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第17話 いざ王都へ



 「これから隣国フロレアル奪還のための反抗作戦をおこなう。同国に駐留する公国軍を撃滅することができれば王国本土への侵攻は不可能になるからだ。今度はほかの艦隊も合流し大規模な作戦になる。」


 司令部から派遣された戦略将校は作戦概要を説明していた。やっと中央も戦力の逐次投入は無意味なことを理解したのか。次の戦いは両軍の総力をかけた大規模な先頭になりそうだ。ブリーディングが終わり解散となった。他の隊員は艦艇の整備や訓練に戻り、残ったのは俺とシャーロ、マリーの3人だけとなった。


「私は王都アルスメリアで執務があるの。あなたたちは、ゆっくり過ごすといいわ」マリーは書類の束をまとめながら言った。


『王国の首都アルスメリア』王国の東海岸に位置し100万を超える人口を擁する政治と経済の中枢だ。王宮や議会もあり、彼女は王家に関わる執務があり戻るそうだ。実に2年ぶりらしい。

「家族にも会えるな」

「別に……ただ仕事だから戻るだけよ」遠くを見て悲しそうな顔をした。


「俺たちもついていっていいか」

「私もお供していいでしょうか」


 何はともあれ、次の作戦までは時間がある。マリーが王都に戻るのならシャーロとともについていくことを提案した。

「なんであんたたちもついてくるのよ」いかにもめんどくさい、といった口調のマリー。しかし日程表を確認し始めたってことはまんざらでもないのだろう。


「いいじゃないかどうせ暇なんだし。俺だって王国民なんだから自分の国の首都くらい見てみたいだろ」と俺がいうと

「私はレイ少佐の部下ですから。少佐にお供するのは当然です!」とシャーロも続けた。


ちなみに、この前の活躍で俺は一階級昇進していた。現実世界ではありえないスピード出世だ。


「はあ…、いいわよ、ただ私は忙しいからあんまり相手はできないわ」

「そうか、残念だな」 

「残念です…」 俺とシャーロはわざとらしく肩を落とす。


「もう、しょうがないわね、執務がすんだら観光に付き合ってあげるわよ」

仕方ないわねといった風に彼女は髪をかき上げる。


「そうこなくっちゃ!」俺は小さくガッツポーズをする。


「嬉しいです!」シャーロも嬉しそうにパタパタ跳ねた。


 王都へは航空戦艦ではなく、鉄道を利用した。地上を長距離移動するのはこの世界にきてから初めてだ。レインフォース中央駅につくと巨大な機関車が2階建ての客車を引いて入線してきた。中に入りとまるでホテルのように赤い絨毯が敷き詰められ、個室が並んでいた。この列車はエルシオン連合王国を東西に4日かけて繋いでいる半大陸横断鉄道だ。


 戦いに行くわけではないので、皆観光気分で浮かれている。車内ではボードゲームをしたり、王国の観光地や名産品についての話を聞いているうちにあっという間に時間はすぎて行った。寝台列車に揺られること4日、目が覚めると丘の上にたつ巨大な城が遠くに見えてきた。王都アルスメリアはすぐそこだ。


 アルスメリアは想像以上に巨大な都市だった。王宮を中心に東西南北に4本の街道があり碁盤の目のように綺麗に整備されている。


 「早く行きましょう!」シャーロが目を輝かせながら俺の手を引く。レインフォースの街では見ることのできなかった珍しい食材や土産物が店のショーウインドウを彩っている。しばらく王都を満喫した後「すぐ戻ってくるわ、あなたたちは楽しんでいてね」マリーは少し浮かない顔をして王宮へ向かっていった。


 王宮でマリーは注目の的だ。どんな貴族や高官でもその姿を見ると皆振り返る。なんといったって半壊した第5艦隊単独でシュティルゲン公国の大軍勢を退けたのだ。第4王妃の末娘という王室の中では弱い立場であるものの、今や王国内では救世主扱いされている。今回の王都への招集も先の戦いの功績を称える叙勲式のためだった。


 

