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馬車の中

 

「セドリックがすまない‥‥根はいい奴なんだがどうも口が悪くて‥‥アメリアのこととなると人が変わるんだ」

「それだけアメリア様を愛して居られるということですわ。とても気さくな方ですし、変にかしこまられるよりずっといいです。アメリア様は素敵な旦那様をもって幸せですね」

「気さくすぎるのがいけないんだ‥‥アレでも仕事はきちんとこなすんだが」

「セドリック様も王宮騎士でしたね」

「ああ、騎士道を重んじるやつだよ。だからそれを理解できないご令嬢とは相性が悪くて」

「ということはアメリア様とは相性が良かったのですね。あの時の号令は素晴らしかったですわ」

「そうだな、ピッタリだったとは思うが‥‥剣の腕もたつし割と未だに性別を間違えて生まれてきたなと思うことも多いよ」


 見た目はおっとりしたご令嬢だったけれどあの号令を見たあとでは何も言えませんね。


「ですがそれなら女性騎士になる道もあったのでは?」

「セドリックが猛反対したんだ。お互い騎士だと休みも合わせにくいだろう?休みは一緒にデートしたいとごねてな‥‥アメリアはアメリアで女性はいずれ子が出来た時には長期休暇か退団することになることを考えたら子供を作りたくなくなってしまうかもしれないからと最終的に意見があったらしい」

「お二方は合うべくしてあったのかも知れませんね」

「確かに。セドリック側がイマイチ締まらないが」

「その分アメリア様がきゅっと締めていますわ。きっと」


 セドリック様がごねてアメリア様が困ったように笑いながらも手綱を引いているさまが目に浮かんでしまった。


 もしかしたら妊娠かもしれないというしお祝いは何がいいかしらと考えているとアルバート様は微かに眉をひそめていた。


「あの、わたくし何か失言をしてしまいましたか?」

「え?あ、いや‥‥あの短時間で君は随分セドリックと仲良くなったなと‥‥あいつだって最初は噂に踊らされた口だというのに‥‥ラブレターなど軽口までいいあって‥‥」


 ぶつぶつと呟くアルバート様に驚きを隠せないでいると下の方を見ていた視線が合う。

 むす、としたこのお顔は‥‥まさか


「あ、アルバート様、もしかして嫉妬してくださってます‥‥?」


 目を大きく開かせると一気に真っ赤になって俯くというアルバート様という未だかつて遠くから見ていた頃にも見たことのないお顔を拝見していると理解するまでに少しかかった。

 だってあの眉以外あまり動かない表情筋をお持ちのアルバート様がこんなお顔されるだなんて思わないではありませんか!


「そんなことは」

「まああのラブレターは陛下方へあのままトーマス夫妻をお泊まりさせて頂けますようにお願いした嘆願書なのですが」

「君はそんなことまでしてくれていたのか?」

「ふふ、部屋の外にいたメイドが顔見知りの方で助かりました。あの状態でお部屋の移動はお辛いでしょうし私の‥‥というよりウォーカー家の名前があれば万が一なにかあっても殿下方がどうにかして下さるでしょうし」


