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(アルバート視点)天蓋付きベッドの罠

今回は視点の関係上短くなっています。

 

 階段を登ろうとしたところで一階の通路から光が漏れているのに気がついた。

 どうやら扉が少し空いているようで閉じた方がいいかと顔を覗かせると一度入ったことのある中庭に続く応接間だと気がついた。

 そこのソファにライラが一人書類と睨めっこしていた。


「…ライラ?」

「あら?アルバート様、お風呂上がりですか?」


 顔をあげたライラは丸眼鏡を外し首を傾げた。


「ああ、夜に湯船に浸かるのは新鮮だったがいいものだな。危なく眠りかけた」

「まあ!ふふ夜もぐっすり眠れますわ…そうだ、一杯いかがですか?」

「頂いていいだろうか」


 ライラは嬉しそうに席を立ち備ついている小さな戸棚からカップを一つ手に取り戻ってくる。それに誘われるように部屋に入り向かいに座った。


「なんというか…アルバート様は何を着ても似合いますのね」

「…それはどうだろう、バスローブは何度か着たことがあるくらいで心許ないんだが」

「まあ、バスローブが落ち着かないのであれば違うものをご用意いたしましょうか?」

「いや、それは大丈夫。本当は慣れていた方がいいんだ‥‥年に何度か王族の視察についていくんだが宿がバスローブのことが多いから」

「まあそうですの?」

「バスローブの方がサイズを考えなくていいんじゃないか?」

「ああなるほど、そうですね」


 納得顔で頷いたライラはカップにミルクティーを注ぎブランデーを数滴垂らし用意してくれた。程よく温くなったそれは飲みやすくほっと息をつく。そこで改めてライラを見つめる。

 まとめあげた髪は下ろされ編み込まれていた髪は既に洗われたのだろうほんのり濡れて既にストレートに戻っていた。

 柔らかそうな薄手の白いワンピース型の寝巻きにベージュのタオルを肩にかけているが所々を濡れた髪が寝巻きを濡らしている。


 先程まで見ていた濃い色のドレスも似合うがやっぱりこちらの方が落ち着く気がする。あまりジロジロ見るのも失礼かと目線を落とすとカップの中の液体はタオルの色に似ていて無意識に笑っていることに自分では気付かなかった。


「ミルクティーは苦手でしたか?」

「ん?いや、そのタオルと色が似ているなと思って。ミルクティーはあまり飲んだ事なかったな」

「あら本当ですね、そっくり。本当はミルクだけの方がいいと思うんですけど…どうもミルク単体が苦手で」

「そうなのか?」

「生臭いというか、あの口に残る味がどうも…」

「独特だもんな」


 そういえば小さい頃アメリアがミルクが苦手だと泣いていたな。あれはどうやって克服したんだったか。


「ああ、じゃあ今度牧場に行ってみよう」

「牧場ですか?」

「従兄弟がやってるんだ。知ってるか?搾りたては味が違う」


 じとっとした目は絶対に信じていない目だった。


「信じてないな?」

「そんな事ないです。二割くらいは信じております」

「チーズやヨーグルトもうまいぞ」

「チーズですか?」

「チーズは好き?」

「好きです」


 パッと笑顔になったライラに笑いを噛み殺し、絶対ライラが気にいるであろうミルクアイスについては牧場でミルクを飲んだ後に教えようと心に決めた。


 のんびり話しながらミルクティーを飲み終える頃には眠気が徐々に降りてきた。向かいのライラも同じようでうつらうつらと船を漕いでいる。


「そろそろ寝ようか、ライラ」

「あ、はい…」


 はっと目を擦り書類をまとめるライラを横目にカップやポットをテーブルに立てかけてあったトレイに乗せておく。


「ライラ、台所はどこ?」

「わたくしが…」

「置いてくるだけだから気にするな、部屋まで送るからここにいろよ」


 あっち、と指を刺された方に行けばなんとかなるかとトレイを持って部屋を出るとキースが部屋の前で控えていた。


「ありがとうございます、アルバート様。お嬢様は度々こちらのソファで寝落ちてしまって…こちらは頂きますのでお嬢様をお願いできますか」

「はい。ついでに彼女が持っていた書類もお願いできますか、俺が見ていいものかどうか判らないので」

「かしこまりました」


 部屋に戻るとソファに横になってしまっていた。つい居心地が良くて長居しすぎたなと反省しながら横抱きにするとさっきの石鹸水の香りが脳裏をかすめ鼻腔を擽る。ライラがいつも色んな女性がつける香水なんかよりも優しい花の香りを纏わせているのはポプリや石鹸水のおかげなんだろうと思う。