 王宮の広間に多くの貴族や軍の高官が揃った。場が静まるとカールした金髪に無数の勲章を身につけた男が王宮に入ってくる。第一皇子ヒュリー・エルスラント・アークライト、現在この国の実質最高権力者であり次期国王の第一候補だ。彼はマリーのもとに寄ってきて囁いた。


「今回の戦果は大したものだな。お父様も喜ばれている。だがいくら成果をあげ英雄扱いされたところでお前がアークライト家で最も劣る存在だということを忘れるな」


 軽蔑の目線でマリーを一瞥する。本当は彼女に勲章など渡さずに王宮の門前で追い払いたいくらいに思っているようだ。


「はい、お兄様。私のようなものの功績を称えていただき光栄です。」

 彼女は唇を噛み締めて傲慢な兄の後ろ姿を睨みつけた。


 エリシオン王国を7代に渡って統治するアークライト家は高名な魔術家系だ。初代ハーマットアークライトは生まれながらに稀有な魔力を持っていた。その力でいくつもの小国を束ねエリシオン連合王国の礎を築いたのだ。

 魔法が直接戦争の道具として働かなくなった今でも、魔力を持つというのはこの世界で特別な意味合いを持つ。そういう面で王家の者は強大な魔法使いでなければならないのだ。


 しかし、末っ子のマリーは生まれつき魔法が使えなかった。周囲に疎まれ続け母親も遂には気を病んで自ら命を絶ったのだった。王宮内で孤立無援となった彼女は生き残るため勉学に入り士官学校を飛び級で卒業。最前線で戦う軍人となった。


 華々しい戦勝の祝賀会。だがその裏には魔力を持たぬ王族への差別が渦巻いていた。



 数日がたち執務のため途中で別れた彼女が帰ってきた。王室での行事や人間関係は過酷なものがあるのだろう。目の下にクマができ、少しやつれたようにも見える。


「マリー艦長お帰りなさい!叙勲式とってもカッコよかったですよ」

「お疲れ様!お前がいなくて寂しかったぞー」二人で声をかけるがその返事は弱々しいものだった。


「……ただいま」


「何か辛いことがあったか?」


「別に……なんでもないわ」

あまりに落ち込んでいてかける言葉もない。本当は王宮の話でも聞こうと思っていたのだが……こんな時の解決策はこの世界も現実世界と同じだ。


「とりあえずどっかで飲むか」


「そうするわ」


 店に入ると彼女はひたすら飲み続けた。幾つもの空のグラスが机に転がっている。彼女はまだ10代だがすでにこの世界ではすでに成人しているのでアルコールを飲んでも問題ない。暴飲暴食と愚痴の嵐、普段の姿からは想像もつかない荒れ方だ。しかし小さい体でずっと重圧に耐えていたのだ。せめて俺らと飲むのがストレスのはけ口になるなら安いもんだ。


数時間飲み続けてベロベロに酔ったマリーの介抱はなかなか困難なミッションだ。


「どうせ、私は要らない子よー!死んでも誰も悲しまないわ」他の王族によっぽどひどいことを言われたのだろう。彼女は大層不貞腐れていた。


「そんなことないぞ、マリーは本当にいい子だ」頭をポンポンとたたきながら慰める。


「そうなの、ならお嫁にもらってくれる?」酔っているからだろうが無茶苦茶なことを言い始めた。姫さまのとんでもない発言に店主も思わずこちらを振り返る。


「理論が飛躍しすぎだ、確かに俺はお前の部下だが……さすがに私生活の面倒までは見切れんぞ。」


「これまでお世話してあげたのにひどいわね、育て方間違えたのかしら」こちらの腕をポコポコとたたいてくる。


「ハハハ……、あんたは俺の母親か」


「私もレイ少佐のお嫁さんに…フフフフッ、でも母親になって可愛がるのも悪くありませんね」


「シャーロまで何言ってるんだ」


顔を真っ赤にしながら騒いでいる姿を見て安心する。何はともあれマリーの普段の明るさがだいぶ戻ってきたようでよかった。


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