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まずは身の上話をひとつ。

挿絵(By みてみん) 

イラスト:ざらめ 様




 お父様、お母様。

 わたくし、ライラ・ウォーカーは愛しい人を得るために禁忌を冒しました。




 ああその前に我がウォーカー侯爵家とわたくしの身の上のお話をひとつ聞いて下さいませ


 貴族では珍しいとされる恋愛結婚をされたお父様とお母様。

 わたくしはそんな2人の愛を受けて育ちました。恋愛結婚がいかに素敵なことか、奇跡とされることかよく惚気られ‥‥もとい言い聞かせられ存じ上げております。


 歳の離れたお兄様が爵位を継ぐよう、早々に仕事を教えながらお早くご隠居の準備をはじめていっそう仲睦まじい2人。絶対2人でイチャつきたいがために早々にお兄様に継ぎたいのではないかとわたくしは踏んで‥‥いえ、失礼。

 ‥‥しかし、わたくしもそんな結婚をしてみたいと思っていた時期もございました。


 まあ、上級貴族の我がウォーカー家。そう易々とは行かないことも貴族院へ向かう齢10歳も行く頃には諦めておりました。

 わたくしもウォーカー家の端くれ、どこか上級貴族の方の元に嫁に行くかと思っていた花真っ盛りの17歳の春。父の弟君であるエイベル叔父様が神の身元へ旅立たれたと訃報が届いたのです。


 お恥ずかしくも誇り高いことにウォーカー家は治める土地は広いものの代々愛しき者を一途に愛せよ、という先々代のご領主様の遺言により、表向きには第一夫人以外娶ることがあまりないため治めるものも少なく叔父様が統治していた土地に向かわせる人間がおりませんでした。


 残念なことに叔父様は御家族もなくまだ35歳と言う若さで健康なこともあり養子もおりませんでした。

 お父様は悲しみに暮れることも許されず頭抱えておりした。


 とても仲の良かった弟君の早い死を悼むことも叶わないお父様‥‥その姿はとても痛ましいお姿でした。

 わたくしはたったひとつだけ、その悩みを軽くして差し上げることができる案を知っていました。


 わたくしが叔父様の土地を治めることです。


 父は反対しました。ですが昨今、女性が領地を治めるということは珍しくはありません。

 それに叔父様の領地はウォーカー領内の中でも気候も落ち着き王都も近いお隣の土地で向こうの土地にはわたくしも顔なじみの叔父様に長年連れ添い領地経営にも長けている執事やメイド‥‥今なら料理人も皆居ます。

 貴族院にいる間お兄様と一緒に領地のことを勉強したわたくしであれば土地を手放し民を困らせてしまうよりまだいい結果を残せるでしょう。

 分家といえど子を産み子孫を残す意味も込めてわたくしはウォーカー一族にとって他所に出すのは惜しい存在の筈なのです。


 お父様は今の歳で土地を治めようとすれば、土地を安定させるまで働き詰めになることもあり婚期を逃すことを心配しているようでした。ですがそれはわかっていること。

 正直結婚に夢見るのは10歳の頃に辞めましたしね‥‥だったら領地経営に精を出した方が建設的だと思いません?


 お父様が叔父様を思い悼めるよう、本音は隠し説得を試みました。お母様やお兄様の口添えもあり、わたくしは叔父様の治めていたローウェル領を任せて頂くこととなったのです。


 お兄様やお父様、ローウェル領の皆に支えられ土地が安定したと胸を張れるようになった3年後、20歳の春。

 元々織物職人が多かったウォーカー領は気候も人も穏やかなものが多い比較的のんびりした領民性もあり、人口の少なさはあるものの比較的富んだ領地です。

 ローウェルもまた然り。小競り合いは日々あるものの飢饉も天災もなく一息つけたわたくしに結婚話が舞い込んでくるのも当たり前ではありました。





 さてわたくしはまだ貴族院に入ってすぐの頃ひとつの恋を致しました。

 お相手のお方は中級貴族のラッセル子爵のご子息、アルバート・ラッセル様。 3つ年上で騎士を多く排出している北の領地、ラッセル領の8人兄妹の3番目のご子息でした。


 忘れもしない、冬の寒さに耐える木々のような淡い枝のような髪色に夏にその木々を仰ぎ陽の光を透かしたような新緑の淡い瞳‥‥ああ、馴れ初めを語りたいと思いましたがそれは後ほど。

 きっと半日はかかってしまいますわ。

 それほどわたくしにとっては衝撃的で心を揺さぶられたことなのです。


 アルバート様のご卒業までの3年間、わたくしは遠くから見つめる日々を送りました。

 近くで馴れ馴れしくしては本人達を差し置いて周りが勝手に盛り上がり焚き付けたりごまをすられたり相手が断れず無理強いを強いて人間関係にヒビがはいりかねないので‥‥それだけ侯爵と子爵の差は大きいのです。


 そして対してお話することも出来ず彼は卒業。わたくしの恋も終わりました。



 そんなわたくしの恋。

 もう叶わぬと思いながらも王宮へ向かう用事の際、王宮騎士の中にアルバート様を見かけたあの16歳の夏‥‥アルバート様は結婚も婚約もなさっておらず、わたくしはまたあの暖かな恋心を思い出して以来アルバート様をひっそりと追いかけておりました。


 ローウェル領へ向かったあともそれは続きました。


 そして起こってしまったのです。

 ラッセル子爵家の没落の危機が。



 お父様、お母様。

 わたくし、ライラ・ウォーカーは愛しい人を得るため禁忌を冒しました。


 お金でアルバート様を手に入れてしまったのです。


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