第95話逃げられた会長と保護された晃子
晃子に「逃げられてしまった」会長は、いまだにせせら笑っている。
「ふん・・・どこにもいけるものか」
「どうせ、いく所もない、今夜じゅうに帰って来る」
「はねっかえり女を、弄ぶのも面白い」
そう言いながら、ピアノに手を置いた。
「それにしても、あの高校生とかいうガキ・・・」
「こんなに完璧に調律したピアノの何がおかしいのか」
「そのガキは耳が悪いのか」
「よくわからんが・・・」
会長は携帯を取り出した。
画面には晃子の部屋が映っている。
シャンデリアからの録画を見ようと思った。
「・・・」
「ありえない」
会長の顔色が変わった。
今日の午後七時までの部屋の録画は再生できる。
しかし、それ以降の録画が何もない。
「うーん・・・理由がわからない・・・」
首を傾げる会長の携帯が鳴った。
晃子のマネージャーからだった。
「会長・・・晃子さんが出て行きました」
マネージャーの声が震えている。
「ふん・・・そうか・・・」
会長は鷹揚に応える。
出て行ったとしても、すぐに戻って来ると考えている。
「どうしましょう」
マネージャーは対応を求めて来た。
「まあ、気にするな、そのうち戻って来る」
「ただ、一応追わせろ、見つけたら縛りつけておけ・・・」
会長の顔も声も怖い。
「・・・はい・・・」
マネージャーは恐ろしくて震えている。
「それより・・・どうして・・・無いんだ?」
会長は携帯を切った。
そしてピアノの中をあちこち触っている。
やっとマンションを出た晃子の前に、光と学園の校長が立っていた。
既に午後八時半を過ぎている。
「光君、校長先生・・・」
晃子は、何故校長までここに立っているのか理由はわからなかった。
しかし、心配そうに見つめる二人の顔を見て、少しホッとした。
そしてホッとした瞬間、再び涙が溢れて来た。
「さあ、車を準備しました」
「早く乗ってください」
校長は晃子に声をかけた。
「え?」
晃子は状況を理解できない。
しかし、光と校長の後ろに確かにタクシーが停まっている。
「晃子さん」
光は晃子の手を握った。
そして、校長も一緒にタクシーに乗り込む。
「あれ・・・」
晃子は驚いた。
光と校長がマンションの前にいたことも驚いたが、祥子が乗っているのである。