 こういう時こそ使えるものは使っておかないと、と微笑むとアルバート様は目を細め私の頭を撫でながらありがとうと笑って下さった。これは、不意打ち。

 とてつもなく大きな爆弾を落とされました。


 上擦る声を抑えつつ話を変えようと試みる。本来貴族の子供が産まれる時はひっそりと済ませることが多い。貴族の位が高いものほど母子共々命を狙われることもあるからだ。

 けれど少々フライングながらアメリアとは義姉妹となるわけだしこっそりお祝いするのはありだと思うのです。


「男の子か女の子か楽しみですね」

「まだ妊娠と決まったわけじゃないけどな。どちらにせよセドリックがまたうるさくなるのは目に見えてる」

「まあ!うふふお祝いは何がいいでしょうか」

「気が早いよ。妊娠していたとして生まれるのはまだまだ先だろう?」

「だって楽しみなんですもの、わたくし親戚筋に年下の子が居たことがなかったものですから」


 残念ながらお兄様も今のところご結婚のご予定もないみたいですし。


「男でも女でも元気に生まれて来てくれればいい」

「そうですね、きっと元気いっぱいの子になりますわ」

「どっちに似ても騒がしそうだな」


 肯定しようと頷きかけたところで不意に馬車が大きく揺れた。

 バランスを崩し大きく前のめりになったところを向かいに座っていたアルバート様に助けられ事なきを得たけれど何かあったのかしら‥‥

 アルバート様が外に気を張っているためそっと座り直す。いつまでもこうしていたいけれど有事があれば私は足手まといになる。

 しばらくするとアルバート様の後ろにある御者の席と繋がっている小窓が3回ノックされた。


「ああ、有事ではなかったようですわ」

「そうか、よかった」


 ウォーカー家では非常事態のときには素早く5回ノックされる事を告げるとアルバート様は一息ついてから少し小窓を開け外を確認した後ゆっくり開け放つ。そんなに大きい小窓ではないからここから外がみえるのはほんの少しだけれど流れ込んでくる風は心地の良いものだった。

 すると御者をしているキースの隣りに座っていたプルメリアが申し訳なさそうに顔を覗かせた。


「申し訳ありません。お嬢様、アルバート様お怪我はございませんか?」

「大丈夫よ。2人に怪我はないかしら」

「はい、大きい石が数個撒かれておりまして‥‥そのひとつに乗り上げてしまいました」

「馬は大丈夫だろうか」

「動きを止めるそぶりはありませんから大丈夫でしょう」


 アルバート様はよかった、と胸をなでおろす。

 確かにこんな道の真ん中で馬に怪我をされれば身動きできなくなってしまう。辺りを見回せばすでに街を抜け周りに人気はなかった。声だけだがキースも申し訳なさそうに声を上げる。


「道を迂回するべきでした、申し訳ありません」


 確かにここは森と草原の間にある馬車道で道も広ければローウェル領につくのも一番早い。だが片側が森のため賊が出やすいのも確かなのだ。

 けれど今夜は城から引き上げたのも割と早い時間だったこととわたくし以外の3人が腕に覚えがあること、わたくし達の疲れ具合を考慮して2人で決めたルートだと思っている。

 安全重視で時間を気にせず大回りをすれば確かに安全は安全なものの時間が倍かかる。

 どちらがいいかと言われれば断然前者だ。


「わたくし達の事を思ってでしょう?気になさらないでキース。むしろ幸運でしたよ、アルバート様に支えて頂きました。感謝します」

「こら、もう助けないぞ」

「あら、そんな意地悪言わないでくださいませ」


 軽口を叩き合っているとプルメリアが表情を綻ばせた。


「もう少しで屋敷に到着致しますから暴れてはいけませんよ、お嬢様」

「わかっています」


 すぐそうやって子供扱いするんだから。

 小窓が閉まるとなぜかアルバート様の表情が暗かった。


「アルバート様?」

「‥‥あ、いや」


 目が合うもすぐそらされてしまったので首をかしげるも話を変える意味も込めて今夜のお部屋の話を切り出す。


「あ、そうですわ今夜のおやすみになられるお部屋なのですが」


 翳りをみてせいたお顔がが急にキリッとしたお顔になった。まあ、なんて凛々しいのでしょう。こんなに近くで眺められるなんて眼福ですわ


「‥‥ライラ?」

「‥‥あら、失礼を‥‥別邸はまだ寝具類が整っていないでしょう?なのでせめて寝具が整うまでは母屋の方でお過ごしいただいてもよろしいですか?」

「それは勿論、むしろ何から何まですまないと思っている」

「こちらで準備してよろしいのであればご用意いたしますが‥‥ご自身でご用意された方が後から寛げる空間になるかと思いまして」


 結局わたくし達は夜会の準備にてんやわんやしていた為、運び込まれたのは主にメアリー様のお荷物でした。

 ソファやクローゼットと言った必要最低限の家具は備え付けであるものの、リネン物は好みもありますし本人が気に入ったものの方がいいと思ってご用意はしてないのだけど‥‥是非街に降りて掘り出し物を見つけて欲しい。

