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美味しい朝食の頂き方

 



 アルバート様にエスコートされて食堂にあるテーブルに向かい合うように座るとプルメリアとキースが配膳してくれる。昔から食事の際に人に立たれるのが苦手な事もあって食堂にはプルメリアとキースだけで最低限の人数で回してもらっている。

 割と距離があって気にならない出入り口に控えていてくれるため2人ともほっと息をついた。


「アルバート様も食事の際に人に立たれるのは苦手ですか?」

「そうだな、寮では基本自分のことは自分でするし実家にもいてもいないような人数しかいなかったから‥‥正直ほっとしたよ」


 これからも朝食時は2人に頑張ってもらおうと決めて朝食に手をつける。

 ちなみに朝食はわたくしの大好物ばかりだった。

 くるみの入ったクリーミーなドレッシングの掛かった葉物のサラダにジャガイモのポタージュ、サクサクのクロワッサン。ヨーグルトには季節のフルーツが入っている。


 大きめのお皿に少しずつ盛られたそれを見たアルバート様は2人が下がってから少なくないか、と呟いた。


「おかわりもございますから遠慮なくおっしゃってくださいませ」

「いや、そっちではなくて…ライラ、君の朝食は少なすぎないか?」


 向かいに座るアルバート様のお食事の量を見て納得した。わたくしの食事は大きめのお皿にほぼほぼ収まっているけれどアルバート様のお食事は一品一品が別のお皿だ。

 パンは別にカゴに乗っているし、ジャムやバターも置かれている。

 なんなら茹でたササミがサラダに追加されているあたり自分より豪華だ。


 ……実はここの料理人も料理長を筆頭にアルバート様に憧れている口だったりする。

 昨夜本人を目にして張り切ったのだろう、普段あまり食事に頓着を見せないからたくさん食べてくださる殿方がいて嬉しいのね。


「わたくしは普段から書類仕事が多いものですからあまり動かないのです…これでも昼食はもう少し食べますよ」

「そうか…?せめてササミくらい食べないか?」

「ふふ朝からそんなに食べたらお腹がびっくりしちゃいますわ」


 クスクス笑うとそうか、とアルバート様は恥ずかしそうにはにかんだ。


「朝はあまり食も進まなくて…妹君達も同じではありませんでしたか?」

「…アメリアはよく食べていたな…双子は…いやよく食べていたな」

「まあ!朝にお強いのはいいことですね」

「アリシア姉上…アーロン兄上の奥様だが、彼女は…いや彼女も割と食べていた、か?」

「ふふ皆様健康的で素晴らしいですわ」

「……ああ、朝は皆鍛錬や体操をしていたからよく食べたのかもしれないな」

「体操、ですか?」

「ああ、アリシア姉上がやっていたみたいだよ。朝に体操すると気分もシャッキリするらしい」

「是非詳しいお話を聞いてみたいです」

「手紙を送ろうか、教えてもらえるかもしれない」

「はい、是非!」


 便箋あったかな、と呟きながらパンを一口にちぎり口に入れるアルバート様。

 んん、朝からこんなに近くでアルバート様を眺められるとは…!


 やはり身体を動かす成人男性、一口が大きい。それでいて美しい所作なのは貴族特有のものだと思う。

 つい呆けてアルバート様を眺めていると不思議そうに首を傾げた。


「ライラ?」

「あ、すみませんアルバート様はお食事をなさる姿も美しいなと思って」

「それは君の色眼鏡…いや、そうだな、俺たち王宮騎士は様々な護衛や事務や時には王宮の人間と食事を共にしなければならない場面があったりするんだが…」

「警護だけではないのですね…」


 殿下方の部屋からは訓練場しか見えないから存じ上げなかった。アルバート様のお仕事の片鱗をしれて今日は本当に幸運だわ。


「そうだな、王宮騎士に知識やマナー、爵位が必要な理由はこういう為だと思う。時には隣国の方々と食事を共にすることもあるんだ。そういった時に相手にこんなもんかと思われないように所作は普段から厳しく訓練される」

「成る程…彼らからすれば王族以外の基準を測るのは近くにいる方々になりますものね」

「ああ。実は俺が王宮騎士になって一番大変だったのはこの食事の所作だったりしたよ」

「まあそうでしたの?」

「知識や剣術は小さい頃から培っていたし、マナーも学園で叩き込まれるだろう?だから知識としてはあったんだが…恥ずかしいことに家庭教師の先生にはお茶会や夜会が戦場になる妹達に優先に所作やマナーを叩き込んでもらっていたからマナーはともかく所作自体は疎かになっていたんだ」


 確かに令嬢にとってお茶会や夜会はいわば戦場だ。さすが騎士のラッセル領だと納得する。


「確かアルバート様には弟君もいらっしゃいましたね?」

「ああ、今年で13になるな」

「在学中ですか…成る程…一度正式に御兄妹の皆様をお食事に誘ってみてもいいかもしれませんね。兄嫁との会食はいい練習になるでしょう?」

「それはまた…胃が痛くなりそうだな」

「ふふ、何事も経験ですわアルバート様。大人になってから所作を正すのはとても根気のいることです。例えば多少社交で失敗したとしても食事の所作ひとつで印象は一気に良くなるものですから」


 実はアルバート様の御兄妹の団欒をみてみたいだけなのだけどそこは丁寧に包み隠す。一歩間違えばただの変態ですからね。

 ああ、私がメイドの仕事を一通りできればラッセル家に雇ってもらえたかもしれないのに。勿論タダで。


「…そこまで甘えるわけには」

「あわよくば御兄妹の皆様に気に入られたいなという下心付きですからお気になさらず」


 顔を固くしていたアルバート様がふ、と息を吐き困ったように眉を歪ませ笑った。


「君には敵わないな」

「ふふふ憧れの年季が違いましてよ」




 アルバート様との朝食はとても楽しかったからか、クロワッサンをおかわりしたらプルメリアとキースに泣いて喜ばれた。

 え?そんなに?わたくし昼も夜もきちんと食べているのに…驚いたアルバート様は真剣な顔で何度か頷いた。


「これからも朝食の時間は長めに取ろう」


 その時は嬉しさのあまり気づかなかった。その分朝の起きる時間が早くなることを。


 嬉しい!嬉しいのだけれど、私もう少し寝たい‥‥いえ、アルバート様との朝食の為なら起きますけども‥‥

『いとしい人をお金で買いました』のメインビジュアルが出来ました。


1話か活動報告でイラストの確認が出来ますので見てくださると嬉しいです。

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