表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

大勝利報告

 食後のお茶を頂きながら時計を確認するとまだベッドで惰眠を貪っていることもあるくらいのまだまだ朝と言ってもいい時間帯だった。

 昼のお茶会の時間までまだ大分あるけれど取り急ぎ取り掛からねばならない仕事もない。


「アルバート様はお茶会以外に何かご用事はありますか?」

「いや特にないな。騎士団の書類仕事でも持ってくればよかった」

「あらあらおやすみまでお仕事すると疲れてしまいますよ」


 物言いたげに目を細めじっと見つめられる。ああ、目が口ほどにものを言ってますねコレ


「君に言われたくないな」

「わたくしにお休みはありませんので」

「…実は俺もこんなに休みを貰ったのは初めてなんだ。弟妹にきちんとしたマナーをつけさせてやりたいし学費もバカにならないし…まあ働けば働くほど給料も貰えるし元が頑丈だから休日が必要なかっただけなんだが」


 だから何をしていいかわからない、と腕をくみながら首を傾げているアルバート様と一緒に首を傾げる。そういえばラッセル領の特産というものを聞いたことがないですねぇ…


「ラッセル領の特産品って聞いたことがないのですが」

「強いていえばそこに住う領民だな。ラッセル領は騎士のラッセルと言われるほど騎士の排出量が多いんだが…要は未来のある若人は外へ出るということで」

「なるほど、前線を退いた者が戻るから騎士の指導に携わる方が多いのですね?」

「ああ。あとは農民になるな、武器の部類は隣のトーマス領に専門がいるし、騎士にならなかった者たちも出稼ぎに行く奴らの方が多いんだ」

「それで名高いはずのラッセル領がカツカツと…」


 実は調べていないわけではなかったけれど隠れた特産があったりしないかと思ったが本当になさそうである。これは由々しき事態なのでは?


「ラッセルの領民は騎士であることに誇りを持った気立てのいい者が多いから貧乏領でもくさる者が少ないのが良いところでもあるんだが…こればかりは兄上も頭を抱えてるよ」

「そうですね、ラッセル特有の何かがあればよろしいのですが…」


 そう、例えば比率的に農民が多いなら農作物で特産品を…じっと考え込んでいると食堂の入り口の方から盛大な咳払いが聞こえた。

 慌てて背筋を伸ばし不思議そうにしているアルバート様の顔を見て苦笑いしてごまかす。


「失礼しました、つい他領のことまで…もう職業病ですね」


 恐る恐る咳払いした本人であるキースを振り返るとニッコリ笑って頷かれた。他領のことに首を突っ込むなということだ。

 それに気づいたアルバート様が申し訳なさそうに苦笑しながら話を変えてくれた。


「すまない。こんなにゆっくりした朝は初めてで…つい」

「普段はもっと慌ただしいのですか?」


 プルメリアが二杯目のお茶を淹れてくれた。一杯目とは違うさっぱりとしたミントのフレーバーティーで爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。


「実家にいた時は弟妹たちがまだ小さくて朝から賑やかだったし学園では友人や寮生が騎士になってからは騎士寮に移って男所帯で騒がしかったからな。ゆっくりすることはなかったと思う」

「でしたら少々寂しくなってしまうかもしれませんね」

「そうだな、その時は使用人に座ってもらうのはどうだろう」

「まあ素敵!普段はプルメリアもキースも一緒に座ってくださらないもの」


 お茶を淹れ終えたプルメリアが呆れたような顔をして口を開いた。


「当たり前です。よろしければお二人が寂しくなったら後ろでマナー本の音読を呼んで差し上げましょうか」

「や、やめて…貴方本当にするじゃないの」

「遠慮なさらずとも」

「はは」


 口元を押さえて顔を背けていたアルバート様がとうとう堪えきれなかったのか吹き出すように笑っていた。


「アルバート様?」

「昔、兄に似たような事を言われたなと…はは、いや、どこの家も脅し文句は一緒だな」


 そういえばわたくしも昔そんな経験があったなと小さい頃のお仕置きあるあるを話しながら二杯目のお茶を飲み切った。ちなみにわたくしのは脅しでもなんでもなくお仕置き(じっせん)だったためアルバート様どころかプルメリアも驚いていたけれど。小さい頃のわたくしは少々お転婆だったので…ええ、少々ですとも。





