第一章「故―ユエ―」 5
……朝。
「帝ぉぉおおおおお!!!!」
月ノ宮 姫神の声、というか雄叫びで俺は起こされた。
ドタバタと足音がし、俺の部屋のドアが開いた。
「起きて! もう朝だ!」
畜生。うるせぇな。
あぁ、朝は嫌だ。
眠くて仕方がない。
だから俺は寝起きは機嫌が悪いんだ。
あ゛ぁ?
と、睨もうかと思った。
でも止めておいた。
なざならその前に聞くことがあった。
さっきまでは無かったが今はあった。
そう、それは
「・・・お前、歳戻ってるよな?」
姫神・・・ちゃんの見た目は7歳に戻っていた事だった。
小さいとは言えど成長期だ。
かなり違う。
顔の幼さ加減とかは昨日のほうがいい感じに可愛い。
感じもなんだか昨日の方がよかった。
・・・て、別に俺のロリコン趣味を語るわけではないが。
それ以前に俺はロリコンじゃねぇし。
一人で馬鹿な事を考えていたら返事が返ってきた。
「うん、そうみたいだ!」
姫神・・・ちゃんは元気に無邪気な笑顔で答えた。
ははっ、子供ならではの純真無垢な笑顔か。
眩しいですねぇ。俺にはできねぇや。
今の言葉、少し自虐的だっただろう。
「そうだ、なぁ姫神・・・ちゃん?」
「姫神でいいぞ?」
「・・・じゃぁ姫神はさ、今の状況どう思ってるわけ?」
気になってもおかしくないと思う。
なんてったっていきなり自分の体が成長したり戻ったり
そんなこと俺だったらパニくって叫びそうだ。
「え?おもしろいよー」
ヘラっと笑って言った。
成程。俺は納得した。
こいつ、こんな状況において楽しんでやがる。
やっぱり餓鬼だな。
今度は少し嘲笑い気味で思った。
はっ、俺の夢の時間を邪魔した罰だ。
「帝はー? どうなんだ?」
「俺の名前は晴栄だっつの」
いつまでも帝と呼ばれてても困る。
と、俺は言った。
しかし、俺のささやかな罰は全くもって無意味だったらしい。
「えー、じゃぁ晴栄。このこと思ってんだ?」
「よし、俺は正直あまり状況が飲み込めていないな。」
名前を読んだことに満足してキッパリと言った。
情けないキッパリさだ。
自分でも自覚している。
「だいたいこの状況で何を理解しているかなんて言葉上でしか分かってないし、
実際に見たのはお前の成長だけだしさ。だいたいかぐや姫だのその恋人だと
あっさり信じる方がどうかしてるぜ。俺はそんなに素直じゃないんだ。」
うん。理屈的には間違ってないだろう。
俺はひねくれ者だからな。
「ふーん。まぁいーや」
その時下の階、リビングから親父の声がした。
「おーい。もうメシにするぞー」
ちなみに今日は土曜だから学校もなければ会社もない。
親父は大工だから土曜ということ自体は関係ないのかもしれないけど
今日は休みらしい。
「はーい」
俺と姫神でいいお返事。
リビングに行ったらもう姫神のママさんが朝飯を作っていた。
おいおい、まるで夫婦みたいなことしてんじゃねぇよ親父。
相手は人妻だぜ? お前にゃ無理だからな。
静かに哀れの目で親父を見ていたら睨まれた。
「簡単なものだけどね、何か作らないと失礼でしょう?」
綺麗な顔をで綺麗に微笑をしたママさんは、まるで女神のように美しかった。
言いすぎのような気もするが、なぜこの美貌に昨日は気づかなかったのだろう。
・・・おい、俺はアホか。
親父がニヤニヤ笑っていた。
畜生、糞親父め。
「さ、さめる前に早く食べちゃいましょう」
穏やかな言い方に少しうっとりしつつ俺は「いただきます」と食べることにした。
メニューは、鮮やかな色のオムライス、スープ、サラダ、となかなかフレンチだった。
見た目と同様、味も最高だった。
「あ、そうだ。姫神さ、なんか元に戻ってんだけど?」
俺は食いながら言った。
「何言ってんだよ。当たり前だろ」
当たり前らしかった。
親父の言い方にムカついたからそれ以上は追及しなかったが
ママさんが教えてくれた。
「姫神の変化は夜の間だけなのよ。今はね」
なんだか意味深な言い方だった。
でも流石ママさん。
気づかいばっちりだ。
感心しながら俺は食べ続ける。
「よし、それ食ったら姫神ちゃんと晴栄は俺と修行に行くぞ」
親父は立ち上がって仁王立ちの態勢で偉そうに言った。
「「は?」」
姫神と俺の声が重なった。