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転生したら俺が最強だったのに妹ばかりが権力を握ってしまうのだが  作者: 混凝土
第1章 スレイフィール王国編
9/9

8話 生稀、ご立腹?

先週はインフルエンザで投稿出来ませんでした……

申し訳ない……

 

「おいおい……ルイス……あんまり急に突っ込むなよ?」


「あっはは~。まさかあのカトが僕の心配ですか~?」


 後からゆっくり歩いてきた金髪小柄な男 ――カト―― が話しかけ、それを受けた中性的な容姿の人物 ――ルイス―― はあっけらかんと応えた。


「それにしても……まさか聞き込みに来た先の村で反逆中とはなぁ……兄ちゃんも災難だったな?」


 カトは嫌そうな表情を隠そうともせず一人言ちり、同情の視線を颯真に向けた。一方颯真は何が起きてるのか理解できていない。精々何かややこしい状況に巻き込まれた事を理解している程度だ。


 そんな颯真の様子など知ったことかとカトはルイスに向き直る。


「んで?あの村長、()っちまったのか?」


「いやいやまさかぁ~。いくら反逆中とは言ってもむやみやたらに壊しませんよぉ~。一応【カーレィ】領ですし?器物損壊で訴えられては溜まりませんしぃ~?」


 そんな二人の会話を聞いた狂描族達の表情が険しくなる。それは颯真も同様だった。理由は勿論この二人がまるで狂描族の事を、物扱いしていることに嫌悪感を抱いたからだ。しかも二人の言動が、まるで常識だとでも言うようで、一切の悪気を感じさせないものだったせいで、より颯真の嫌悪感を大きくしてしまっていた。


 事実、二人には一片の悪気もなかった。本心からそう言っただけだ。しかしこの二人の言動を責めるなど、些か酷というものだった。


 このスレイフィール王国に於いて、【人類種(ヒムリッシャー)】以外の種には所謂人権が認められていない。【人類種】以外の生物は労働力であり、欲望の捌け口であり、換えの効く道具であり、それぞれの領主の財産であるのだ。それ以上でもそれ以下でもない。


 そしてそれはスレイフィール王国における常識であり、共通認識であった。


 もっとも、昨日この世界にやってきた颯真達にそんなことを知る由もなく、当然そんな考えを許容できるはずはない。確かに外見や身体能力など、人間とかけ離れた部分もあるが二人の目には大筋が人間と同じだと見えていた。生稀などは生粋のオタクであったし、兄の颯真もそんな妹の影響を少なからず受けていたので、ファンタジー世界の人外は比較的受け入れやすかったのだ。もっとも颯真は半分諦めたようなものだったが。


 だからこそ、颯真自信険しい表情をルイス達に向けてしまっていた。


「……?どうした??そんな顔して」


「…………」


 そんな颯真の感情など思いつきもしないカトは訝しんだ表情を見せる。しかしそんなカトの問いかけに颯真は応えない。狂描族の悲壮な心の叫びの一端を垣間見た颯真としては、狂描族に味方したいと個人的には思っている。しかしこの世界を一切知らないのも事実。狂描族達の具体的現状の一つとして分かっていない以上、何を問えばいいのか、どう反応すれば良いのか。それが分からなかったのだ。


 自分の僅かばかりのファンタジー知識を考慮に動員すれば、この場面で一度狂描族の味方をしただけで、人類の敵と見なされてしまう可能性も完全に否定できなかった。


 そんなことを考える颯真は自然無言になっていた。そんな様子の颯真を見たカトは「まあ、いっか」と肩を竦めながら呟いた。


「それでぇ~?そこの君はどうしてそんな獣に近づいてるんですかぁ~??」


 その言葉が紡がれた瞬間、全員の視線が自然とルイスが話しかけたであろう相手に集中した。

 その視線の先には微笑を浮かべ、ガウラの傍らに佇む生稀の姿があった。


「……何したの??」


「……ん?あぁ~そこの獣のことですかぁ~??お仕置きですよぉ~魔法でちょちょっとね?」


「……どうして?」


「そんなこと……反逆中だからに決まってるじゃないですかぁ~?まぁ、管轄外ですけどぉ~?一応後から直属のフラスさんも来ることですし~。まぁ大丈夫ですよ。壊しさえしなければ」


