表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/167

髪型と服装

 翌朝、柚希に半ば強引に外に連れ出された。

 何処へ行くのかと尋ねると「着いてからのお楽しみ」としか答えてくれず、柚希に引っ張られるような感じで歩く。


 しばらく歩いて、駅前の繁華街までやってきた。

 繁華街といっても大都市の物に比べると繁華街と言っていいものか困るが、一応俺の住む市では一番栄えてる場所なので気にしない。


 結構人が居るのにスイスイと人を避けながらスムーズに歩いている柚希とは対照的に、俺は時たま肩がぶつかってしまい、思うように進めない。

 柚希の姿を見失わない様に必死に後を追うと、柚希は目的地に着いたのかとある店の前で俺を待っている。

 ようやく柚希に追いつくと


「遅いよ~」


 とお叱りを受ける。


「それじゃあもうすぐ予約の時間だから受付に行って予約した佐藤です。って言ってきて」


 と言い、柚希の後ろにある美容院を指差した。


「え? 何で俺が?」

「お兄ちゃんが髪を切って貰うからに決まってるじゃん!」


 いやいや、俺が美容院? 無理無理無理無理! 美容院ってまさにリア充御用達感あるし、店員も凄い話しかけてくるしで、俺の苦手な物の一つだ。

 

「ま、まだそんなに伸びてないし切らなくてもいいんじゃないか?」


 と、小さな抵抗をするが


「ダメ! 身だしなみをキチンとするのもリア充には必須なの」

「それはそうだけど……。店員に何て言って切って貰えばいいんだ? それに話しかけられたとき平常心でいられる自信ないぞ」


 俺の言葉に柚希はニヤリと笑って


「大丈夫! 今日カットしてくれる人はいつも私の担当の人だし、予約する時にある程度事情は話してあるから!」


 なんて用意周到なんだ! と驚いていると


「もう時間だから早く! 1センチ程カットして貰って、全体的に梳いてください。って言えば大丈夫だから!」


 半ば強引に店に入らされた俺は、緊張と元からのコミュ力の無さで店員にどもりながら


「あ、あの……。よ、よ、予約してた佐藤ですが……」


 


 約1時間後、俺はようやく美容院から解放された。

 店員も事情を柚希から聞いていたからだろうか、事務的な事以外は話しかけてこなかった。

 柚希は美容院の斜め向かいにある喫茶店で待ってるという事だったので喫茶店に入る。

 店内を見渡すと二人掛けの席でスマホを弄る柚希の姿が見えたので、柚希の向かい側に腰を下ろす。


「あ、終わったんだ」

「ああ、すげー緊張した」


 柚希はしばらく俺の髪型をジーッと見たあと


「いいじゃん! 髪のセットの仕方も教わったんでしょ? ちゃんと覚えた?」


 おお! 今の俺は良い感じらしい。


「教わったよ。一応セットの仕方も覚えてる。それで俺がワックス使った事無いって言ったらオススメを買わされた」


 何なんだあの巧みな話術は。ついワックスを買ってしまった。将来壺とか買っちゃいそうで自分が怖い。


「ワックス買ったんだ。それなら毎日キチンと髪はセットする様に!」

「春休み中はしなくてもいいだろ?」

「ダ~メ! ちゃんと練習しないと思った様にセット出来なくなっちゃうし、これも特訓だよ」


 まぁ確かに、いざ新学期という時にセット出来ないんじゃ元も子もないよな。

 俺が納得したのを確認すると


「じゃ、次は服を買いに行くからね」


 と言いながら席を立つ。

 洋服店も苦手なんだよなぁ。センスが無い上にここでも店員が絡んでくるし。

 憂鬱なまま俺も席を立ち、何故か俺が支払いをして喫茶店を後にした。


 ショッピングモールに移動した俺達はまたもや柚希先導のもとモール内を迷いなく歩いている。

 どの店が何処にあるか全て把握してるのか? これもリア充に必要なことなのだろうかと考えている内に目的の店に着いた。


「この店が無難かな~。クラスの男子もここのブランド着てるし」


 ああ、俺には縁のなかったオシャレだ。


「どんな服を買えばいいんだ? オシャレなんてさっぱり分からないぞ?」


 そう言うと柚希はTシャツが並んでる売り場に行き


「お兄ちゃんならどれを選ぶ? 選んでみて」


 と無茶振りをしてきた。

 悩んだ末に無地の黒いシャツを手に取る


「これかな。なんか落ち着く感じするし」


 と柚希にシャツを見せると


「無い」


 たった二文字で返されてしまった。


「じゃあどうすればいいんだ?」


 という俺の問いに


「センスが無いならセンスのある人の真似をすればいいんだよ。ファッション誌とか見たりね」


 でも、と柚希は続ける。


「もっと簡単なのはマネキン買いする事かな」


 例えば……と、店内を見渡して一つのマネキンの前まで移動して


「これ一式下さいっていうだけでオシャレになれるの」

「マネキン買いがオシャレなのか?」


 マネキンが着てる服を一式下さいとか逆にオシャレじゃない様に感じたので、柚希に聞いてみると


「マネキンが着てる服のコーディネイトって誰がしてると思う?」


 という質問が飛んできた。


「それは店員さんじゃないのか?」

「そう! 殆どの店はスタッフがコーディネイトを考えてマネキンに着せてるの。スタッフ一人で考える場合や、複数のスタッフが意見を出し合って決めてるの。だからマネキン買いすれば自ずとオシャレになれるってわけ」

「な、なるほど……」

「それに、ショップの店員さんってみんなオシャレでしょ? そんな人達が考えたコーディネイトなんだから大きなハズレはないから安心できるしね」


 マネキンってただの飾りじゃなかったんだな。



 という訳で柚希のオススメのコーディネイトをマネキン買いし、しかも柚希による


「ここで着替えていくんで!」


 の一言により俺は今、さっきまでマネキンが着ていた服一式を今度は俺が着ているのだ。

 元々の服はショップの袋に仕舞った。

 マネキン買いにより俺の財布の中は寂しい状態になってしまった。



 その後、近くのファミレスで昼食を済ませ、やや足早に帰路に就く。

 その理由は


「早くしないと友達が家に来る時間だ!」


 そういえば今日実戦練習するんだったなと思いながら柚希の後を追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