「アルバート様とライラ様にお手紙が届いております」


 しばらく悪戯談義に花を咲かせているとキースが一通の封筒を携えアルバート様に差し出した。


「俺が受け取っていいのですか?」

「はい、連名ではありますが差出人は妹君のようですので」

「妹?」


 アルバート様は手紙を受け取ると差出人を確認して目を見開いた。


「…ダリアとデイジーだ」

「まあ、いかがされたのでしょう?もしかしてカーテシーの合格が頂けたとか?」

「まさか…まだ十日と経っていないんだぞ?流石にそれは……あー…はあ」


 アルバート様は頭を抱えたまま手紙を差し出してきた。連名だと言っていたしわたくしも呼んでもいいということですか。

 手紙を受け取ると2人なりに丁寧に書いたのだろう文が並んでいた。


「えっと…『ライラお姉様とアルバートお兄様ごきげんよう!この度お母様からカーテシーの合格を見事勝ち取りました事をここにご報告申し上げます。一週間の猛特訓の末どこに出しても恥ずかしくないカーテシーだと言われました!ライラお姉様にお会い出来る日を楽しみにしています。ダリア・デイジー』…まあ」

「俺の名前はおまけじゃないか…」

「元気出してください、アルバート様」

「本当に一週間でマスターしたのかあの愚妹達は…」

「グレイス様に合格をいただいたのであれば確かですよ」


 アルバート様の母君であるグレイス様は元は侯爵家の6人姉妹の末子で学生時代に子爵令息であったブランドン様と大恋愛の後に結婚したのだ。

 そんなグレイス様の合格を勝ち取ったということは少なくとも侯爵家に匹敵するくらいカーテシーは完璧なわけで…


「一週間ですか…お二人とも素晴らしいですね」

「我が妹ながらやればできるんだ。やれば。だがすまないライラ、面倒ごとが増えてしまって」

「いいえとんでもない。アルバート様のお休みの時でよかったではありませんか」


 わざわざアルバート様のおやすみの日をを待たなくてもすぐに招待状を送って差し上げられるし、メアリー様が来る前の今なら折角のお休みの日にメアリー様を1人にしなくてもいいのだ。


「いつにいたしましょう?あまり待たせてはお可哀想ですし…」

「俺はいつでも構わないよ。ライラの都合は?」

「もちろんいつでも…あ、そうでした。プルメリア、アレの準備は出来ているかしら」

「勿論です。ですが余裕を見て3日後はいかがでしょうか」

「いかがですか?アルバート様」

「そんなに急で大丈夫なのか?無理をさせてはいないだろうか」


 本来は招待日は十分に日にちをとるものだけれどトントン拍子に話が決まり困惑するアルバート様を尻目にプリメリアとキースは打ち合わせをし始めてしまった。


「うちはこの通りお客様となると途端に張り切り出しますので大丈夫ですわ。それよりもダリア様やデイジー様は大丈夫かしら」

「手紙を出している時点で母からは許可をとっているはずだから大丈夫だろうと思うが…とりあえず返事を書こうか。午前中に出せば今日中には届くだろう」


「キース、書くものを」

「こちらに」


 キースはすでに準備していたインクとペン、便箋を取り出しアルバート様に差し出す。

 わたくしも一緒に一文書かせてもらってからポケットに入った持ち歩き用のポプリの袋から小さな花びらを二片入れて封を閉じた。


「何を入れたんだ?」

「わたくしのポプリを二片だけ…開けたらいい香りがしたらいいなと思いまして」

「ああ、いいかもしれないな。これなら匂いも飛ばなそうだ…あ、押し花みたいに平らにできれば香を焚いた文より匂いが残るんじゃないか?」

「それはいいですね、というより香文について随分お詳しいようで…?」

アイリスがよく使ってたんだ。だが安いものだと届く頃には匂いが飛ぶ物も多くて」


 とりあえずアルバート様が他のご令嬢からもらっていた訳ではないようで一安心した。


「お会いできる日がとても楽しみです」

「俺も妹達がどれだけ上達したのか楽しみだ」


 その後も談笑がしばらく続き三杯目の紅茶がなくなりお腹かちゃぷちゃぷになった頃2人してお手洗いに席を立ち朝食の延長線が終了したが、お手洗いから戻って時計を確認して大反省会をしたのはまた後の話である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