伯爵嬢がお前にちょっかい出てきたんだったな。あの時は令嬢の世迷言に伯爵夫妻も口出ししてきていい迷惑だった」

「ああ‥‥あの無作法な‥‥令嬢と夫人ですか」


 冷たい両親の声に兄妹2人でぎょっと目を向ける。どうやら本人よりも不快な思いをしたらしい。

 これはチャンスでは?


「お父様、お母様。わたくしはラッセル子爵領に手を差し伸べたいのです」

「ほう?こちらの得にはならなそうだが?」


 お父様は試すように言いながら食後のデザートに手を伸ばす。冷たい氷菓子だ。


「わたくしの結婚相手を頂きたく存じます。お相手はラッセル子爵三男、アルバート様です」

「あら、身分が違いすぎるのではなくて?」

「お母様、わたくしは侯爵の爵位を継ぐわけではございません。貴族でもない庶民ならいざ知らず、彼は曲がりなりにも貴族ですし今は王宮騎士をしております」

「王宮騎士ですか‥‥」


 王宮を護る騎士様は爵位もいるがただ身分があればいい訳ではない。強さ、知識、忍耐力‥‥様々な能力が高くないと務まらない。

 庶民、貴族関係なくなれる職業とうたわれるものの、知識を詰め込むことも、強さを極めることも庶民には難しい。

 現在では貴族の人間が大半を占めている。勿論、例外はあれども。


「ライラ。彼には婚約秒読みと言われている彼女がいるようだが?」

「お兄様、わたくし達は貴族です。家のため、国の為に繁栄を願い婚姻を結ぶこともあります。現ラッセル子爵様は賢い方だとお聞きしますわ」


 兄弟の1人さしだすだけで、領地が救えると分かれば彼はアルバートを差し出すだろう、と暗に言えばルーカスお兄様は眉を顰めながらも頷いた。


「君を愛してはくれないよ、それでもいいのか?ライラがしているのはバートン嬢と何も変わらないよ」

「承知の上です。わたくしはアルバート様を頂くことを条件にラッセル子爵領に手を差し伸べたいのです。そしてそれは、双子殿下直々の願いでもあります」

「ああ‥‥ラッセル領は優秀な騎士を排出するからな」

「お願いします、お父様お母様お兄様‥‥これらにかかる費用はローウェル領から捻出致しますから」

「いや、家から出しなさい。大事な娘の婚姻に関わることだ。いいなルーカス」

「勿論です」


 黙って聞いていた母も仕方ないと思ったのだろう、困ったような笑みを浮かべ、デザートに手をつける。


「‥‥ライラが泣かなければ母は良いのです」

「お母様‥‥」

「人のものを奪うのです。心許ない噂も事実より酷く流れますよ心なさい」

「もとより覚悟は出来ています」

「まったく‥‥変なところだけ旦那様に似るのはおやめなさい」

「いいえ、これはお母様似ですわ」


 貴族院時代、お父様に許嫁がいるにも関わらず諦めきれず近くから遠くから見守り続けお父様を落としたお母様似だと。わたくしは確信しておりますわ。


誤字報告ありがとうございました!

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