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双子殿下に呼び出されまして。

 

 小さい頃から身近にいた異性はお父様とルーカスお兄様、エイベル叔父様と家の執事や料理人、庭師‥‥それと王族の双子の兄弟、オクタヴィアン殿下とオリヴィエ殿下だった。お父様の仕事柄5つ年上の歳の近い殿下達のお話し相手を良くすることがあった。


 そしてそれは20歳も迎え、双子殿下も25歳を越えた今でも続いている。


「お久しぶりです、オクタヴィアン殿下、オリヴィエ殿下」


 春の日差しが暖かい日。

 外では王宮騎士の皆さんが訓練をしている。殿下達のお部屋からはちょうど訓練場がみえるのだ。みたい。


 そう考えながらも、片足を斜め後ろの内側に引きもう片方の足の膝より深く曲げ、両手でドレスの裾をつまみ軽く持ち上げ腰を曲げて頭を深々と下げあいさつをする。

 貴族の令嬢たるもの昔なじみの王族へのカーテシーだとしても完璧でなければ。

 挨拶は言葉を交わす生き物であるわたくし達人間の最低限のマナーである。はお母様の教えだ。


「久しぶりだね、ライラ」

「ローウェルは落ち着いたか?」

「はい、なんとか軌道に乗っております」

「何故そんなに他人行儀なんだ?ああ急に呼び出したからな。オリヴィエ、紅茶を淹れてくれないか?」

「ええ、兄さん。さあ座って?ライラ。君の好きなチーズケーキもあるよ」


 この双子殿下は変わっている。

 執事もいるのに自身で紅茶を淹れるし、あまり大声では言えないがお菓子を作ったりもする。

 外見は割と似ていない。オクタヴィアン殿下は鍛えられた肉体にクルクルとウェーブを描いた金色の髪に切れ長の空色の目だがオリヴィエ殿下は細身の身体にさらりと真っ直ぐ伸びた白雪のような白銀の髪にアーモンドアイで空色の目をしている。

 二卵性双生児というらしい。

 見た目だけは美しいのだが、何分癖が強い。


「まあ素敵ですこと。こちらのチーズケーキはどちらのお店のですか?」

「もちろん『オリーブの木』だ」


 向かいに座るオクタヴィアン殿下がウインクを寄越してくる。ということはオリヴィエ殿下の手作りと言うことだ。


「でしたら絶対美味しいですね」

「ああ、今回の新作も最高だ」


 2人して澄まして頂くとオリヴィエ殿下は頬を染めてはにかんだ。


「で、わたくしはこの新作のチーズケーキを頂くためにお呼ばれされたのです?」

「まさか。勿論コレの為もあるが君の愛しのナイト様の情報があるから呼んだんだ」

「‥‥今回は深刻だよ、ライラ」


 2人の様子に自然に背筋を伸ばす。双子殿下はわたくしがアルバート様をお慕い申しているのを昔からご存知なのだ。


「‥‥ラッセル領が暴落しかけている」

「は‥‥?」

「有り体に言うとね、その‥‥今のラッセル子爵がよその領の伯爵令嬢の好意を袖にしてしまって‥‥」

「たしか、今のラッセル領はアルバート様の1番上のお兄様がご統治されていらっしゃいますよね」

「ああ、つい数年前に爵位も継いだ」

「ラッセル子爵はとても愛妻家で第2夫人は取りたくないそうだよ」


 そうだ、たしか貴族院にいた時からおしどりカップルだったと今でも夜会で聞く逸話だ。


「なるほど、ラッセル子爵夫妻は有名ですものね」

「まあ、よくある話なんだがその令嬢は我儘でなぁ。袖にされたと知った伯爵がラッセル領に圧力をかけた。お陰でラッセル領での貿易が滞った」

「‥‥それはいつから?」

「圧力は二ヶ月前だね、もともとラッセル領は騎士を多く出す領地なだけに堅実だし、信頼もあるからまだじわじわと来てるだけだけど‥‥」

「残念なことに緩やかではあるが徐々に領地は荒れてきている」


 かわいた喉をほんのり冷めた紅茶で潤す。香り高い紅茶は冷めても美味しいが今は味なんてわからなかった。


「そんなお話をどうしてわたくしに?」

「簡単だ。お前悩んでいただろう?最近結婚話が増えたと」

「初恋を叶えるチャンスかなって」


 向かいに座る双子殿下を見やる。この二人の嫌なところはこれが完全なる善意な所だと思う。


 けれどここでひとつ問題がある。アルバート様はわたくしがローウェルへ向かってすぐ恋人が出来たらしい。ミラー男爵のご令嬢、メアリー嬢だ。

 1度お顔を拝見したことがある。桃色のウェーブのきいた御髪の可愛らしいご令嬢。


 お付き合いされているご令嬢が居なければ喜んでこの話に飛びついたけれど‥‥愛し合っている恋人を引き裂くの?わたくしが?きっと恨まれるでしょう。愛していただけることもないかもしれない‥‥