 明日ライラにポプリの話をしたら分けてくれるだろうか、きっとよく眠れる。

 明日のお茶会に楽しみが増えたことを喜びながら部屋をでた。


 そのまま二階に向かい自分に当てられた部屋の向かいの扉を開けると部屋は自分の部屋の配置と逆の配置になっているようで部屋は右手に広がっている。

 しかしその部屋は背の高い本棚が並び、横に動くタイプの梯子が備え付けてあった。梯子の上位には数冊の本が抜かれて置かれ飾りで置かれていないのがわかる。

 机の上には一輪挿しの花が飾られ他にもペン立てにペンが数本。飾り気なくきれいに片付けられていた。


 不意にラッセル兄上の部屋を思い出す。それ程に質素な部屋だったのだ。

 唯一皮張りのソファの上の数個並んだクッションの刺繍が可愛らしい植物やローウェルの地の伝統模様が色鮮やかに飾られているのがこの部屋の主が女性だと主張していた。


 右手側の部屋が寝室だろうと辺りをつけて扉を開けるとやはり若い女性の寝室とは思えないほど質素な部屋が広がっていた。

 ただただシンプルなその部屋には控えめにクローゼットと化粧台が置かれ、レースのカーテンだけの窓からは柔らかな月明かりがさしている。

 そんな部屋の中にたったひとつだけ若い女性の部屋にあっておかしくないがこの部屋に関してだけは異様に浮いているものがあった。


「天蓋付きのベッド…?」

「はい、お嬢様はあまり華美の強いものは好まれないのですがどうしても寝具だけは可愛いものが欲しかったの、と仰られまして」


 あまりに質素な部屋に溜息をついていたメイド達が嬉々として用意したのだ、と後から入ってきたキースが困ったように笑って話してくれた。

 ライラをベッドに寝かせ窓の位置を見る。こちら方角の窓ならレースのカーテンしかないところを見ても朝日がさして部屋は大層明るくなるだろう。

 ベッドの四隅に束ねられた天蓋のカーテンにそっと触れてみると幾重にも重ねられた白地のレースに見えるが隠されたように重ねられたただの布は()()()()()()()()


「…朝起こすのはプルメリアですか?」

「いいえ、プルメリアは朝の支度をしておりますので起こすのは別の者が」

「天蓋は降りているんだろうか」

「降ろしていると聞き及んでおります」

「そうか」


 このレースを、ねえ…


「キース、頼みがあるんだが…」

「はい、なんなりと」






 朝。


「い、いくらアルバート様でも婚姻の儀が済んでいない殿方をお嬢様の寝室にいれるわけには…!」

「そこを通しなさい、ベティ」

「!…はい、キース…アルバート様、申し訳ありませんでした」


 ライラの部屋の前で涙目で頭を振っていたライラと同い年程の少女が毎日ライラを起こし着替えさせる担当になっているのがこのベティというメイドらしい。


「いや、朝から泣かせてしまってすまない」


 扉の前から外れ頭を深々と下げる彼女を気の毒に思いながらも部屋にはいり寝室へ向かうと、部屋は白を基調にしている為かレースのカーテンがかかっているのにも関わらず中はうんと明るくく天蓋はきっちり降りていた。


 天蓋の中を確認するとやはり中は薄暗い。


「キース」


 キースも一礼してから中を覗く。中の薄暗さに目を丸くして大きく頷き部屋を出た。

 それを横目に窓側の幾重にも重なったレース地をガバッと開く。手早く括り部屋のレースも開け放つ。


「…まぶ、しい」

「ライラ、日の光は眩しいものだよ」

「……?」


 うすら目を開けたライラと目が合う。にっこり笑うと目を見開いて飛び起きた。

 そんな蛇を見た猫みたいな反応しなくてもよくないか?


「アッアッアルバート様」

「おはようライラ。ところでこのカーテンは随分厚いようだ」

「そ、うですね…」

「いいたいことは?」

「…メイド(ベティ)は叱らないでくださいませ…」

「わかった」


 こうしてあっさりとライラの寝坊癖も治り、ライラは天蓋を没収されアルバートとキースは女性の寝室に入るとは何事かとプルメリアにしこたま叱られたのだっだ。



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