 これから先、お二人にはこの街で住んでいただくことになるのですもの。わたくしのことはともかくローウェルの街くらいは好きにになって頂きたいのだ。


「いや、配慮してくれてありがとう、ライラ」

「いいえ。幸いローウェルの街は織物の街です。安くて上質なシーツやクッションもたくさんありますからきっと気に入っていただけますわ‥‥あ、よろしければオススメのリネンのお店をご紹介させて頂いてもよろしいでしょうか、ご参考前に」

「いや‥‥申し訳ないが自身で用意しなければならないからあまり贅沢もしてられないんだ」

「一応予算をお聞きしても?」


 誰が聞いているわけでもないのにこそこそと小声で伺うとアルバート様もこそこそと身体を前のめりにして小声で答えてくれた。想像の範囲内だったためほっと胸をなでおろす。


「大丈夫です、きっと後悔のないお買い物が出来ますわ」


 けれど本当はお会計のみわたくしがするつもりなので気にしなくても良かったことを伝えると自分のわがままなのだからとお断りされてしまった。なにか入り用の場合はお申し出くださいとお伝えしておく。


「今夜お泊まり頂くお部屋なのですが、家族用のゲストルームでよろしいですか?」

「ああ、構わないよ」


 本来、王族の許しを得る婚姻の儀のあと夜会に参加する為すでに同じ屋敷で暮らしていることが前提になるので行き帰りは同じ屋敷から出るのが通例だけれど、わたくし達は少々事情が異なるので行きも別々で城で落ち合いあまつさえ夜会の準備すら城の中という始末。

 まあ、わたくしとしてはあの締めに締めたドレスで馬車を乗ること自体が苦しいのでそれが一回で済んだだけで大分助かったのですが。


 そんな顛末の為、わたくし達はまだ婚前状態なので寝室をご一緒には出来ません。

 好きでもない異性と夜を共にするというのは女性男性関係なく遠慮したいことでしょう。

 ただし、家族用のゲストルームは普通の客室より主人の部屋にも近い。それくらいは許してほしい。

 アルバート様は一週間この母屋で過ごして頂くことになる予定でこの一週間の間に別宅の準備を終え仕事復帰後は別宅から通い始めることになります。

 この対応の早さも全ては陛下方のお望みだからこそでこちらとしては大変助かるのですが、王宮騎士団の皆様やアルバート様に多大なご迷惑をおかけしていることでしょう‥‥なにかお礼と謝罪を考えなくてはいけません。


 座席部分の足元側にある隠し引き出しから紙とペンを取り出しクッションの改良の必要性をメモしていると向かいに座っていたアルバート様が目を丸くしていた。


「そんなところに引き出しが?」

「ふふふいざという時に便利だと思いまして」


 加工はウォーカー家で行ったものなので家の中でも限られた人間しか知られていない引き出しなので他の家の者が作っているかはわからないけれど


「この期間に決めておかなければいけないことがいくつかありますし宜しければ明日お時間を頂けませんか?」

「勿論。時間をもらうのはこちらの方だ。仕事の方は大丈夫か?」

「はい、これが落ち着くまではまた家の者に仕事を振り直させてもらいましたので‥‥思っていたより皆快く受け入れ得てくださって助かっています」

「君を心配していたってことだ」

「はい‥‥アルバート様には感謝しております。そうだ折角ですからまたお庭でお茶をしながらにしませんか?この間咲いていなかったお花も咲き始めましたので」

「それはいいな、是非お願いするよ」


 和やかに歓談していると小窓から3回ノックされる。タイミング的に屋敷についたのだろう。時期に緩やかに馬車が止まる。


「ふう、普段の馬車なら苦になりませんがこんなに着飾ったドレスでの馬車はちょっと苦痛ですね」

「そうか、そのドレスは苦しいのか?」

「そうですね‥‥実はこのドレスわたくしも着るのが初めてで‥‥着慣れていないドレスは少々窮屈です」

「話が進むのが早かったからな‥‥俺の話がなければもう少し和やかに話も進んだだろうに‥‥すまな」

「謝らないでくださいまし。私は今幸せなので」


 エスコートされながら馬車を降りて謝ろうとするアルバート様の言葉を止める。あらプルメリア、そんな片眉だけ上げるような器用な真似なさらないで。またはしたないと怒られてしまう未来が横切るではありませんか


「さあ、アルバート様。今日からここに住んでくださるのですから挨拶はただいまでお願い致しますわ」



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