 しかし殿下方の善意は真綿となってわたくしの首を締め付ける。まるで甘い綿菓子で首を締められるようなこの誘惑を食べてしまうこともハサミで切り落とすことも出来ないのはわたくしがその案に乗りたいと心の底で強く願うからだ。


 勿論貴族たるもの家の為、国の為に繁栄を願い血と歴史を紡ぐものである。そこに愛がなくても。

 ‥‥本来はお父様達やラッセル子爵夫妻が特殊なのだから。


「今のお前は治める土地も、頼れる家族も、扱える金もあるだろう」

「‥‥わたくしに愛のない結婚をお金と圧力で買えと仰るのね。恋人達を切り裂いて」

「それが本来の貴族と言うものだろう。俺は優秀な騎士を出すラッセル領を無くすのは惜しい」

「今、オクタヴィアン殿下の中で友情と私情を天秤にかけましたわね?」

「掛けたな。そして私情(ラッセル領)が勝った」


 紅茶をすすりながら睨みつけると余裕綽々という顔で無駄に長い足を組み直しふんぞり返る。

 そんな中オクタヴィアン殿下の隣でそうそう、と間延びした声を上げたオリヴィエ殿下に2人して気がそがれた。このお方は昔からそうなのだ。

 ‥‥オリヴィエ殿下、お願いだから空気読んでください。


「思い出したバートン伯爵だよ、確か。ウォーカー家はちょっと揉めたことあったじゃない?」

「‥‥ああ、確かお付き合いされている方がいらっしゃったルーカスお兄様に袖にされて逆恨みされてましたね、ご令嬢に」

「ルーカスといいラッセル子爵といいバートン嬢は年上が好みなんだね。ひとのものに興味があるなんて、趣味が悪いよねぇ」


 うっすら寒気がした。あら?この中で一番嫌悪しているのってもしかしてオリヴィエ殿下なのかしら

 オクタヴィアン殿下が渋々オリヴィエ殿下の肩を叩きわしゃわしゃと髪を撫で回す。


「まあ、オリヴィエもこんな感じで割りと嫌悪感丸出しでな。ぱぱっと解決してくれや、解決の仕方はライラ、お前に任せる」

「‥‥承りましたわ」

「‥‥ごめんね、ライラ。僕達はこの国を治めるものだからひとつの領地を特別扱い出来ないんだ」

「いいえ、スパッと断らないのはわたくしの心が揺れているからですわ。叶うはずのなかったアルバート様への恋心を叶えるチャンスを逃したくないと」

「なるべく早く答えを出せ、橋渡しくらいはしてやる」


 席を立つと二人も立ち上がる。昔は合っていた目線も今は頭一つ違う。

 オリヴィエ殿下は半分くらいだけど


「‥‥なんだか随分遠いところまで来た気がします」

「お前なぁ‥‥20歳の小娘が何言ってる。これから先もっと理不尽でやり切れない事も飲み込みにくいことも嫌という程あるぞ」

「やめてくださいな。目の前が真っ暗になります」

「人生まだこれからだぞ。妓楼のやり手婆みたいな事言ってんじゃねぇよ。まだ処女だろうが」

「わたくし、いつかオクタヴィアン殿下に唐辛子の粉をぶちまけたいですわ」

「手伝うよライラ、僕はジギタリスの花粉にしようかな」

「それ毒だな?」

「オクタヴィアン、どうして妓楼のやり手婆みたいだなんて分かるのかな?」

「あ?いや、それは」

「ふ、ふふふ」


 昔から変わらないやり取りについ笑ってしまうと、2人が目を細め見守っていた。


「僕達は彼なら君のナイトになってもらってもいいなと思ってるんだよ」

「‥‥印象最悪ならあとは上がるだけだ。この先はお前次第だぞライラ」

「‥‥‥‥決めました。家のものとの話し合いもございます。3日後以降にラッセル子爵とアルバート様のご予定とすり合わせてくださいまし」


 顔を上げる。そうだ、これはチャンスだ。

 わたくしの欲しいものを手に入れるための


 たとえその手段が、バートン嬢と似たような手になったとしても。


「心積りも決まったので、王宮騎士の訓練風景見ていっていいですか?」

「いいけど程々にな。最近『双子殿下の部屋から女性の幽霊が覗く』って七不思議になってるらしいから」

「それわたくしじゃなくて本物では?そんなしょっちゅう来てませんし」

「おいやめろ、俺達ここで寝るんだから」



オリヴィエ殿下は気に入っている人間にちょっかい出す伯爵たちが気に食わないご様子。



アルバートが出てこないのですが‥‥



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