第93話嫉妬深い会長が突然に・・・
晃子はキョトンとなるけれど、光に聞き返す間もなく、スマホが鳴った。
「ん?誰だろう」
晃子が光から離れてスマホに出ると、マネージャーの声。
「どうしたの?」
晃子はマネージャーに尋ねた。
「晃子さん、会長がお見えです」
マネージャーの声が震えている。
「わっ・・・」
晃子の表情が変わった。
晃子とて、会長の嫉妬深さは知っている。
何としても、すぐに光を逃がさなければならない。
ここでトラブルになったら、仕事も光も失ってしまう。
晃子は焦った。
「光君・・・」
晃子は走ってピアノの所に戻った。
「あれ?」
しかし、光はいない。
鍵盤にメモが挟んであった。
「ありがとうございます、今日はこれで帰ります」
「それから、ピアノの音が変なのは調律ではありません」
「詳しくは、いずれ 光」
晃子が慌ててメモをポケットにしまうと、ほぼ同時に会長が入って来た。
「ふーん・・・」
見るからに精悍な体形、顔つきをした「会長」が入って来た。
いつもと異なり、部屋のあちこちを見回している。
「あ・・・会長、どうかなされましたか?」
晃子も気になった。
「・・・だれか来たのか?」
そう言いながら、相変わらず部屋のあちこちを見回している。
「あ・・・はい・・・今度の学園コンサートの関係で、指揮者と少し練習を」
晃子は、素直に応えることにした。
下手に隠していると、バレた場合の会長の態度が恐ろしい。
それに、さすが化粧品会社の会長である。
おそろしく鼻が利く。
若い男の匂いなどは、すぐに察知する。
しかし、一緒に練習したのは光であり、まだ高校二年生、晃子としては会長の嫉妬の対象ではないと思っている。
「・・・そうか・・・」
会長は晃子の目を見つめた。
「それで今帰ったばかりだな・・・」
会長はピアノのところに向かった。
「はい、練習は三十分程で」
晃子は素直に応えた。
会長の嗅覚に驚いている。
「三十分?どうしてそんなに短い?」
「わざわざ、ここまで来て、どうして三十分で帰るんだ」
会長は、どうにも理解できないといった顔をする。
「ああ・・・ピアノの調律が変とか言っていました」
「それで、すぐに帰ってしまいました」
晃子はここでも素直である。
「何?ピアノの調律?」
またしても、会長は理解できないようだ。