「ふーん……まぁ貴方たちの事なんてどうでもいいけど」


 一切微笑を崩さない生稀はそんなことを言う。さんざん質問しておいて、どうでも良いとはどういうことだと若干ルイスの表情が引き攣った。


 だがそれ以上に表情がおかしい者が居た。


 颯真である。彼の表情はそれはもう盛大に引き攣っていた。何故か?その理由は至って単純。生稀の心境が兄である颯真には手に取るように分かっていたからだ。


 すなわち ―――生稀がキレている――― と。


 フラッシュバックするのは、生稀が元の世界でキレた結果兄である颯真が色々と厄介事に巻き込まれ、幾度となく事後処理をする羽目になった、苦労の絶えない日々。そんな風にキレた生稀を何度も見てきた颯真としては、キレたというサインをしっかりと理解していた。変化しない微笑というサインを。


 二年前生稀が虐めによって不登校になってからそれは収まったが、不登校と言うのもいただけないと、盛大に頭を悩ませた兄だったがそれはひとまず置いておこう。


「……どうして、貴方たちはこの人達のことを獣とか……物扱いしてるの??」


「……は??いやなんでって……事実道具だしなぁ??」


「……………………そ。…………分かった」


 不思議そうなカトの応えにたっぷりと間を取って生稀は応える。


「なら……その考えをへし折ってあげるっっ……!!」


 刹那、生稀の姿が消えた……と錯覚してしまうほどの速度でカトの目前に迫っていた。先程まで居た生稀の地面には直径五十センチメートルほどのクレーターが出来ている。


「っっ!?」


 先程ガルラが見せた速度などとは比べるのも烏滸がましいほどの加速から繰り出された生稀の拳に、カトは一切の反応が出来なかった。そしてその結果 ――ズザザザザアァァッッ―― と吹っ飛ばされることになった。


 そのまま隣のルイスに回し蹴りを繰り出そうとする生稀。しかしそれはルイスに当たる寸前で受け止められる。一瞬訝しんだ生稀だったが、ルイスの身の回りに薄らと魔方陣らしき物が現れていることから、魔法の一種だと納得した。そんな生稀を余所にルイスは片手を生稀の眼前に翳す。


「基の理に干渉するは炎が調べ【炎円陣(フレイムホールド)】!」


「ん。詠唱は初めて聴いた……」


 そんなことを呟きながら、己を包むように燃え上がる炎に若干興奮する生稀。確かにキレているに変わりはないが、その程度で生稀のファンタジー魂に揺らぎはないようだった。


 生稀はメラメラと燃え上がる炎に片手を翳しながら呟く。


「……ばっしゃーん」


 そんな呟きと共に生稀の手から溢れ出す圧倒的な水流。それは ――ドドドドドドッッ―― と重い音を響かせながら押し寄せ、大津波を彷彿させるようだった。そして更にそれは、ルイスの作りだした【炎円陣】をあっさりと打ち破ってしまったのだ。


「……はい??」


 そんな間抜けな声を漏らすルイス。だがそれも仕方のないことだろう。なにせ目の前の少女が放ったと思われる魔法がこの村全域を軽く水没させてしまっていたのだから。目の前では「むぅ。出力の調整が難しい……」などと唸る生稀が不満そうな表情で佇んでいるのだ。


「えぇっとぉ~?……一応聞きますけどこれ魔法ですよね??」


「ん。当たり前」


「いや、待ってくださいよ!?君みたいな幼い子が魔法を使えるなんて……いや、そこは百歩譲ったとしてどうやったらこんな出力の魔法になるんですか!!しかも「……ばっしゃーん」って。何ですか!?ふざけてるんですか!!??」


「ん。これが生稀の力」


 なにやら涙目で絶叫しまくりながら律儀に生稀の物真似をするルイスに、生稀は無い胸を張って得意そうにしている。最早生稀の心境としては狂描族の物扱いに対する怒りよりも、魔法使い同士の戦闘が出来ている喜びが勝っているようだった。


 それに対して、完全に蚊帳の外となり困惑する狂描族達やフゥ。村を水没させた責任からどう逃れようかと、頭を抱えながらその場で小さくなる颯真。果てには生稀の一撃で気絶したカトが水にプカプカ、同じく気絶したガウラが ――スイッーー ―― と流されている様はとてつもなくシュールだった。

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