第91話光の様子に変化が・・・
「でも、万が一あるからなあ・・・」
女性マネージャーはひとつ不安があった。
化粧品会社会長は異様に嫉妬深い。
晃子が男性指揮者とにこやかに笑っているだけで、機嫌が悪くなる。
それなのに、ホテルで一緒に食事をして、マンションの晃子の部屋で光と二人きりの練習がばれたら、どんなことになるのか、それが不安になる。
「晃子さん・・・」
一応不安のため、晃子に声をかけた。
「なあに?」
晃子は、相変わらずハイテンションになっている。
「うん、取りあえずね、サングラスはしておいてください」
「食事の間はずっと・・・」
「ばれると面倒ですから」マネージャー
「うん、わかった」
晃子は素直にサングラスをかけた。
もう、光を捕まえれば上機嫌、いつもの我がままさや、反発は何もない。
そしてホテルで高級フレンチを食べ、晃子のマンションに光を連れ込んでしまった。
「さあ・・・どうぞ、ここで」
晃子はドキドキ感を抑えられない。
顔も紅潮しきっている。
「あ・・・はい・・・」
しかし、光は何も感じないのか、いつもの通りボーッとしている。
それは、ホテルでの高級フレンチの時も同じ。
晃子が顔を赤らめていろんな話をするけれど、多少微笑むだけで、相槌も適当。
ただ、その適当さが、既に心を光に奪われてしまった晃子にとって、より惹かれる要因になってしまった。
「うーん・・・もう練習よりソファかベッドがいい」
晃子は、もはやアブナイことまで考えている。
「わあ・・・すごいピアノですね」
既に「個人的にのみ」盛り上がっている晃子をほとんど見ないで、光はグランドピアノに向かう。
「スタインウェイだ・・・」
すなわちピアノの最高峰が置いてある。
さすがは、超一流化粧品化粧品会社がバックと思う。
「・・・う・・・練習する?」
晃子は、既に練習など面倒になっているけれど、練習を名目に「連れ込んだ」以上、多少は音を出さなければならない。
表面上はニッコリ、内面では面倒に思いながら、モーツァルトの譜面とヴァイオリンを引っ張り出した。
「じゃあ、軽く合わせましょう」
光は、すぐにピアノを弾きはじめてしまう。
「う・・・始まっちゃった」
始まってしまったものは仕方がない。
晃子も、プロの音楽家、光のピアノに合わせて弾きはじめる。
「うーん・・・祥子さんも言っていたけれど・・・」
「ピアノ伴奏もいいなあ・・・、弾きやすい」
「この子、専属の伴奏者に出来ないかなあ」
さっきまで心を占めていたアブナイ思いは薄れている。
それ以上に、光とのモーツァルトが楽しくて仕方がない。
「これなら、何時間でも弾いていられるなあ」
晃子はますます、光が気に入ってしまった。
「うん、モーツァルトだけでなく、ブラームスとかベートーヴェンでもいいかも」
そう思って光を見る・・・しかし、光の様子が何かおかしい。




